[ オピニオン ]
(2017/4/24 05:00)
実はオートデスクのギャラリーに展示されたスポーツシューズは、米スポーツウエアブランド、アンダーアーマーが2016年3月に創立20年を迎えたのを記念して、米国で限定発売したトレーニングシューズの「UAアーキテック」でした。
その赤いヒール部分は3Dプリンティングで製造され、複雑に絡み合った植物の根のような中空格子(ラティス)構造をデザインに採り入れることでクッション性と耐久性、軽量化を同時に実現。ここに、オートデスクが開発した「ジェネレーティブデザイン」という立体形状の自動生成機能が生かされています。
ジェネレーティブデザインとは、その言葉通り「デザインを生成すること」。競合他社も似たような機能を提供してはいますが、オートデスクでは製品の軽量化だけに狙いを定めるのではなく、重量、荷重、範囲などの条件をソフトウエアに提示した上で、植物や生物といった自然界に見られる形状をもとに、機械学習のアルゴリズムがいくつもの最適デザインを提案してくれる点に特徴があるといいます。
同社製造戦略マーケティングディレクターのステファン・フーパーさんによれば、モノづくりを取り巻く状況が大きく変わってきている三つの理由のうちの2番目が、3Dプリンティングとジェネレーティブデザインの登場。ほかの二つは、(1)製品ユーザーに加え、アジャイル(機動的な)開発が求められる設計開発プロセスでのクラウド環境の進展、(3)デスクトップマニュファクチャリングといい、とりわけジェネレーティブデザインについては、「製造の制約から(モノづくりを)解き放ってくれる」(フーパーさん)とそのメリットを強調します。
その上で、オートデスクがかかわったジェネレーティブデザインの主なものとして、アンダーアーマーのシューズのほか、欧エアバスの航空機「A320」に導入されるパーティションや、自転車での応用事例を紹介しました。A320では、客室内のギャレー(調理室)と乗客用コンパートメントとを仕切る金属パーティションの設計・製造でエアバスと協力。「バイオニックパーティション」と呼ばれ、生物の細胞構造や骨の成長プロセスを模したデザインを生成するアルゴリズムをもとに、従来構造に比べ強固なラティス構造をジェネレーティブデザインで設計し、独コンセプトレーザーの金属3Dプリンターで製造しました。
素材にもエアバス子会社の独APワークスによるアルミニウム・マグネシウム・スカンジウム合金を採用。ラティス構造と併せて金属のブロックから切削する従来の手法に比べ5%の材料しか使わない上、従来より45%もの軽量化を実現し、今年製造されるA320のモデルから導入されるそうです。
また、自転車では、日本人デザイナーの柳澤郷司(さとし)さんがデザインしたロードバイクにもこの技術が適用されました。カーボンファイバーのフレームのチューブ(パイプ状の部品)を接続するジョイント部分にチタンを使い、金属3Dプリンターとジェネレーティブデザインによって、軽量化とユニークな形状、それに乗り手個人に合わせた最適なデザインを実現しています。英ブリッグス・オートモーティブ・カンパニー(BAC)でも、カスタマイズ対応の1人乗りスーパーカー「Mono」の軽量化にジェネレーティブデザインが採り入れられています。
さらに、フーパーさんは、日本の大手自動車メーカーが取り組みを進めるエンジンのシリンダーヘッドへの適用事例も解説してくれました。しかも軽量化が図れるだけではなく、シリンダーヘッドのラティス構造が熱を逃がすヒートシンクの役目を果たすといいます。「それによってエンジンのパフォーマンスが向上し、燃費改善につなげられる。従来の鋳造技術でこうした構造を作るのは難しく、3Dプリンターだからこそ課題を解決できるのです」(フーパーさん)。
ちなみに、ジェネレーティブデザインで設計した形状の知的財産(IP)は、他の設計物と同じように顧客に所属するそうです。
製品単価が下落し、それだけでは収益確保が難しくなってきている一方で、GEに代表されるように製品がクラウドを介してメーカーとつながり、顧客に対する購入後のさまざまなサービスで収益をあげるビジネスモデルが注目されています。
「エンドユーザーがいつ、どこにいて、どのように製品を使用しているかといった情報を、メーカー側が次の製品デザインに素早く反映させるアフターマーケット分野にも我々は着目している」とフーパーさんは明かします。
3DCADはじめ、工作機械での加工情報を作り出すCAM、電気系CAD、構造解析シミュレーション、ビジュアリゼーション、それにジェネレーティブデザインといった統合設計ソリューションを通して、さまざまな顧客のモノづくりを支援するオートデスク。サービスとしてのソフトウエア(ソフトウエア・アズ・ア・サービス=SaaS)にならった、「プロダクト・アズ・ア・サービス」という製造業のトレンドを後押ししながら、自らも未来に向けて変化を遂げていこうとしています。
(デジタル編集部・藤元正)
(2017/4/24 05:00)