[ オピニオン ]

【電子版】デジタル編集部から(49)内閣府・経産省参与、齋藤ウィリアム氏に聞く(上)IoT

(2017/5/29 05:00)

  • 齋藤ウィリアム氏(撮影:成田麻珠)

我々は今、モノやコトにまつわる大量の情報をインターネットでやり取りするIoT(モノのインターネット)時代を迎えようとしています。IoTはモノづくりの現場にとどまらず、社会をさらに豊かに、かつ効率化する技術として期待が高まっていますが、そこではどういった点に留意すればいいでしょうか。米国生まれの起業家・投資家で、セキュリティーの専門家でもある内閣府および経済産業省参与の齋藤ウィリアム浩幸氏(インテカー社長)に、IoTの本質と、それをどう日本の産業の強みに変えていったらいいのかについて聞きました。

   ◇   ◇   ◇

もはや古い「つなげばIoT」、付加価値に着目せよ

《IoTに対する関心が高まりを見せ、新たな市場拡大も期待されています。企業が注意する点はどこでしょうか》

私のIoTの定義は、センサーなどからデータを収集して安いメモリーに一時的に保存し、それを通信で飛ばしてサーバーで処理し、サービスを提供するというもの。どのIoTをみても必ずセンサー、ストレージ、通信、半導体で処理されている。

ここで2つ、日本で認識が遅れている部分を指摘したい。

IoTがなぜ盛り上がってきたかというと、センサーが進化した結果、それが24時間365日データを自動的に吸い上げる世界になった。センサーの進化で世の中が変わっていくのが大きいポイントだ。

ただ、単に機器をネットワークでつなげば良いというものではない。大事なのは付加価値をどうやって付けるか。そのためには発想やビジネスモデルを変えていく必要がある。インターネットにモノをつなげばいいというのは、5年前の話だ。

《齋藤さんはIoTでのセキュリティーの重要性も強く主張されています》

サイバーセキュリティーを守らないと、IoTは「インターネット・オブ・スレッツ(Internet of Threats)」とか「インセキュリティー・オブ・シングズ(Insecurity of Things)」になってしまうおそれがある。私が言っているのは、IoTは安全・安心を大前提にした「インターネット・オブ・セキュア・シングズ」、つまり「IoST」でなければ成立しないということだ。

セキュリティーがカギに

《昨年秋には米国で、セキュリティーカメラなどのIoT機器を踏み台にしたボットネット(攻撃用プログラム)によるサイバー攻撃もありました》

サイバーセキュリティーは守りを固める意味があるが、実はそれをしっかり実行すれば、付加価値や差別化につながる。典型的なのが昨年発売されたアップルのiPhone7だ。指紋認証と非接触ICカードの技術が一緒になって指紋で買い物ができるようになり、利便性が格段に向上した。これが一つの理想パターン。「アップルペイ」をサイバーセキュリティーだと思っているユーザーはあまりいないが、サイバーセキュリティーをちゃんとやれば世の中が非常に便利になる。

インターネットも、セキュリティーがあって初めてビジネスで使えるようになった。そこを忘れてはいけない。日本でよく見かけるのが、製品にサイバーセキュリティーを後付けで組み込むやり方。使いにくいし、見た目も良くない。セキュリティーレベルも大して高くないものができてしまう。後付けではなく最初から製品に入れ込む「セキュリティー・バイ・デザイン」がこれからは必須になる。

「セキュリティの十戒」とは

  • 齋藤氏による「セキュリティの十戒」

《齋藤さんの『IoTは日本企業への警告である』の著書に出てくる「セキュリティの十戒」(表参照)のうち「レジリエンス」は、東日本大震災後にもよく使われた言葉です。ただ、アカウンタビリティやノンリピティエーションは日本語になりにくく、概念も分かりにくい印象ですが》

IoT時代の情報セキュリティーには幅広い知識が必要とされるが、そこで何を理解しておくべきなのか、どのような要件が満たされればセキュアと言えるのかを「セキュリティの十戒」としてまとめた。ただ、それらの言葉を「アカウンタビリティ=説明責任」というように、日本語に訳すとニュアンスが変わってしまうので、元の言葉のまま表記してある。

レジリエンスとの関連では、1998年に米国の金融当局に呼ばれてコンピューターの2000年問題(Y2K)の対策委員に任命された。結局は何百億円か費用をかけて対策を施し、何とかY2Kを乗り越えることができたのだが、今度は議会で費用を何にどう使ったのか、無駄使いしたのではないかとかなり叩かれた。やってもやらなくても非難されるのは、サイバーセキュリティーと同じだ。

その後、2001年に(同時多発テロの)9.11が起こる。実はこれは米国の金融市場を狙ったテロでもあった。だが、翌日の火曜日には、グリーンスパンFRB(連邦準備制度理事会)議長ら金融関係の幹部が出張中で不在なのにもかかわらず、ニューヨーク証券取引所も金融機関もきちんと機能した。それはなぜか。

実はY2Kの対応マニュアルを引っ張り出してきて、対策を実施したことが大きい。自分の組織は大丈夫だが、停電になった場合はどうするかなど、2次的、3次的な影響にどう対応するかがマニュアルに入れ込んであった。それがレジリエンスに役立ったことで金融市場が元に戻った。さすがにビルに飛行機が突っ込むまでは書いてなかったが。そこでわかったのは、レジリエンス対策は応用が効くということだ。

《IoTで日本の産業はどう変わっていきますか》

少子高齢社会の日本は世界に先駆けてAI、ロボットとともにIoTが必要になる。そのためには先にシステムや製品をセキュアにしなくてはいけない。サイバーセキュリティーにきちんと取り組めば、レジリエンスも高まるし、製品も差別化でき、競争力が向上する。一石三鳥ぐらいの成果が得られる。

(次回に続く)

【略歴】

1971年米ロサンゼルス生まれ日系2世の起業家。ベンチャー支援コンサルタント、暗号・生体認証技術の専門家。指紋認証などの生体認証暗号システムを開発し、160社以上の企業とライセンス契約を締結。04年に会社をマイクロソフトに売却後、05年に拠点を東京に移して、07年に株式会社インテカーを設立。日本再生に必要なリーダーシップやチームづくりを訴え、スタートアップ企業の育成を手助けするとともに、世界各国の政府機関への協力、企業研修、政策提言など幅広く活躍している。13年12月、内閣府本府参与に就任。15年6月からパロアルトネットワークス株式会社副会長。2016年10月、紺綬褒章を叙勲、経済産業省参与に任命。

(デジタル編集部・藤元正)

(2017/5/29 05:00)

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