[ 機械 ]
(2017/6/28 13:30)
共同輸送はなぜ失敗するのか
前回調達物流改善は「物流コスト削減とジャストインタイムの両立」を実現できる旨をお話させていただいた。調達サイドから見れば、この2点が両立できるのであれば何も苦労してみずからが荷主となる調達物流改善を実施しなくてもよいかもしれない。その方策は皆無ではない。サプライヤーどうしによる「共同輸送」である。
共同輸送とは複数の荷主会社がトラックをシェアして運ぶことをいう(図1)。同一地域から同一方面へ向けて別々に走らせていたトラックを共同化しようというものだ。理屈上トラック積載率が高まるし、両社の荷を集めることで顧客の要求する複数回納入にも対応が可能となる。トラック台数も減るし物流コストも抑えられる。CO2排出量も削減できる。
このように良いことずくめの改善方策だから多くの会社が取り組んでいそうなものだ。しかし実態は一向に進んでいない。物流の会合では共同輸送を推進するのだが笛吹けど踊らず。その理由に迫ってみよう。
【Kein物流改善研究所 所長 仙石惠一(せんごく けいいち)】
→暗黒大陸の物流改革大作戦-プレス工場を大変身させる秘密の裏ワザ/調達物流改善の取組み[1]/(上)
下請法との関連に注意する
下請法とは下請代金支払遅延防止法のことである。あまりなじみのないところかと思うので少々この法令について解説しておこう。下請法第一条には次のように記されている。『この法律は、下請代金の支払遅延等を防止することによって、親事業者の下請事業者に対する取引を公正ならしめるとともに、下請事業者の利益を保護し、もつて国民経済の健全な発達に寄与することを目的とする。』要は親事業者の一方的な都合で下請代金の支払いが遅れたり、下請代金を不当に引き下げたり、下請事業者が不利に取り扱われたりすることを防止することが目的だということだ(図5)。下請法が適用されるかどうかの条件については図6を参照されたい。
では調達物流改善と下請法と何の関係があるのかということについてだが、それは引き取りに行くことになる部品などの価格の決め方にある。今までは届けてもらっていたので、部品などの価格には物流コスト分が含まれていたことになる。今度は引き取りに行くので物流コスト相当分を値引きしてもらう必要がある。ここまでは当然のことで問題はないが、その「物流コスト相当分」の決め方が問題になる可能性があるのだ。
物流コストはおおよそ5%程度だと推定される。本来であれば「物流費」というかたちで部品費の構成項目になっていてしかるべき。ただし一般的には数値で明確になっていない。単純に管理費の内数となっているに過ぎないことがほとんど。つまりサプライヤーも調達側も物流費として明確化していないのだ。ここでおおよそ5%だからといって明確な根拠なしに調達側が価格改定をしようとすると、それは「お互い合意のない買いたたき」と判断される恐れがある。どこに判断されるのか?それは公正取引委員会だ。そのように判断されたとたんに下請法違反となる可能性がある。
また下請法には支払期日が60日以内と定められている。月末締め翌月末払いの契約となっていた際には注意が必要だ。引き取り日が月末で、到着日が翌日、すなわち翌月初日となるケースがある。この時に到着日ベースで検収を行っていたとすると、本来は月末に調達側に引き渡されたにもかかわらず、検収上は翌月分扱いとされ、結果的に対価が60日を超えて支払われることになることがありうる。これも下請法違反ということになる。
調達物流改善を行う際には法令を気にしなければならないとは意外だったかもしれない。しかし一歩間違うと法令違反というコンプライアンス問題になるので注意が必要だ。最低でも下請法の概要は調べておきたい(図7)。少しでも疑問に感じたら公正取引員会に相談することをお勧めする。ちなみに今後運送会社との取引も始まるが、原則として運送行為においてメーカー荷主と運送会社との間に下請法は適用されない。一方で下請法とほぼ同様の規定が独占禁止法に規定されている。皆さんの会社は独占禁止法おける「物流特殊指定(特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法)」(図8)の扱いとなる可能性があるので、注意されたい。運送会社への支払い遅延や買いたたき、要求拒否に対する報復措置の禁止などが規定されている。実際の運用が始まる前に本件についても確認しておこう。
「VMI(Vendor Managed inventory)」
VMI とは、ベンダー(サプライヤーと同語)、つまり部品や資材(部品など)の供給者によって顧客に提供する部品などの管理された在庫のこと。通常顧客の近隣倉庫で管理され、顧客の生産状況に応じて顧客への納入と倉庫への在庫補充が行われる。顧客にとっては部品などのジャストインタイム調達が可能となり、工場内に不必要な在庫を保有する必要がなくなる。一方でベンダー側は在庫とそれを保管する倉庫が必要。
昨今では物流会社が倉庫を提供するとともに、複数のベンダーのオペレーションを引き受けるようになってきた。これによってベンダーは倉庫運営にかかるコストを抑えられるようになった。物流会社にとっても新たな収入源として注目を集めている。
(2017/6/28 13:30)