[ 機械 ]
(2017/6/26 13:00)
【日本政策投資銀行産業調査部 副調査役 大沼 久美】
【日本経済研究所 ソリューション本部 ソリューション部 研究主幹 分部 隆夫】
工作機械の市場概要
世界の切削型工作機械生産高は、リーマン・ショックによる減退局面を経て、中国を中心とした新興国の成長を背景に増加し、2011年にピーク(約700億ドル)を記録した。その後、停滞局面が続いているのは世界第1位で生産高の約4分の1を占める中国の減少が大きい。中国製品は自国向けが中心だが12年以降の金融引き締めにより、自動車産業や電気機械、精密機械の受託製造を行う電子機器製造受託サービス(EMS)などで設備投資意欲が減退したことが背景である。
日本の生産高は中国に次ぐ世界第2位となっており、ドイツがこれに続く。日本は1980年代前半以降、2009年まで世界首位を維持していたが、リーマン・ショック直後に、主要顧客である先進諸国の設備投資意欲が後退した影響を受けて大きく減少し、首位の座を中国に明け渡した(図1)。
一方、主要な輸出国は日本とドイツである。近年はこの両国で世界輸出総額の4割を超える水準が続く。両国とも中位―高位機種を中心とした輸出が大きな割合を占めている。韓国・台湾も地場メーカーの技術蓄積などにより輸出を増やしている一方、中国は世界生産額に占める割合と比べると輸出額のプレゼンスは低い。
中国・新興国の影響大
日本の工作機械受注額推移を見ると、リーマン・ショック以降、外需比率は6―7割で推移しており、輸出型産業であるといえる。ただし円安傾向による企業業績の回復や、各種の補助金、税制優遇などの政策支援もあり、13年から15年まで内需が増加した。16年は、前年比での円高傾向による企業業績の足踏みや政策支援内容の変化により内需が減少した。また中国景気の低迷などで外需の減少も大きく、結果として外需比率は低下傾向が続いている(図2)。
外需を地域別で見ると、アジア(中国含む)が最大となっている。近年は外需の5割程度を占めており、これらの新興国需要、特に中国の電気・精密機械向けなどの需要変動が日本の受注状況に大きく影響している(図3)。
内需に関しては、「一般機械」向け、「電気・精密」向け受注には自動車産業が最終ユーザーとなる部品、装置が含まれており、直接の自動車向け受注と併せて、自動車関連産業が大きな割合を占めている。なお、内需に占める割合は小さいものの、「航空・造船・輸送用機械」向け受注も近年増加傾向にある。世界的に航空機需要の増大が見込まれ、日本工作機械メーカーはその高度な技術を生かし、新たに当該分野に進出する例が増えていく可能性もあり、今後の動向が注目される。
「日本の工作機械産業が直面する構造変化(下)航空宇宙業界への期待と新興国の台頭、技術承継への危機感」に続く
(2017年3月15日 日刊工業新聞第2部「工作機械産業」特集より)
(2017/6/26 13:00)