[ オピニオン ]
(2017/6/8 05:00)
アフリカ開発銀行(AfDB)の第52回年次総会が先月下旬(5月22―26日)、初めてアフリカの地を離れ、インドのグジャラート州の州都・ガンディーナガルで開かれた。そのサブイベントとして、各種の会合・セミナーなども行われ、日本はAfDBアジア代表事務所と「アフリカの発展に向けた日印協力」に関するセミナーを開催した。
この中で、日印両国政府が進めようとしている「アジア・アフリカ成長と繁栄の大動脈構想(Asia-Africa Growth Corridor = AAGC)」に関し、インドのナレンドラ・モディ首相によって、そのビジョン骨子が表明された。インド紙などの報道によると、モディ首相はその直前に北京で開かれた中国の「一帯一路」構想に関する国際会議への招待を断っていただけに、その発言は注目されたようだ。AfDBの総会総括についての新聞発表でも、AAGCに言及された。
アフリカは第二次世界大戦後も長らく、欧州の植民地時代からの「負の遺産」を抱え、貧しさの象徴的な存在であった。その脱却からの推進役の一つがAfDBだ。
アフリカ大陸の人口は推定10億人。うち8.5億人がサハラ砂漠以南のサブサハラ(49カ国)に住む。いまだに内戦状態にある国があり、1日2ドル以下で暮らす人々は5億人とされる一方、10億人のうち5000万人は先進国並みの生活水準にあり、中間層は4.5億人とされている。2000年代の平均実質GDP(国内総生産)の伸びは5.8%と高成長を遂げた。AfDBによると、資源価格の軟化などで、16年のアフリカの経済成長率は前年の3.4%より低下して2.2%に落ち込んだものの、17年は3.4%、18年は4.3%の成長が見込まれるという。
AAGCは、昨年11月のモディ首相の訪日時に、安倍晋三首相との首脳会談で合意されたもの。古代から文化、ヒト、モノなどの交流に貢献した海路の役割を再度見つめ直し、「アフリカ大陸、インド、南アジア、東南アジアそれに太平洋の国・地域を自由にかつ開放的に結び付ける」ことを目的に掲げている。
発表された骨子は4本の柱からなる。中でも最優先課題は健康・医薬品、農業、農産品加工、災害管理、技能開発の開発プロジェクト。以下、質の高いインフラと各機関間の連携構築、能力・技術の向上、人と人とのパートナーシップ構築―の4点だ。骨子は、国際協力機構(JICA)、国際協力銀行(JBIC)、ジェトロ・アジア経済研究所、ジャカルタにある東アジア・ASEANセンター(ERIA)、インドの政府系機関であるRIS(Research and Information System for Developing Study)が共同でまとめた。
日本政府は1993年、国連、国連開発計画(UNDP)、アフリカ連合委員会、世界銀行とともにアフリカ開発会議(TICAD)を立ち上げた。珍しく日本政府主導の大規模な国際会議づくりの成果だが、昨年8月には、日本を離れ、ケニアのナイロビで第6回TICADを開いた。とはいえ、日本の経済界・産業界のアフリカに対する事業展開は、中国のアフリカ進出などと比べ、低調であることは否めない。
しかし、ここ数年、日本企業もアフリカ市場に注目するようになり、ジェトロによると、長年、アフリカとの経済・人的面で関係の深いインドをアフリカビジネスの拠点として活用する機運が出てきているという。大手メーカーの中には、インド法人に中近東・南アジア・アフリカ事業の地域本社機能を持たせるところも出てきている。
安倍首相は5日の都内での講演で、「一帯一路」構想について、「洋の東西、そしてその間にある多様な地域を結びつけるポテンシャルを持った構想」と評価。インフラ整備では「透明で公正な調達」や債務が返済可能なことなどの重要性を指摘しながら、同構想に対する姿勢を軟化させた。
AAGCは、中国が進める「一帯一路」構想をにらみ、海路の自由航行を基本とした、持続的成長に向けた産業回廊の構築を打ち出している。AAGCの具体的内容は、7月の独ハンブルグでのG20サミット時ないし9月とされる安倍首相の訪印時に明らかにされる予定だ。
AAGCの推進には、何より民間の力が欠かせない。日本企業の間からは「インド企業と付き合うのは疲れる、難しい」との声も聞かれる。だが、遅ればせながらの日本企業の本格的なアフリカ進出で、インド企業との連携が役に立つ面もあろう。AAGCを機に、構想力に富んだ対アフリカ経済・産業協力事業の推進を民間に期待したい。
(中村悦二)
(このコラムは執筆者個人の見解であり、日刊工業新聞社の主張と異なる場合があります)
(2017/6/8 05:00)