[ オピニオン ]
(2017/4/27 05:00)
“非連続”の経営改革に向けた社内の結束が、果たしてどこまで強まるのだろうか。
東京電力ホールディングス(HD)が経営体制を一新する。53歳と、東電としては異例の若さで次期社長に抜てきされた小早川智明取締役を、ベテラン経営者や企業再生の専門家が支える。福島第一原子力発電所事故の処理に必要な巨額の資金を捻出するための収益拡大、企業価値向上に向けた経営改革が狙いだ。だが、改革実現への求心力がどこまで働くかは不透明だ。
6月末に発足する新体制では会長に、リーマン・ショック後の日立製作所の経営再建を主導した同社名誉会長の川村隆氏を起用。さらに三井物産顧問の槍田松瑩氏、ダイエーなどの再生を手がけた経営共創基盤の冨山和彦最高経営責任者(CEO)らが、社外取締役として小早川氏を支える。数土文夫会長は退任し、広瀬直己社長も取締役を退いて代表権のない副会長に就く。
川村氏は3日の会見で新体制について「これまで以上に、スピード感をもって改革を進められる人材がそろった」と評価した。
川村氏が指摘するように新しい経営陣や執行役には、40-50代の若手や企業の再建、事業再生で実績のある専門家が名を連ねる。川村氏や冨山氏は東電に対し、改革の柱になる原子力事業や送配電事業の再編・統合を提言した経済産業省の有識者会議メンバーだ。
だが、東電関係者の一部には、同社の実質解体につながりかねない改革への抵抗感がある。今回の人事でも改革を急がせたい政府側と、これを食い止めたい東電“守旧派”の激しい綱引きで作業がもつれにもつれた。
社内には守旧派に近いとされる広瀬社長の処遇に対する反発もある。広瀬氏は今後、東電の最重要任務である福島関連事業の統括業務に専念する。それにもかかわらず取締役から外れ、代表権を返上することになれば、関係部門の士気低下や地元との関係悪化を招きかねないとの批判だ。
関係業界にも「政府関係者と東電守旧派の主導権争いの中で、被災者の感情がおざなりにされた」との指摘がある。「守旧派の影響力をそぐため政府側が仕組んだ人事が、結果として被災者軽視の姿勢を露呈した」(業界関係者)という厳しい声も聞こえてくる。
東電としても福島の事故処理や、これを支える収益基盤づくりへのモチベーション低下は許されない。改革への結集軸となるべき経営体制づくりで社内の結束が逆に弱まり、対外的にも課題を残す事態になれば問題だ。新経営陣には福島の事故処理と、その前提となる“稼ぐ力”の増強に向けた求心力を、どうつくり出していくかが問われる。
(宇田川智大)
(このコラムは執筆者個人の見解であり、日刊工業新聞社の主張と異なる場合があります)
(2017/4/27 05:00)