[ 機械 ]

サーボプレスの技術革新における適用範囲の拡大と産学連携の重要性

(2017/7/11 12:00)

 サーボプレスが開発されて20年近くになり、その技術の進歩に伴って普及が進んでいる。プレススライドの動きを任意に制御可能なサーボプレスは、生産性の向上のみならず、プレス部品の成形性の向上も期待されている。ここではサーボプレスの最近の進歩、成形性の向上およびIoT(モノのインターネット)を活用したサーボプレスによるプレス技術の革新などについて今後の期待を含めて紹介する。

【日本大学 生産工学部 機械工学科 教授 高橋 進】

サーボプレスのスライド駆動性能の進歩

 サーボプレスの普及は拡大し、多くの企業での導入・検討が進んでいる。海外企業でのサーボプレス導入の大きな理由としては、1サイクルの成形周期の中で、長い時間を占める非成形時のスライドの高速化による生産性の向上である。非成形時のスライドの高速化のためには、プレス駆動用モーターの制御ソフトの指令に対して、できるだけ時間遅れが少なくスライドが動く必要がある。

 そこで多くのサーボプレスでは、モーターの駆動力が直接伝わるダイレクトドライブ方式が適用されているが、さらなる高速化を推進するために、モーターおよびスライドなどの可動部品の軽量化・小型化による運動時の慣性力の減少に取り組んでいる。

 可動部品の軽量化によるスライドの高速化は、加工域での加工速度が同一であっても、非加工域での高速化の効果により生産性は向上する。また軽量化により駆動エネルギーが削減でき、省エネへの貢献も期待できる。

 日本企業におけるサーボプレス導入の理由は、前述した生産性の向上への期待もさることながら、図1に示すような多くのスライドモーションのバリエーションによる成形性の向上および金型寿命の向上への期待である。

 ソフトおよび制御系の進歩により、さらにスライドモーションの設定自由度は多くなる。また適切なスライドモーションの選択によって成形性の向上は確認できているものの、多くの部品の成形における成形性の向上に関しては、試行錯誤が必要となっている。

  • 図1 サーボプレスのスライドモーションの例

サーボプレスの機能活用による成形性の向上

 アルミニウム合金板は自動車の軽量化による燃費向上を目的として適用が増加している。成形性の向上は適用部品の増加につながるので重要だ。図2は6000系アルミニウム合金板の角頭絞りにおけるサーボプレスを使用した成形性の向上例である。成形中のスライドの速度変化が成形性におよぼす影響を示している。

  • 図2 角筒絞りにおける加工速度が成形性に及ぼす影響

 スライドが遅い平均速度(毎秒41ミリメートル)の場合は割れが発生したが、速い平均速度(毎秒103ミリメートル)の方は割れずに成形可能であった。また図2の成形においては、ブランクホールド力を一定での成形結果であるが、可変にすることでさらなる成形性向上の可能性がある。

 成形終期のブランクホールド力を成形初期と比べて低くし、材料の金型内への流入をしやすくしてパンチ頭部近傍の材料内の応力増加を抑制することにより、成形性が向上すると考えられている。ブランクホールド力の発生機構としては油圧シリンダーまたはガスクッションなどが一般的に使用されるが、急速な荷重変化の制御には限界があると思われる。このため生産性および成形性の向上のためのブランクホールド力の新たな制御方法の開発を望みたい。

サーボプレスを使用した板成形の材料特性の計測

  • 図3 サーボプレスを駆動源に使用した高速摩擦試験治具

  • サーボプレスに装着された高速摩擦試験治具

 プレスの成形性の事前評価では、数値解析による成形シミュレーションが活用されている。サーボプレスによる成形のシミュレーションにおいて、スライドモーションによる摩擦状態の変化を導入することにより、解析精度の向上が報告されている。さらなる精度向上のためには、プレス成形中の加工速度における材料特性の計測が必要である。

 そこで通常の材料試験機では、プレス成形時の速度における試験が困難なため、サーボプレスのスライドに固定可能な試験治具によって計測している。金型と素材間の摩擦特性を計測する治具を図3に示す。また試験治具をサーボプレスに装着した状態を写真に示す。

