[ 科学技術・大学 ]

東電福島第一原発、トヨタ式カイゼン導入 “普通”の現場を取り戻せ

(2018/2/1 05:00)

福島第一原子力発電所を“普通”の現場に戻す取り組みが続いている。東京電力は福島第一廃炉推進カンパニーを2017年11月に組織改編し、「カイゼン室」を新設した。トヨタ式のカイゼン活動を導入し、効率改善を進める。カイゼンには現場の活気が現れる。作業者の安全確保から始まった福島第一は、生産性や効率性に取り組める段階を迎えつつある。(小寺貴之)

  • 屋上がれき撤去に向けた1号機(代表撮影)

【1日5000人】

「カイゼン目標・待ち時間半減」―。福島第一原発の構内に入ると、必ず通る「入退域管理施設」のゲートに標語が並ぶ。福島第一原発では1日約5000人が働き、プラントメーカーやゼネコンなどの協力企業から多くの人員が行き交う。そのため、職場単位や工場単位の活動よりもカイゼンは難しい。そこでまず、みなの目に触れる所から意識啓発を進めている。

「まだまだ始めたばかり。成果として紹介できるものはない」と廃炉コミュニケーションセンターの廣瀬大輔氏はこう説明する。従来は効率よりも安全安心を最優先にしてきた。実際、掲げられているのは標語に限られ、カイゼン事例を共有したり、発想を促したりする掲示はまだとぼしい。

  • 視野が広がり、声が通りやすくなった全面保護マスク(代表撮影)

それでも労働環境が改善し、普通のカイゼン活動ができる現場に近づいてきた。構内線量の低減が進み、放射線防護装備の改良や防護エリアの縮小が進んだ。構内の95%は一般作業服で活動できるようになった。原子力・立地本部の菅野定信本部長代理は、「作業性が上がり、配管敷設や設備保守などの効率は向上している」と説明する。

【団結のツール】

特に建屋内は設備配置や人の流れが整理され、防護マスクや軍手などの消耗品や携帯式線量計などの供給管理が動線上にうまく配置されている。一方、屋外では仮設架台の上に配管やケーブルが張りめぐらされ、その上や下に遮水用のモルタルが吹き付けられているなど、雑然としたままだ。モルタルを割って植物が繁茂するなど、自然の力が勝っている。

福島第一原発は事故後の野戦病院のような現場から、7年をかけて“普通”を取り戻そうとしている。こうした取り組みを周知し、客観視するためにも、廃炉カンパニーは現在年間1万人の視察者を20年までに2万人へ倍増させる。

カイゼンは現場の活気そのものだ。カイゼンは活動を通して部門や所属企業の壁を越え、メンバーをまとめる強力な経営ツールになりえる。今後は視察者が増え、多くの目が入る。視察者がカイゼン自体を学ぶ大手企業の模範工場のようになるまでには時間がかかるかもしれないが、現場の活気や団結を見せられるか注目される。

(2018/2/1 05:00)

科学技術・大学のニュース一覧

おすすめコンテンツ

「現場のプロ」×「DXリーダー」を育てる 決定版 学び直しのカイゼン全書

「現場のプロ」×「DXリーダー」を育てる 決定版 学び直しのカイゼン全書

2025年度版 技術士第二次試験「建設部門」<必須科目>論文対策キーワード

2025年度版 技術士第二次試験「建設部門」<必須科目>論文対策キーワード

技術士第二次試験「総合技術監理部門」択一式問題150選&論文試験対策 第3版

技術士第二次試験「総合技術監理部門」択一式問題150選&論文試験対策 第3版

GD&T(幾何公差設計法)活用術

GD&T(幾何公差設計法)活用術

NCプログラムの基礎〜マシニングセンタ編 上巻

NCプログラムの基礎〜マシニングセンタ編 上巻

金属加工シリーズ 研削加工の基礎 上巻

金属加工シリーズ 研削加工の基礎 上巻

Journagram→ Journagramとは

ご存知ですか?記事のご利用について

カレンダーから探す

閲覧ランキング
  • 今日
  • 今週

ソーシャルメディア

電子版からのお知らせ

日刊工業新聞社トピックス

セミナースケジュール

イベントスケジュール

もっと見る

PR

おすすめの本・雑誌・DVD

ニュースイッチ

企業リリース Powered by PR TIMES

大規模自然災害時の臨時ID発行はこちら

日刊工業新聞社関連サイト・サービス

マイクリップ機能は会員限定サービスです。

有料購読会員は最大300件の記事を保存することができます。

ログイン