[ オピニオン ]
(2017/6/1 05:00)
この季節、地方に足を延ばすと田植えを終えて成長し始めたイネの新しい葉が目に染みる。だが、農業従事者数の減少、高齢化は止まっていない。農林水産省の統計によると、2016年に192万人と200万人を切った。そのうち65歳以上が125万人、平均年齢は66.8歳に達した。日本などが目指す環太平洋連携協定(TPP)は米国が離脱することになったが、これで日本の農業が救われるわけではない。戦後の農政の失敗が重くのしかかっており、このままでは日本の農業の再生は難しそうだ。
そうした中で一縷(いちる)の望みは、IT(情報技術)や人工知能(AI)、あるいはロボットやドローンなどの先端技術を用いて農業の近代化を図ろうという動きが活発になってきたことである。これまでの農業機械を一歩進め、省力化や品質向上、需要に応じた生産などの実現を目指す。
TKF(茨城県つくば市)は圃(ほ)場で根菜類を生産している。中心はコマツナなどのベビーリーフ(幼葉)である。ベビーリーフは栄養価が高く、人気だが、双葉から一番葉、二番葉のあたりで収穫しなければならず、収穫後は長く保存するのが難しい。そのため需要を上回って栽培すると、廃棄しなければならず、逆に供給が需要を下回れば欠品となるという課題が付きまとっていた。
この課題解決を目指して、同社と東京理科大学理工学部の日比野浩典准教授らが協力。IoT(モノのインターネット)による圃場情報をもとに作物の生育と収穫を高精度に評価するモデルを開発し、播種から収穫までのプロセスを模擬するシミュレーションを作成した。播種段階で収穫量もほぼ正確に予測できるようになり、ロスや欠品を少なくすることができたという。
機械振興協会経済研究所では農工連携を目指した研究会を立ち上げ、「中小製造業のスマート農業への参入状況と今後の課題」というテーマで調査を実施した。大企業の海外生産が進み、部品加工を受注生産していた中小製造業の数は減少が続いている。一方、農業も高齢化、後継ぎ不在と先行き不透明感が漂う。同じ地域で生産活動を行いながらも、接触のなかったマイナス局面の両者をかけ合わせ、プラスに転じさせようという動きだ。中小製造業が自社工場で使っているロボットやセンサーなどの技術を農業に応用する。
5月25日付の日刊工業新聞に立命館大学が農研機構北海道農業研究センターやヤンマー、豊田自動織機などと共同で、ロボットやAIを用いて野菜の収穫・集荷作業の自動化に取り組むという記事が掲載されていた。
大学や研究機関、製造業者が農業に注目し始めたことは、農業の活性化につながるのではないだろうか。見方を変えれば農業も製造業なのだから、こうした技術をどんどん取り入れていくことができれば、若者の就農も増えるだろう。日本の農地に適したシステムを、合理的な価格で提供していくことが望まれる。
(山崎和雄)
(このコラムは執筆者個人の見解であり、日刊工業新聞社の主張と異なる場合があります)
(2017/6/1 05:00)