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[ 科学技術・大学 ]
(2017/11/11 13:00)
米IBMは10日、20量子ビット(キュービット)のプロセッサーを持つ商用量子コンピューター「IBM Q」システムについて、年末までにクラウド経由で顧客にサービス提供を開始すると発表した。同時に20量子ビットのアーキテクチャーを拡張し、50量子ビットの次世代IBM Qシステムの試作機の製作と稼働に成功したことも明らかにした。量子コンピューティング時代の幕開けが少しずつ近づいてきているようだ。
20量子ビットマシンでは、0と1の状態が量子的に重なり合うことで高速演算処理を実行する「量子重ね合わせ」の持続時間(コヒーレンス時間)を、これまでの試作機の倍近い平均90マイクロ秒(マイクロは100万分の1)まで向上させ、業界最高記録を達成した。IBMの従来機のコヒーレンス時間は平均50マイクロ秒だった。50量子ビットの試作機も現状では20量子ビット機と同程度だという。
量子コンピューターは、現在のスーパーコンピューターでは計算に時間がかかって解けないような難しい問題を処理できる夢のマシンと言われる。9月にはIBMの科学者らが、分子そのものの挙動をシミュレーションできる効率的なアルゴリズムを英科学誌ネイチャーに発表。複雑な化学反応のシミュレーションや最適化を通して、医薬品や材料、エネルギー分野などでのいち早い応用が期待されている。
とりわけIBMが今回試作に成功した50量子ビットマシンは量子コンピューター研究の中でも画期的な成果といえるものだ。
というのも、量子コンピューターの実用化を進める米グーグルの研究者が、50量子ビットの量子コンピューターが従来型のスーパーコンピューターの性能を上回り、量子コンピューターの優位性を示す一つの目安になることを示しているためだ。ただ、回路の接続性やノイズ、エラーといった課題があり、「ことはそう単純ではない」という見方も多い。
これまでIBMは、2016年5月に試験的に量子コンピューターのオンライン提供を開始。「IBM Qエクスペリエンス」として、5量子ビット、および16量子ビットのプロセッサーを持つ試作機を一般顧客のメンバーがクラウド経由で利用できるようにした。続いて17年5月にはビジネスや科学向けの商用汎用量子コンピューターを実用化する「IBM Q」イニシアティブを立ち上げている。
「IBM Qエクスペリエンス」には、世界中から6万のユーザーがアカウントを登録。そこには1500校以上の大学、300の高校、300の民間企業が含まれる。これまでに量子コンピューターの機能が170万回使用され、量子コンピューティングの教育などに役立てられているほか、IBM以外で35本以上の研究論文につながっているという。
(2017/11/11 13:00)