[ 機械 ]
(2017/11/21 05:00)
≪アーク溶接高電流水冷トーチ用銅合金3D積層造形部品≫
【世界初の技術】
「金属工学を知らない素人ならではの発想と、粉まみれになって死ぬほど焼いたことが、世界初の技術確立につながった」(坪田龍介技術開発本部ロボット技術開発部長)―。
「実用レベルの強度を持つ銅の高密度積層造形はできない」との金属3Dプリンターの通説を覆し、ダイヘンは銅合金3D積層造形技術を確立した。同技術を応用したのがアーク溶接高電流対応水冷トーチ。複雑な内部流路形成で冷却性能を向上。1000アンぺアもの高電流溶接対応ながら、サイズは従来比7割減の直径30ミリメートル、重さ約9割減の850グラムにし、厚板溶接の品質・作業性を格段に高めた。
【まず純銅で挑戦】
3Dプリンターは従来の加工法で製作できない複雑形状の造形物を実現できる。ロボットの機構設計に長年携わってきた坪田部長は「3Dプリンターの技術を持たないと競合に勝てなくなる」と、経営陣へ具申。知見を持つ大阪府立産業技術総合研究所の助言も得て、2014年12月にドイツ製汎用3Dプリンターを導入した。
まず純銅で挑戦したが、銅のレーザー反射率は90%で入熱が阻害される。造形は確認したが、98%以上必要な密度は95%から上がらず、引っ張り強度は純銅の195メガパスカルに及ばない。もろく、空孔だらけで水が染みこみ、水冷に使えなかった。
【ある文献の一節】
坪田部長は自称“ダイヘンで一番踏ん切りがいい男”。15年2月に純銅を見切る。ある文献に「シリコンは湯流れを良くし、クロムは入熱効果を上げる元素」との一節を発見。「わらにもすがる思い」(坪田部長)で、含有率の異なるシリコン含有銅合金2種と、クロム含有銅合金3種の製作に取り組んだ。
銅は導電率100%だが、他金属の添加で極端に下がる。そこで銅合金は最低密度98%、導電率60%をターゲットにした。結果はいずれも密度98%を上回り、強度は純銅超え。さらに熱処理を加えると、クロム含有品は導電率が少しずつ上がることにも気付いた。
クロムの時効硬化で銅の結合が強化されていた。含有量と熱処理温度を少しずつ変えて試作を重ね、最適値を発見。導電率90%以上で強度は純銅比5割増の銅合金造形物と、同60%で強度3倍の銅合金造形物の2通りを作成する技術を確立した。技術は社外へもライセンス供与し、日本のモノづくりに貢献する。
(大阪・松中康雄)
(2017/11/21 05:00)