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STEM教育シンポジウム「AI・IoT時代に活躍できる人材の育成を目指して」

(2018/3/20 05:00)

モノづくり日本会議(事務局=日刊工業新聞社)は2月20日、東京・丸の内の東京国際フォーラムでSTEM教育シンポジウム「AI・IoT時代に活躍できる人材の育成を目指して」を開いた。STEM教育は科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、数学(Mathematics)を統合的・体系的に学習するプログラム。人工知能(AI)やIoT(モノのインターネット)が普及し、雇用・労働環境が大きく変化することが予想されている中、今後、必要となる能力・資質を養う教育プログラムとして注目されている。シンポジウムではSTEM教育の概要・重要性や国内外の動向などをデータや先進的な取り組み事例をもとに紹介し、STEM教育の今後の可能性や展望を探った。

AI時代のエンジニア育成―STEM教育の現在と未来―

【東京学芸大学准教授 大谷忠氏】

今後、AIが導入されることで製造業や運輸、卸・小売りなどの市場規模が拡大することが予測されている。その一方で、AIに代替され、無くなる仕事も存在する。AIが仕事・雇用に与える影響について予測した、教育界でよく引用される二つのキーワードがある。一つ目が米ニューヨーク市立大学のキャシー・デビットソン教授が「2027年に米国人の65%は今までになかった新たな職業に就職する」というもので、二つ目が英オックスフォード大学のマイケル・オズボーン准教授の「今後10―20年程度で、米国の総雇用者の約47%の仕事が自動化されるリスクが高い」としたものだ。学習指導要領の改訂の際にも、これらを引用し、議論している。しかし、人間にしかできない分野も存在する。それは問題を発見し、課題を設定する能力だ。今後、こうした能力を生かして新しいものを生み出す仕事が重要になる。

STEM教育は子ども向け教育の概念であり、米国立科学財団が使い始めたといわれている。その後、2007年に米国競争力強化法(COMPETES法)が制定され、STEM教育が国家戦略として推進されてきた。

東京学芸大学こども未来研究所で行っているSTEM教育プロジェクトでは、STEM教育の「E」であるエンジニアリングを、仕組みをデザインし、実用的なモノづくりをするものと定義しており、活動の方法と内容が含まれていると考えている。その活動の中で、実験・観察を基に法則性を見いだす「科学」や最適な条件・仕組みを見いだす「技術」、数量を論理的に表し、使いこなす「数学」が関連してくるのが、STEM教育の考え方である。エンジニアリングの活動を教育に取り入れ、それを設計・試作・評価というデザインプロセスの中で、技術の最適化や科学の理論化・法則化、数学の数式化・記号化を学ぶのがSTEM教育の重要な枠組みだ。

今後、日本はIT人材がますます不足するといわれている。そのため、小学校の段階からプログラミングを必修化することでIT人材を増やし、育成していくことは間違っていないと思う。また、米国や英国のように社会インフラの老朽化が進み、それを支えるエンジニアが不足するといわれている。日本は大学や高専に日本技術者教育認定機構(JABEE)の認定コースを設けるなど、エンジニアの育成に力を入れているが、ワシントン協定において、工学デザイン(問題解決)の教育が弱いと指摘を受けた。米国は新しい社会を創っていく問題解決の力を重要視しており、日本もそうしたものを目指していくべきである。単なる理数教育や理数教育の活用だけではダメだ。

今後、問題解決の力を身に付けてもらうためにSTEM教育フォーラムを立ち上げたいと考えている。企業と連携することで、高等教育機関におけるSTEM関連の講座の開発・普及やSTEMインターンシップなどを実施したいと考えている。

「課題解決型STEM人材の育成」

【アクセンチュア アクセンチュアアプライド・インテリジェンスマネジャー コーネット可奈氏】

これまでデータサイエンスやアナリティクスの領域の仕事に取り組んできた。現在は、仕事で得た知識・スキルや経験を生かして社会貢献するプロボノ活動としてSTEM人材育成プロジェクトにも参画している。

アクセンチュアはSTEMに「人間力」を備えた人材が今後、企業で求められると考えている。人間力とは(1)産業知識(2)コミュニケーション能力(3)課題解決能力―の3点だ。STEM人材育成プロジェクトでは課題解決の理論を構築し、適切な手法で解決策を実現する能力に加え、自主性・実行力といった課題解決に必要な素養やコミュニケーション能力を養うプログラムを作成している。この能力はデータサイエンティストに求められる能力とほぼ同じだ。

今後、STEMに関する仕事が増加することが予想されており、STEM人材を育成する重要性が高まっている。特に、日本企業は国際競争力が失われてきている中、イノベーションを創出する人材を育成し、確保することが求められている。

