[ オピニオン ]
(2017/3/27 05:00)
インド、米国(ニューヨーク、カリフォルニア、ボストン、テキサス)、英国、中国、南アフリカ、日本、チェコ、インドネシア、豪州、台湾、ルクセンブルク、韓国…。
米サンフランシスコで24日に開催され、日本代表のユニファ(名古屋市中区)が優勝を飾った「第1回スタートアップワールドカップ(W杯)」。決勝大会のステージでは、さまざまな国や地域の予選を勝ち抜いた気鋭のスタートアップ15社が、自慢のビジネスモデルや技術・サービスについて熱のこもったプレゼンを行いました。
米国ではテロの防止を理由に、難民や移民の入国に制限を設けたいトランプ政権と、優秀な人材の米国への流入が細ることでイノベーションの減速を懸念するシリコンバレー企業との対立が際立っています。この件ではどうやらトランプ大統領に分が悪そうですが、W杯での世界各地のスタートアップの活躍ぶりを目の当たりにするにつけ、新たな価値を作り出し世の中を変えていくのにグローバル化と多様性は欠かすことのできない大きな要素だと、あらためて感じた次第です。
そもそも、今回のW杯の主催者である米フェノックス・ベンチャーキャピタル(カリフォルニア州サンノゼ)は2011年の設立ながら、米国だけでなく、欧州、日本を含む東アジア、東南アジア、中東などにも手広く投資しています。米国のVCとしては珍しく、日本企業に投資するのは、共同創業者でゼネラルパートナーのアニス・ウッザマンCEO自身が東京工業大学、そして大学院博士課程は東京都立大学(現首都大学東京)の出身で、「日本にお世話になった恩返しをしたい」という強い思いからだそうです。
ここで、もし、ウッザマン氏が日本に留学しなかったとしたら、日本企業に投資しようという動機も生まれなかったかもしれません。また、巡り巡ってユニファがW杯で投資賞金を獲得できたのも、こうした人材のグローバル化が背景にあったからこそと言えるでしょう。その上で同氏は、「世界中のスタートアップにコネクト(接続)するプラットフォームを作りたい」とW杯開催の目的を強調します。確かに、そうでもしないと企業向けマーケティング調査プラットフォームを提供する「delvv.io」のような、南アフリカの会社と知り合いになるチャンスはなかなかないでしょう。
一方、決勝大会が行われたサンフランシスコの南に広がるシリコンバレーはよく知られている通り、世界のスタートアップや起業家、イノベーションのアイデア、技術シーズが集中する巨大なハブ(交流の中心地)となっています。そして、W杯のイベントで登壇したアーリーステージ投資のベンチャーキャピタル、イニシャライズド・キャピタル(サンフランシスコ)の共同創設者兼マネージングパートナーのゲイリー・タン氏は、こうした現象が加速している要因の一つにYコンビネーター(マウンテンビュー)の存在を挙げます。
Yコンビネーターはスタートアップに少額の資金を投資しながら集中的に育成・指導するシードアクセラレーターとして有名であり、タン氏自身も2015年まで5年近くパートナーを務めていました。
「世界中でスタートアップが起業している中で、シリコンバレーだけが必ずしも成功できるというわけではない。ただ、Yコンビネーターは素晴らしい場所だ。今週、Yコンビネーターが開いたデモデイ(優れたビジネスモデルを選出するためのアイデア発表会)では、40%が米国以外に本社のある企業や、マーケットの対象が米国以外という企業で占められていた。世界中に成功のチャンスがある。投資先のスタートアップのオフィスを訪ねて見ると、世界中から集まったテック企業がマウンテンビューや、(サンフランシスコ市内の再開発地域である)SOMA(ソーマ)のビルに所狭しと入居している」
「ではなぜ彼らはシリコンバレーにやって来るのか。ここで3カ月間、高いレベルの指導を受けながら、シリコンバレーのカルチャーを吸収し、世界中から集まっている優秀な起業家に会って交流し、彼らの最高の製品に触れ、人的なコネクションを作り、大いに学んで自国のマーケットに戻っていく。こうした活動が世界のスタートアップに火をつけている」(タン氏)。いわば情報と人材と資金が交錯する、テクノロジーの巡礼地のような位置づけでしょうか。
ユニファの土岐泰之社長はスタートアップW杯で優勝が決まった直後に、「日本の保育園の問題がビジネスのテーマなので、日本だけの話と思われるのではないかと心配していた」と話しました。実際にはそれどころか、「保育園+IoT」が他にはない、非常にユニークなアイデアだと審査員の高い評価を獲得。他の国にもビジネスモデルを展開して事業拡大する、つまりはスケールする可能性を秘めている内容だと判断されたわけです。
「日本の常識は世界の非常識」。多くは悪い文脈でこうした言い方がされます。ところがユニファの場合、「世界の非常識」と自ら思い込んでいた取り組みが、実は非常にユニークだったという、価値の逆転現象の好例となりました。
例えば、W杯決勝大会には出場しませんでしたが、懇親会に参加していたウクライナのソーラーギャップという会社は、窓の外に付けるブラインドに太陽光発電パネルを組み込むビジネスモデルで、世界展開を狙っているとのこと。世界進出の裏にはウクライナが太陽光に乏しいという事情もありますが、「太陽光発電では誰もが屋根にパネルを設置できるわけではないし、建物でも垂直部、特にガラスの部分は有効活用されていない。我々の製品はそのギャップを埋めることができる上、国際特許も取得している」。こう話すマリアナ・ミハイリシナ最高マーケティング責任者(CMO)は、日本市場にも興味津々の様子。もしかすると日本で売れるかもしれません。
前述のようにスタートアップに関わる情報、人材、資金が集まるシリコンバレーのトレンドに目配りしたり、VCやアクセラレーターなどからきめ細かい指導を受けたりすることはもちろん大事ですが、それだけで独創的なビジネスモデルが生み出せるわけではない。トレンドや常識にとらわれず、顧客の潜在ニーズをとことん突き詰めながら、「独創は辺境から生まれる」という視点も大事にしたいものです。
(デジタル編集部長・藤元正)
(2017/3/27 05:00)