[ ICT ]
(2018/6/1 05:00)
統合業務パッケージ(ERP)市場をリードするSAPが、ここにきてIoT(モノのインターネット)分野の“主役”も虎視眈々(たんたん)と狙っている。その差別化戦略とはどのようなものか。
IoTはSAP Leonardoのテクノロジーとして提供
「IoTならSAPと言われるようになりたい」―。SAPジャパンでデジタルエンタープライズ事業を担当する宮田伸一常務執行役員は、同社が先頃開いたIoT戦略に関する記者説明会でこう力を込めた。
何とも挑戦的ながら確固たる自信を感じさせる発言である。その根拠はどこにあるのか。ということで、今回はSAPのIoT分野における差別化戦略を探ってみたい。
まず、SAPはIoT向けソリューションとして「SAP Leonardo(レオナルド)」を提供している。レオナルドは、企業のデジタル化に必要な「テクノロジー」、その適用を迅速に行う「アクセラレーター」、そして「導入手法」からなる「低リスクかつ短時間でデジタル革新を実現するイノベーションシステム」(SAPジャパンの森川衡バイスプレジデント ソリューション統括本部長)だという。(図1)
そのテクノロジーは、IoTをはじめ、ビッグデータ、機械学習、データインテリジェンス、ブロックチェーン、アナリティクスといった六つの要素からなり、SAP Cloud Platform(クラウドプラットフォーム)から提供される。従って、SAPのIoTと言えば、レオナルドにおけるテクノロジーの一要素を指す形となる。(図2)
ちなみに、2018年2月23日掲載の本コラムでは「エンタープライズソフトベンダー“2強”のAI戦略」と題して、SAPとオラクルの人工知能(AI)への取り組みを解説したが、この時はレオナルドの機械学習技術について取り上げた形だ。
差別化の決め手はテクノロジーでなくソリューション
では、SAPのIoT分野における差別化戦略はどのようなものなのか。森川氏によると、「テクノロジーについてはデジタルを推進している他のベンダーとそんなに変わらない。SAPがIoT分野で大きな差別化ポイントにしているのは、テクノロジーを生かすアクセラレーターと導入手法を用意していることだ」という。すなわち、図1に示したように、レオナルドとしてテクノロジー、アクセラレーター、導入手法を組み合わせて提供するところが、SAPならではというわけだ。
図3に示したのが、レオナルドのアクセラレーターである。業種向けとして、組み立て製造や小売りなど7業種を第1弾として取り上げ、業務別・技術別としてIoT向けのものを7種類ラインアップし、これらをそれぞれパッケージとしてこのほど国内で提供開始した。この特徴は、目指すIoTシステムを8割程度まで容易につくり上げることができる“レディーメード”なパッケージになっている点だ。
そして、図4に示したのが、レオナルドの導入手法である。ここでの注目点は、SAPがいま最も力を注いでいる取り組みの一つである「デザインシンキング」の手法を取り入れていることだ。
森川氏はこの点について、「しかも私たちは、デザインだけでなくプロトタイプまでお客さまと一緒につくり上げていく。それができるのは、ERPをはじめとして企業の業務を熟知しているからだ。デザインシンキングはコンサルティング会社なども取り入れているが、幅広い業務を熟知し、具体的なソリューションを手がけている私たちのほうが、スピードでも内容でも優位に立っていると自負している」と語った。
つまり、テクノロジーではなく、ソリューションが差別化の決め手というわけだ。長年にわたって、多くの企業に業務アプリケーションを提供してきたSAPらしい主張と言えそうだ。(隔週金曜日に掲載)
著者プロフィール
松岡 功(まつおか・いさお)
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT」の3分野をテーマに、複数のメディアでコラムや解説記事を執筆中。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌の編集長を歴任後、フリーに。危機管理コンサルティング会社が行うメディアトレーニングのアドバイザーも務める。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年生まれ、大阪府出身。
(2018/6/1 05:00)