[ 機械 ]
(2017/6/30 13:00)
東成エレクトロビーム(東京都西多摩郡瑞穂町、042-556-0611)は、日本における電子ビーム溶接、レーザー加工の先駆者として知られる企業だ。小惑星探査機「はやぶさ2」に使われる部品の加工を任されたのをはじめ、レース用高性能エンジン、宇宙ステーション・ロケット、ジャンボ旅客機、そのほかにも自動車、携帯端末、医療機器など、高精度・高品質が求められるさまざまな分野の精密加工を手がける。
従来は部品など中間財の受託加工が中心だったが、近年はエンジニアリング技術を活かして完成品も手がけ始め、「将来はメーカーとして勝負したい」と上野邦香社長は話す。
【森野 進】
電子ビーム・レーザー加工の草分け
同社は1977年、真空中で高精度な溶接を行う日本初の電子ビーム溶接加工の専業として創業。83年には、大気中で加工が行えるレーザー加工事業を立ち上げた。現在では、2つの事業を合わせて50台以上の加工機を保有する日本有数のジョブショップとなっている。
同社は、さまざまな分野の加工を手がけるが、実は量産品の溶接や加工を行うことは少ない。試作品の開発や、「こんな部品をつくりたいが、どういう手順で行えばよいのか」といった顧客企業の課題を解決する業務が中心である。つまり受託加工と言っても、大企業の下請けとして「単なる溶接や加工」を行うのではなく、大企業に請われて「溶接や加工方法を生み出す」ことを使命にする、そんな立ち位置の会社と言える。
企業連携の先覚企業
もう1つ、同社がよく知られるのが企業連携の先覚企業であることだ。これは「中小企業は連携すると強くなる」という現・同社会長の上野保氏の信念によるものである。「日本には技術に秀でた中小企業は多数存在するが、1社単独ではもてる力を十分には発揮できない。しかし、各社が連携して強みをもち寄れば、その力は何倍にもなり、新しい製品やサービスを開発することが可能になる」と考えた。
それを実践するため、同社がコア企業となって、1つの製品製造にかかわる複数の工程をまとめて引き受け、各工程をそれぞれ得意とする中小企業に振り分ける「企業間コーディネート」の仕組みを構築した。同社の取組みは、平成8年度版の中小企業白書にも「ネットワークを利用して企業同士の共存共栄を図る企業」として紹介されている。
同社が受託加工会社からメーカーへと踏み出したのも、この企業連携と大いに関係する。2002年、同社がコア企業となって東京、栃木、大阪、滋賀、福岡という異なる地域の5社で構成する広域連合の「ファイブテックネット」を結成。この広域連携が国の施策である中小企業新事業活動促進法の異分野連携新事業(新連携)の1号認定を受け、2005 年にレーザーによる表面洗浄装置「イレーザー」を開発したのだ。
装置の開発には成功したが…
イレーザーは、金型など金属表面の樹脂・塗装・錆などを、母材に損傷を与えず、スピーディに除去する装置。溶剤を使わないため環境にもやさしい。それまでレーザー洗浄装置は、ほとんどが外国製品で操作が難しく、メンテナンスなどにも問題があった。そこで新連携の支援を得て、約1年かけて装置を完成。このニュースは多くのマスメディアにも取り上げられた。しかし、開発には成功したものの、高価(1台5,000万円)なこともあって、まったく売れなかった。
「私は入社4年目で、初めは『父親たちのやったことで、自分とは関係ない』と思っていました」(上野社長)。しかし、「『あの会社は認定をとることが目的で、売れるものをつくろうとはしてしない』と外部の人から批判されるのを見て、父親に代わって『意地でも売れるものをつくってやろう』と思ったのです」(同)。
上野社長の前職は大手電機メーカーの生産技術者。また、かつての同僚で半導体技術者だった高島康文氏(現・同社技術部長)も入社するなど、開発陣容に不足はない。こうして、製品開発の本当の挑戦が始まった。
マーケット・インの大切さ
エンジンである発振器を見直すなどして、2007年から08年にかけての開発で1号機よりもコンパクトな2号機をつくった。しかし、期待とは裏腹にまたしても1台も売れなかった。価格を5,000万円から1/3以下の1,500万円に下げたものの、市場ニーズとはまだ大きく乖離していたのだ。
さらに11年から12年にかけて、今度は医療用メス専用の洗浄機を開発した2号機を展示会に出展したところ、ME(メディカルエンジアリング)技術者が興味を示したからだ。電動鉛筆削り機のような形状の装置で、穴の中にメスを刺し込んで洗浄するものだ。顧客の反応はよく性能は上々であったが、こちらも市場の価格など製品化に課題があり難航している。
しかし、それでもあきらめなかった。高島氏を中心に13年から14年にかけて4号機を開発すると、ついに日の目を見たのだ。4号機がそれまでのものと異なるのは、製造のアウトソーシングをやめ、内製を基本にしたことだ。それにより 680万円(38W出力機)という低価格を実現した。価格だけで はない。イレーザーがいくら優れていると言っても、何でも除去できるわけではないし、洗浄の条件出しにもノウハウが必要だ。それらを明確にしたうえでターゲットを定めたのだ。
具体的には、金属表面上にある薄膜や薄い汚れを洗浄することに絞った。「これを決めたのが大きかった」と上野社長。14年に1台売れたのを皮切りに、15年に2台、16年に 5台、さらに17年3月末までに累計で10台の販売が見込まれている。
3度の失敗を通じて上野社長が得た教訓は、「企画はよく、技術的な問題もクリアできても、マーケット・インの発想がないと売れる製品にはならない」ということ。イレーザーの製品化の経験は今後、同社がメーカーを指向するうえで大きな財産となりそうだ。
(2017/6/30 13:00)