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【通商弘報】洪水対策の有無で営業継続に明暗-テキサスを襲ったハリケーンの教訓

(2017/10/11 05:00)

サンフランシスコ発 

2017年10月10日 

8月25日にテキサス州ヒューストンとその周辺地域を襲った大型ハリケーン「ハービー」は、強風を起因とする停電が広範囲に及んだこれまでのハリケーンとは対照的に、豪雨による洪水が停電を長引かせた。その影響で多くの事業者が休業を強いられる一方で、独自の災害対策が奏功し、営業を継続できた事業者もあった。 

翌日に最大33万世帯で停電

ハリケーン・ハービーによる停電は、テキサス州上陸翌日の8月26日時点で33万6,000世帯に及んだ。暴風雨や洪水の影響で復旧工事が遅れたこともあって、3日経過した28日も28万世帯で停電が続いたといわれる。今回の災害では、電力の供給停止に加え、停電に備えて用意していた予備用発電機が未曽有の洪水で水没したため、電力確保が難しくなる事態が発生した。その結果、多くの事業者が数日にわたって休業を余儀なくされた。

そんな状況下でも営業を継続できたのが、スーパーマーケットチェーンの「エイチ・イー・ビー(H-E-B)」、ガソリンスタンドにコンビニエンスストアを併設する「バッキーズ(Buc-ee’s)」、世界最大級の複合医療施設「テキサス・メディカル・センター(Texas  Medical  Center)」だ。これらの事業者に共通する点は、洪水を想定した上で、小規模発電設備の設置と分散型エネルギーシステムの構築を進めていたことだ。

洪水に負けないマイクログリッド

エイチ・イー・ビーとバッキーズは、天然ガスを使ったマイクログリッド(小規模発電・供給)システムを整備していた。同州に拠点を置くマイクログリッド開発企業のエンチャンテッド・ロックスが設計・施工したというこのシステムは、地中に張り巡らされたパイプラインから天然ガスを引き、それを利用して自家発電するというもので、洪水時の耐性に優れる。通常は電力供給会社から供給される電力との併用が可能だが、停電時には単独で稼働する。

地中に埋められたパイプラインは、電力供給会社の送電線や、今回水没被害を受けた発電機や蓄電池と違って、強風や洪水の影響を受けにくい。そのため、今回のような想定外の洪水が発生した場合でも問題なく発電が可能となった。

オンラインビジネス情報サイト「ビジネスジャーナル」紙サンアントニオ版(8月28日)によると、エイチ・イー・ビーは、このマイクログリッドシステムが設置された18店舗で自家発電を行った。最も被害が深刻となった時間帯には、一時的な閉店を余儀なくされた店舗があったものの、冷蔵庫を稼働し続けることができたため、水や食品の販売を継続できたという。

また、同社と同一のマイクログリッドシステムを設置するバッキーズでも、ヒューストンエリアの21店舗の営業を継続できたほか、一部の店舗では救助スタッフの休憩所として活用されたと報じられている。

前回の教訓から万全対策で被害回避

1,345エーカー(約544万平方メートル)の敷地に、23の病院に加え、医大、歯科大、薬科大、研究機関など計59の施設を誇るテキサス・メディカル・センターもまた、万全な洪水対策と小規模発電、分散型エネルギーシステムによって、業務を継続できた事業者の1つだ。同センターは、2001年のハリケーン・アリソン発生の際に全ての建物で浸水被害に遭い、何年もかけて進めてきた研究が頓挫したという苦い過去がある。その被害額は20億ドルに上ったとされ、こういった大きな被害を未然に防ぐために後年5,000万ドルの予算を投じ、室内への浸水を妨げる止水ゲート、水没防止対策を施した発電設備、排水ポンプなどを整備した。

これらの設備に加え、同センターでは熱電併給(CHP)サービスを導入し、エネルギー供給源を分散して災害に備えていた。CHPとは、天然ガスや石油などの燃料で発電し、同時に発生する廃熱を利用して蒸気や温水、冷却水を供給するものだ。同センターでは、センター内に同設備を設け、地中のパイプラインから冷暖房設備や給湯器に使われるエネルギーを供給することで、洪水が起きた場合でも、これらが稼働するシステムを整備していた。こういった対策が功を奏し、ハリケーンの影響で同地域の16の病院が休診に追い込まれる中、同センターは被害を受けることなく業務を継続した。

洪水は「新しい常識」との声も

前述の事業者にみられるように、今回の災害では、洪水発生の可能性を見越した蓄電池の用意や、分散型エネルギーシステムが整備されているか否が、ビジネス継続の明暗を分けたといえる。ハリケーンが頻発する米国では、今回の経験を今後に生かすために、災害対策の重要性を強調する声が各方面から上がっている。グレッグ・アボット・テキサス州知事は今回の災害に際して、「(ハリケーンが引き起こす洪水を)新しい常識として認識しなければならない。この地域にとって、これまでと違う新しい常識だ」と述べている。

また、環境分野の調査会社グリーンテック・メディアは9月1日、2012年にハリケーン・サンディに見舞われたニュージャージー州公共事業委員会のリチャード・ムロツ委員長が「次回の緊急時に備えて、最先端マイクログリッドなど、どんな状況でもエネルギー調達ができるシステムを完成させるために働き掛けなければならない」と述べた、と伝えている。ほかにも、エネルギー分野の調査会社ナビガント・リサーチでディレクターを務めるケン・ホーン氏はメディアサイト(マイクログリッド・ナレッジ8月28日)で、「近年発生したハリケーンでは、マイクログリッドなどの災害時に対応できるインフラが整備されているかが問題だった。しかし今回はそれに加えて、インフラが洪水の被害を受けない場所に設置されているかという、より細かい点にまで話が及んでいる」と語っている。

ディーゼル発電機の限界点を指摘

今回の災害を受けて、洪水発生の危険性を踏まえたエネルギー源確保の重要性が叫ばれると同時に、米国で広く普及するディーゼル発電機の限界点を指摘する声もある。マイクログリッド・ナレッジは、ディーゼル発電機開発企業のコメントを紹介している。その中で、別の企業に勤めるマーケティングマネジャーと営業責任者はともに、今回のように洪水が長引いたために交通網が断たれた場合、孤立した住宅などに「新しい発電機や追加のディーゼル燃料の配達をすることはできない」と述べている。

エンチャンテッド・ロックスのトーマス・マクアンドリュー社長兼最高経営責任者(CEO)もまた、「交通が停止した場合、どれだけエネルギーを確保できるかは現場に貯蔵された燃料の量で決まる」として、ディーゼル発電機向けの貯蔵燃料として超低硫黄軽油(ULSD)を使用する場合は保存期間が6カ月と短いことを指摘し、「より多くの燃料を保存しようとすればするほど、保存管理の問題は大きくなる」と語っている。

(高橋由奈、永松康宏)

(米国)

(2017/10/11 05:00)

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