[ 機械 ]

高付加価値生産を支える マシニングセンター(2)数値制御工作機械の動作最適化技術

(2018/10/4 10:00)

位置計画(CutterLocation)から動作計画(CutterMotion)へ

 近年、航空機や金型、医療部品などの複雑な形状を持つ機械部品の製造では、高効率切削条件の適用のため、工作機械の主軸送り速度を極めて高く設定することが求められつつある。この種の計画に際しては、工具・加工対象物への切削抵抗作用への考慮に加え、工作機械の実際の動作速度や加工所要時間の考慮がしばしば非常に重要な課題となる。これまで、この種の工作機械動作の最適化はコンピューター数値制御(CNC)コントローラー内部での補間処理として行われ、コンピューター利用製造(CAM)における経路生成段階では特に考慮されてこなかった。一方、テーブル旋回型工作機械を用いた同時多軸制御加工においては、工具姿勢の変更に伴って直進軸側への指令値が大きな影響を受ける場合があり、急激な加減速や微小線分長さでの経路指令によって事前の加工時間の見積もりや指令工具送り速度が実際の結果とかけ離れたものになる事象が発生している。そこで、ここでは工作機械の動作予測に関する近年の研究動向と将来の課題について紹介したい。

埼玉大学 大学院理工学研究科 准教授 金子 順一

工作機械への位置指令に対するCNCコントローラー内部での補間と事前予測

 一般に、工作機械の各軸に対する指令値は、まずCAMソフトウエア上において、ワーク座標系のもとで切れ刃先端座標、および工具姿勢が刃先位置情報(CLデータ)として導出され、これをポスト処理ソフトウエアによって工作機械の各軸への指令値(数値制御(NC)データ)に変換して加工が実行される。

 この時、CLデータの生成においては曲面上での工具運動を線分の連なりとして指令するため、元のCADデータに対して一定の範囲内に創成された面が位置するように、幾何的な計算によって微小な間隔で座標が導出される。また、ポスト処理ソフトウエアにおいては、この各通過経路位置の座標が数学的に直進軸、旋回軸の指令値に変換される。

 従来、これらの処理においてCLデータは機械構造に関係なく、同一の離散情報として出力されており、工作機械の各軸の構造や加速度に関する特性は考慮されず、主にCAMオペレーターの経験と判断に依存して最適化が図られてきた。一方、工作機械の直進軸や旋回軸には摩擦や加工対象物の重量といった外乱に対する補償や加減速特性の違い、CNCコントローラーの処理能力の制約から各軸の最大送り速度に制約が生じることがあり、工作機械の差異により実際の工具経路や送り速度が影響を受ける。

 このため近年のCNCコントローラーでは、与えられた離散点の座標情報から、NCデータにおいて指令された経路を数理曲線によって補間し、各軸に対する指令値を内部で生成しなおす機能が搭載されている。これらの機能では、あらかじめ工作機械のパラメーターとして、工作機械の動作の連続性と、指令値に対する経路のずれのバランスを指示することが一般的であり、その内部処理は一般には公開されていない。

 さらに近年では、単独の工具経路だけでなく、隣接する他の工具経路との相対的な位置関係から、CAMソフトウエアにおいてオペレーターが加工を意図した曲面の形状を推定、もしくはCADモデルから入力し、その上で工具経路を生成しなおす機能が普及しつつある。代表的なものとしては、独シーメンスが「Sinumerik software」に搭載した“TOP SURFACE”機能や、牧野フライス製作所の「CNCコントローラ Professional6シリーズ」の経路最適化機能が挙げられる。

 これらの機能はCAMソフトウエアで考慮されていない工作機械側の位置指令の最適化を、CNCコントローラー内部のみで実施しようという試みとなる。これらのアプローチの特徴としては、最適化をCNCコントローラー内部の実施に止め、工具の選択や工程設計といった、CAMソフトウエアが使用される段階に影響を及ぼすことを考慮していない点が挙げられる。

