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(2018/2/24 07:00)
筆者は、仕事現場で発生する悩みや問題を図で表現して克服した体験から、仕事の成果につながる業務プロセスやコツ・工夫を図解で可視化して共有・伝承する仕組み作りを行っています。今回は、お客様と接触する場面のすべてに厳しい評価があるので、事前に「接触の場面」を設計する必要性を事例から紹介させて頂きます。
お客様は「接触の場面」で評価して選ぶ
もう10数年前のことです。知人が埼玉から新潟に引っ越すことになりました。そこで、インターネットで引っ越し業者を探しました。当時も、検索するとたくさんの引っ越し業者が表示されました。検索順に探していくとWEBサイトも様々です。お金をかけたデザインのもの、社員の手作りのようなもの、分かりにくい説明、不親切な案内表示などなど。検索上位から15社ほど見て「ここは!」と思える5社を選び、メールで見積もり依頼をしました。すると、このように反応がありました。
・2社は、自動メールの返信のみ
・1社は、定型フォームの事務的な内容
・1社は、担当者が苦労して打ち込んだ下手な内容
・1社は、返信が来ません(メールを見ていない?)
という結果でした。当時は、今ほどWEBサイトの重要性の認識が低かったこともあると思います。
結局、契約したのは「担当者が苦労して打ち込んだ下手な内容」のメールを送ってきた会社でした。見積もり金額が一番安いと言うわけではありませんでしたが、メールをくれた翌日には電話をかけてきて、「是非、新潟方面の実績をつくらせてください」と一生懸命だったからです。
そこは、会社ができたばかりで社員も少なく実績も少ないため、みんなが頑張っていたようです。引っ越し当日は、若い担当者が2人やってきてテキパキと積み込んでくれました。ここに頼んで良かったと満足でした。その後、この会社は数年で規模も拡大したようです。WEBサイトも充実していました。偶然ですが、筆者の義理の妹夫婦の引っ越しもその会社でした。
お客様との「接触の場面」をコントロールする
どの会社も、自分たちは一生懸命にやっていると思っています。お金と時間をかけてWEBサイトを作っています。メールも「間違いない対応をしている」と思っています。でも、選ばれる会社があり、選ばれない会社があります。接触する行為で、お客様の心にプラスかマイナスの成果を積みあげます。それが、会社の業績につながります。高い評価が得られればリピートや紹介にもつながり、逆に悪いうわさも簡単に広がります。
お客様との「接触の場面」を図2のように定義してコントロールしていますか?何も教えず、仕組みも作らず、担当者に丸投げしていませんか?
会社がコントロールしていないと、Aさんなら上手くできてもBさんだといつもクレームばかりということが発生します。「担当をAさんに変えてくれ!」と言われるなら改善できるのですが、多くは黙って離れていきます。これが、最も怖いことです。
お客様との「接触の場面」と期待する成果を定義して行動を組立てるということは、
・接触の場面:どんな場面で
・登場人物:誰と誰が
・行動:何をやって、何(物・情報)を交換する
・期待する成果:お客様に、何を感じてもらうか
を体系化して文書化することです。問題や不都合が発生したら、それを土台に改善していくことができ、だんだん完成度を高めることができます。
顧客満足を左右する4つの基本変数で考える
お客様が評価を決める要素は何でしょうか?情報を発信する側で顧客満足をプロデュースするためにはどうしたらいいのでしょうか?図3のように4つの変数に整理しました。この4つの組合せで情報の価値やお客様の受けとめ方が変わります。必要なことは、
1.ヒトの接触:信頼感を感じる誠実さ
2.モノの接触:美味しい・便利・分かりやすい
3.コンテンツ:内容の充実・信頼できる論理
4.タイミング:期待に応えるタイミングで接触
「接触の場面」と4つの変数を具体的にすると
・WEBサイトという「モノの接触」:たくさんの中から比較され、候補として選ばれる。書いてある内容「コンテンツ」が決め手となる
・メール交換という「ヒトの接触」:自動返信メールだけだと相手の心に響かない。返信のタイミングと書き込んだ内容が重要。メールを介しているが「ヒト」の感情も交換する。
・電話対応:電話をかけるタイミングと話す内容が重要。電話での印象は、相手の評価に大きく影響する
見えない所で、抜けていくことが一番怖い
社長が頑張ってトップ営業をしても、営業マンが苦労して受注して来ても、無駄に終わることがあります。それぞれの現場担当者が悪気の無いままに
・電話を受けたときの対応が悪かったり
・事前の説明が不足していたり
・予定通りの納品が守れなかったり
お客様は、そこに不満を感じます。現場には、それなりの理由があるのですが、苦労して積みあげた信頼関係が崩れてしまうことがあります。
帝国ホテルのサービスの教訓として、このような公式があります。
サービスは「100-1=0」
組織でサービスを「100」積み上げていても「一人の従業員のお客様の気分を害する行動や言動が、ホテル全体の評価を台無しにしてしまう」と言うことを数式化したものです。これは、もったいないことです。
一度立ち止まって「接触の場面」を洗い出し、どう組み立てたら良いか考えてみませんか?すべての場面には顧客の厳しい評価の視線があります。事前に、成果につながる具体的な行動と行動を支えるツールとして準備することが大切です。
SFA(営業支援システム)を始め、今後はAI(人工知能)等による営業の生産性向上が期待されていますが、それらを活用する上でも、先ず「正しい接触」をしっかりと定義することが必要です。
(『新製品情報』2017年3月号掲載)
(土曜日掲載)
【著者紹介】
池田 秀敏
有限会社テオリア代表取締役
(業務プロセスデザイナー、図解エバンジェリスト)
1957年生まれ
出身:新潟県上越市
営業系システムの開発技術者として平成元年に独立。中小企業における多くのシステム開発経験の蓄積から、業務プロセスやコツ・工夫を図解で可視化して共有・伝承する仕組み作りを提唱。図解による業務改善セミナー、ワークショップ、講演、コンサルティング等、多岐にわたり活動中。
(2018/2/24 07:00)