[ 金融・商況 ]
(2018/5/13 12:00)
厳重な警備体制が施された鉄筋コンクリート製の地下シェルター。その奥にある強固な扉を開け、ようやくたどり着くのが暗号化されたコンピューターサーバーだ。外部とは接続されていないが、そこには巨額のビットコインを管理する「プライベートキー」が託されている。
アルゼンチンの起業家ウェンセス・カサレス氏(44)は数年にわたり、ビットコインは未来の世界通貨であり、ある程度購入しておく必要があるとシリコンバレーの資産家たちに説いて回った。そして同氏こそがそれを守る人物だと納得させた。カサレス氏が率いるスタートアップ企業ザポ(Xapo)は5大陸に地下「金庫」のネットワークを形成。そのうちの1つはスイスにあるかつての軍事施設だ。
トップクラスのウェルスマネジメントの世界では、ザポは多くのファミリーオフィスの顧客を抱えていることで知られる。時折ジャーナリストの取材を受け入れ、その頑丈な地下施設についての記事も見かける。だが実際にどのくらいのデジタル資産の預入先となっているのかは謎だ。
ザポの顧客2人によれば、同社は100億ドル(約1兆1000億円)程度のビットコインを保持している。同社に近い別の人物は正確な推測だと語る。
相場変動の大きいビットコインの時価次第だが、この数字は世界のビットコイン供給の約7%に相当。設立からわずか4年の企業が、米国に約5670ある銀行の98%より多くの「預金」を持つことを意味する。
こうした桁外れの預かり資産は、次々と新事業を手掛けるシリアルアントレプレナー(連続起業家)で「ペイシャント・ゼロ」とのニックネームを持つカサレス氏への信頼を示している。グレースケールやコインシェアズといった主要な仮想通貨投資会社からの信認も厚い。
コインシェアズはザポに5億ドル超相当のビットコインを預けている。同社のライアン・ラドロフ氏は「自分たちでキーを管理していない者は皆、ザポにキーを預けている」と話す。
リンクトインの共同創業者リード・ホフマン氏やウォール街のトレーダーとして活躍し仮想通貨の商業銀行設立を進めるマイク・ノボクラーツ氏もザポの支持者だ。
ビットコインを所有する上で何より大切なのは、プライべートキーの安全な保管だ。もし盗まれるようなことがあれば、瞬時に資産を失い、取り戻せる望みもない。インターネットに接続した装置にそうしたキーを置くことは便利だが、ハッカーに狙われる危険性も高い。
最も一般的な対策は「コールドストレージ」つまり冷蔵と呼ばれるやり方で、サムドライブなどのオフライン装置にキーを保管することだ。だがリスクは残る。オンライン接続時を狙いわなを仕掛けるハッカーもいるほか、家への侵入や誘拐などでそうした装置が奪われる恐れもある。身元を隠し、自宅を要塞(ようさい)化し、自衛手段を研究しているビットコイン界の大物もいる。
ザポが考案したソリューションは、電子的に防御が張り巡らされた山岳地の地下施設だ。カサレス氏からビットコインを買うよう説得されてから数年後の2014年、ホフマン氏のベンチャーキャピタル、グレーロック・パートナーズはザポへの2000万ドル投資を主導。「保管とセキュリティーの機能が鍵を握ると最初に認識」したのがザポだとホフマン氏は言う。
カサレス氏はこの記事についてのコメントを控えた。ザポ創業時には露出も多く、複数の仮想通貨会議で多くの聴衆を集めた同氏だが、メディアとのインタビューは基本的に避けている。(ブルームバーグ)
(2018/5/13 12:00)