アクセンチュアではこうした問題意識から社会貢献活動で「Skills To Succeed」(スキルによる発展)という理念のもと「イノベーション創出型STEM人材の育成」に取り組んでおり、小学生から大学生・社会人までを対象に、それぞれに合ったプログラムを展開している。

  • 「課題解決型ロボットプログラミング教室」ではさまざまな分野の知見を融合させて課題に取り組む

小学生を対象にした「課題解決型ロボットプログラミング教室」では、子どもたちが身の回りの課題を見つけ、それを解決するロボットをチームで作ってもらう。課題を解決するロボットを実際に組み立て、プログラミングで制御し、最後にみんなの前でプレゼンすることで(1)コンピューターを使いこなす力(プログラミング力)(2)コミュニケーションする力(チームで成果を出す力)(3)課題を解決する力(何度も挑戦しつづける姿勢)―の三つの力を身に付けてもらう狙いがある。これまでに1000人以上の子どもが参加している。

大学生にはアクセンチュアのデータサイエンティストが講師を務める「STEM人材育成講座」を2015年から展開している。慶応義塾大学では、ビジネス活用を想定したデータアナリティクスの講義を行い、会津大学ではそれをさらに発展させ、会津若松市と連携してデータ分析に基づく政策提言を行うプログラムを実施している。学生には社会課題を解決するという目的意識を持ってデータサイエンスに取り組んでもらっている。社会人に対してはワークショップ形式やOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)形式のプログラムも提供している。

STEM教育で問題視しているのが女性のSTEM人材の少なさだ。学生を対象にアンケートをとると、STEMの知識が社会にどのように活用され、仕事に役立てられているのか女子学生にあまり知られていないということが分かった。海外では女子学生を対象にしたSTEMのイベントも実施しているため、日本でも今後検討を進めていきたい。

「デジタルキッズ」の誕生を目指して

【CANVAS理事長 石戸奈々子氏】

2002年にNPO法人CANVASを立ち上げ、デジタル時代を生きる子どもたちに必要となる「世界中の多様な価値観の人と協働して、新しい価値を生み出していく力」を育む学びの場を創ってきた。この力は言い換えるなら、コンピューターには決して代替できない「創造力」と「コミュニケーション力」。それを育む場を産学官と連携して創り出し、これまでに50万人の子どもに提供してきた。年に1回開催し、2日間で10万人の子どもが参加するワークショップの博覧会「ワークショップコレクション」もその一つだ。今年は3月31日、4月1日に福岡市科学館(福岡市中央区)で開催する。

私は以前所属していた米マサチューセッツ工科大学メディアラボの思想を受け、プログラミング教育も活動の一環で取り組んできた。その中で、重視してきたことが三つある。

  • CANVASが開催しているプログラミングワークショップ

一つ目が「読み書き、プログラミング」。子どもはこれからどんな職業に就くとしても汎用的なスキル、基礎教養としてプログラミングが必要になる。二つ目はプログラミング「を」学ぶのではなく、プログラミング「で」学ぶこと。プログラミングをツールとして学ぶことで、論理的に考え、問題を解決する力や他者と協働して新しい価値を創り出す力を育むことができる。三つ目が「地域で育む」こと。2013年にグーグルの支援を受け、プログラミングを公教育に普及させるプロジェクト「PEG」(Programming Education Gathering)を立ち上げた。公教育におけるプログラミング教育はカリキュラムや指導者、ノウハウの共有などが不足しているという課題があるため、地域の産学官が一体となって子どもたちの学びを支え、推進することが必要だ。

これまで多くの企業や地方自治体などと連携し、学校内外の教育現場へ、教育プログラムの提供や教員の研修などを実施してきた。教育現場からはプログラミング教育によって子どもが「試行錯誤しながら主体的に学ぶ姿勢が身に付いた」という声が多く寄せられた。

今ある仕事の多くが今後、失われるといわれている中、子どもたちには「自ら仕事を創り出す」ことが必要になる。大人に求められるのはこうした子どもたちが活躍できる環境を整備することだ。しかし日本のIT教育は、インフラ環境が他国と比較し、非常に遅れているなど問題が多くある。

そこで、IT教育を推進し、デザインする「超教育協会」を20以上の主要なIT・ソフト・コンテンツの業界団体や経済団体と連携し、5月に立ち上げる。未就学児から社会人のリカレント教育までを対象にしている。今後も新しい教育環境を、想像することだけではなく、それを実現する「イマジン&リアライズ」(想像と創造)していきたい。

(2018/3/20 05:00)

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