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[ 科学技術・大学 ]
(2018/4/11 05:00)
2030年代、日本を基礎物理学の中心地に―。世界の素粒子物理学者らが、東北に巨大加速器「国際リニアコライダー」(ILC)を建設する計画を進めている。日本政府は18年中にも国内誘致の可否を決める。ただ、宇宙の謎を解くという学術的な意義が大きい一方で、約5000億円の巨額の建設費が重くのしかかる。今、なぜ日本に加速器が必要なのか。それはどのような効果をもたらすのか。加速器と産業との関わりをひもとき、ILCが開く未来を考える。(藤木信穂)
【巨大科学計画】
ILCは地下約100メートルに設置する直線(リニア)状のトンネル内で、光速近くまで加速した電子と陽電子を衝突させる巨大な実験装置。国際宇宙ステーション(ISS)やフランスの国際熱核融合実験炉(ITER)に並ぶ、国際的な巨大科学(ビッグサイエンス)計画だ。
岩手、宮城両県にまたがる北上山地が建設候補地で、アジア、欧州、米国の3極が共同で推進し、21年ごろに建設をはじめ、30年代の運転開始を目指す。宇宙誕生直後の高エネルギー状態を人工的に作りだし、物質に質量を与える素粒子「ヒッグス粒子」などを精密に調べる。中国は独自に円形加速器の計画を進めており、ILCのライバルになる。
日本がいち早く建設候補地に名乗りを上げ、米国や欧州は辞退した。ただ、建設地となるホスト国には半分程度の費用負担が求められるため、各国が「手を引いた」とみる方が正しい。現在は日本政府の判断を待つ状況で、世界のILCは「東北にできるか、どこにもできないか」という運命にある。
【世界で存在感】
もっとも、日本は素粒子物理学分野で多くのノーベル賞受賞者を輩出するなど、世界での存在感は大きい。加速器の技術レベルも高く、学術向けの加速器の研究から、次世代のがん治療として期待されている「粒子線治療システム」など多くの産業が生まれたのも事実だ。素粒子物理学は基礎科学と装置開発が密接に絡み合う。
02年ノーベル物理学賞受賞者の東京大学の小柴昌俊特別栄誉教授はかつてこう語った。「ILCを作って何が分かるのかは誰にも分からない。分からないからやるのであって、初めから答えが分かっていたらやる必要はない」。基礎科学とは本来、そういうものだ。
宇宙誕生の謎に人類が挑む、その舞台として選ばれた日本。東北にとっては、東日本大震災からの復興の象徴になる。日本に“世界の加速器”を建設することの意義を問う。(水曜日に掲載)
(2018/4/11 05:00)