 計測結果は図4に示すように、試験速度の上昇によって両者間の摩擦係数が減少することが確認された。このようにサーボプレスはプレス部品の成形ばかりでなく、プレスのスライドが高精度に位置および速度を制御可能という特徴を生かし、材料特性計測における試験装置の駆動にも使用可能である。

  • 図4 引き抜き速度と摩擦係数の関係

産学連携によるIoT活用とサーボプレス技術の革新

 これまでのサーボプレス関連の技術は、サーボプレスのハードと成形技術のソフトがそれぞれ独立して進歩してきたと思われる。プレスメーカーは、サーボプレスの最大の特徴であるスライドモーション(図1参照)のバリエーションの拡充、板成形におけるブランクホールド力を自由に可変可能なサーボクッションの開発など成形条件の選択自由度の拡大などを進めている。

 一方、プレスユーザーおよび大学などの研究機関は、前述の機能を活用して生産性・成形性の向上や、スライドモーションが成形性に及ぼす影響のメカニズムの解明などに関する研究・開発を進めており、サーボプレスの機能を最大限に活用した成形に取り組んでいる。このようにサーボプレスの活用技術は、ハードの進歩が先行した技術開発および研究であったために、サーボプレスの機能とそれを活用した成形技術が個々に進歩発展してきたのが特徴と思われる。

 近年、モノづくりの産業においてIoTの活用が検討あるいは開発機器に実装されてきている。プレスメーカーにおいても同様の取り組みが積極的にされている。各プレスメーカーはプレスの可動状況およびプレスに装着されたセンサーからの荷重や変位などの計測結果をデジタルデータとして取り出せるようにしており、これらのデータ活用の準備は整いつつあると言える。

 一方でプレス成形でのIoTを考えた場合、プレスマシン本体からの計測データによりプレス部品の寿命を予測し、部品の破損防止や生産管理をするだけでなく、成形品の不具合や金型破損の検出と予測に適用可能とすることに期待が寄せられている。その場合はビッグデータとして計測されるデータと成形不具合および品質、または金型の破損原因との関連の明確化やメカニズム解明が必要となる。

 このためにはプレスマシンの技術、成形技術、計測技術、データ処理技術およびデータ分析技術が大切である。これらの技術はプレスマシンに関する技術だけでなく金型を使用した成形技術との融合が必要不可欠となる。

 そこで日本鍛圧機械工業会(日鍛工)はプレス成形を含む塑性加工を中心とした技術者と研究者が会員となっている日本塑性加工学会に働きかけ、産学連携による取り組みに着手している。日鍛工内に組織されている産学連携委員会は、プレスマシンおよび関連機器のメーカーのエンジニアと学会に所属する研究者で構成され、計測結果と成形性の関連および不具合などの評価をするために必要な計測内容などを論議している。

 欧米ではよく行われているが日本では実例が少ない複数の同業他社と研究機関が一つの目的を持って共同研究・開発を行うコンソーシアムで、技術力の高い個が集まって、さらに高い総合力の発揮による成果に注目したい。

サーボプレス技術の今後

 サーボプレスを通常のメカプレスと比較した時の大きな特徴は、任意にモーションコントロールが可能なスライドを持つことである。このスライドの制御技術は、かなり完成度が高いと思われる。

 そこで今後は、プレスの機能そのものの向上がプレスメーカー各社で続けられるとともに、付加価値の向上に貢献するハードとソフトの研究開発にもより注力されると思われる。

 ハード面では高回転・高トルク・高耐久のサーボモーターの開発などにより、生産性の向上および指令値と実際のスライドの位置の一致度のさらなる向上が期待される。ソフト面ではさらに使いやすく、成形方法に適した各種設定時間の短縮化へ向かうと思われる。

 荷重、変形、温度および視覚などの各種センサー技術の活用と、計測データの高速処理および判断技術の融合、そして産学連携による知の融合により、成形中の成形不良の検出、成形条件の自動修正などのプレスの知能化の推進に期待したい。

(2017年7月5日 日刊工業新聞 第2部「MF-Tokyo2017」特集より)

→ MF-Tokyo2017特集

(2017/7/11 12:00)

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