 一方、近年、学術分野では工作機械の制御系をモデル化し、工具切れ刃通過位置の誤差を離散的な形状モデル上に削り込みの跡として反映させることで、加工誤差を可視化する技術が神戸大学の佐藤隆太准教授の研究グループにおいて提案されている。また実機における工具切れ刃通過時の誤差を計測して、その量を補正値として経路に与えることにより、ブレード形状の翼端における幾何誤差を低減する手法も提案されている。

 これらの手法は解析的、もしくは実験的に実加工前に機械の動作を可視化し、工具経路を事前に工作機械の特性に合わせて最適化しようとするものであり、今後の発展が期待される。

工作機械への速度指令に対するCNCコントローラーの制約と対策

  • 図1 離散点による工具経路点指令における実送り速度低下の例/通常、NCプログラム内での指令値に対して90%程度に最大送り速度を低減した状態で加工が実施される

 一般に、CNCコントローラーはサーボモーターの駆動と同時にエンコーダーからの位置フィードバックを受けて各軸の指令値を与えるため、制御周期の影響を大きく受ける。特に、工具経路を構成する経由点の間隔が非常に小さく、一般的な制御周期(1―16ミリ秒)よりも早く次の経路点を工具が通過するような送り速度をNCデータ内で与えられた場合、制御周期に同期する形で図1に示すように実際の送り速度が制約を受け、大幅な速度低下が生じる事例がある。

  • 図2 試験における工具経路軌跡/X方向に50マイクロメートルごとに離散点を設定し、このXY座標をNCプログラムの指令値としている

 過去の研究では、慶応義塾大学の青山英樹教授のグループがファナック製コントローラーにおいて、経路点の間隔をCNCコントローラーの制御周期と送り速度の倍数になるように調整することで、同じ経路でも実際の工作機械動作速度が向上することを報告している。また近年では、曲線状の経路を微小線分によって近似的に与える際に、隣接する各線分が持つ送り方向ベクトルのなす角を考慮し、線分長を調整することで加工時間およびトレランスの双方を満足させる手法が、東京農工大学の笹原弘之教授のグループにおいて提案されており、今後の発展が期待される。

 筆者らの研究グループでは、加工知能化への取り組みの一環として、切削抵抗の事前予測において、機械の各軸の特性を考慮した工具送り速度最適化のアルゴリズムの検討を行っており、高精度な実送り速度予測の手法を開発している。CNCコントローラーの制御周期1サイクル内に主軸が次の指令位置に移動したと仮定した場合の各軸に求められる送り速度を推定し、これが工作機械の上限を超える場合の上限値を一定のアルゴリズムで設定する。

  • 図3 実送り速度の指令値および予測結果の比較/実際の機械動作において、CNCコントローラーの制御周期に対して遅いテーブル送り速度(F)が毎分1000mmの中盤において、大幅な実送り速度の低下がみられ、よく予測できている

 図2と図3は、連続的な曲線を微小線分経路で指令した場合の各軸の送り速度の変化とその予測結果を示す。事前の実験においてCNCコントローラーの制御周期を推定することで高い精度での予測を可能としている。

機械動作計画の今後の課題

 現在、市場では前述のように既存のNCデータに対して解析を行い、本来意図した工具経路とのトレランスを考慮しつつ機械指令値を修正する手法が既に提案されており、従来の経路計画に対する、CNCコントローラー内部での弥縫(びほう)策的な対応は実現しつつある。しかしながら、工具経路生成の段階から工作機械の構造や軸構成を考慮し、実送り速度の確保や同時多軸制御加工における姿勢変化の影響を反映可能なシステムはいまだ実現されていない。

 このため今後、高効率かつ高精度な切削加工の実現においては、各工作機械特有の物理的な制約を事前に考慮し、機械の性能を十分に発揮可能な工具経路・工具姿勢・送り速度の導出や、それらを実現可能な工程設計や治具設計を支援するシステムの開発が重要になると考えられる。

高付加価値生産を支えるマシニングセンター(1)日本の工作機械をけん引

JIMTOF2018特集

(2018/10/4 10:00)

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