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(2018/12/20 05:00)
モノづくり日本会議(事務局=日刊工業新聞社)は11月30日、第11回通常総会、第15回/2018年超モノづくり部品大賞(主催=モノづくり日本会議、日刊工業新聞社、後援=経済産業省、日本商工会議所、経団連)の贈賞式、モノづくり推進シンポジウムを東武ホテルレバント東京(東京都墨田区)で開いた。贈賞式では大賞に輝いた日立製作所の「体内の浅部から深部まで鮮明な画像を撮像できる超音波探触子」など36件を表彰。シンポジウムでは、人間と人工知能(AI)との協業をテーマに国立情報学研究所の山田誠二教授が講演した。
部品大賞に日立
体内の浅部から深部まで鮮明な画像を撮像できる超音波探触子
車関連で研究会
第11回通常総会では、17年度(17年10月―18年9月)の事業活動報告、収支報告、さらに18年度(18年10月―19年9月)の事業計画案および事業予算案などを説明し、議案はすべて承認された。
18年度の新事業では、変革期に直面する自動車・交通関連産業に焦点を当てた「新モビリティー研究会」を発足させる。CASE(コネクテッド・自動運転・シェアリング・電動化)やMaaS(移動のサービス化)が注目される中、車産業が抱える課題とビジネスチャンス、海外での先行事例などを探る。
既存の「モノづくり力徹底強化検討会」も内容を組み替え、IoT(モノのインターネット)、AI、ロボット、金属積層造形を駆使した高効率のモノづくりと、サービス領域で付加価値を高めるビジネスモデルなどを紹介。国際通商関係の変化や頻発する自然災害を念頭にバリューチェーンのあり方も議論する。
部品大賞贈賞式 優れた製品・技術 世界に発信
超モノづくり部品大賞の贈賞式は受賞企業関係者をはじめ、来賓、審査員など約170人が出席。受賞企業には、井水治博日刊工業新聞社社長(モノづくり日本会議代表幹事)らから賞状や目録、記念盾が贈呈された。
審査アドバイザーの小口泰平芝浦工業大学名誉学長は「今年の受賞部品からは、モノづくりの基本である伝統的な英知の追求と新分野を開拓するチャレンジが目立った」と講評した。
来賓として出席した経済産業省の水野正人製造産業局ものづくり政策審議室長は「受賞企業は、地球温暖化など世界的な課題の解決にモノづくりの力を活かし、それを世界に発信してほしい」と祝辞を述べた。
最後に、大賞を受賞した日立製作所の河野敏彦ヘルスケアビジネスユニットチーフエグゼクティブは「日立は今回の受賞部品を含め、医療分野でさまざまな世界初の技術を開発してきた。今後も優れた製品・技術の開発を通じて医療の発展に貢献していきたい」と意気込みを語った。
超モノづくり部品大賞は、日本のモノづくりの競争力の源泉である部品や部材に焦点を当てた表彰事業。モノづくり産業の「縁の下の力持ち」である部品産業の振興・支援を目的に、これまで500件を超える部品・部材を表彰してきた。
次回「第16回/2019年超モノづくり部品大賞」の募集は、19年3月1日に開始予定。18年1月以降に開発・製品化した部品や部材が対象となる。
モノづくり推進シンポジウム
国立情報学研究所 教授・山田誠二氏「人工知能の現状と人間―AI協業に向けて」
AIはこれまで1960年代、80年代、2010年代と3度ブームがあった。第2次ブームでは形式知化できない暗黙知の存在が、その後の「AI冬の時代」の起因になったといわれている。近年、ディープラーニング(深層学習)が非常に使えるものと認識され、IT企業を中心に応用が進んだことから、第3次ブームとなっている。その背景として計算機パワーとビッグデータが安価に使えるようになり、機械学習が応用レベルに進んだことが挙げられる。
現状のAIは、囲碁やチェスといった完全情報ゲームの世界、それにサイバー空間のような複雑だが静的で閉じた世界を得意にしているが、文化、モラル、感情などの常識が必要となる世界や動的で開いた世界は不得意である。この課題を解決するため、人間なら容易にイメージできるような物理現象や自然現象、社会的常識をAIに全て覚え込ませる取り組みも進められているが、膨大な時間を要するため非現実的だ。
10―20年以内には日本の労働人口の49%がAIやロボットなどで代替可能になるというリポートが15年に野村総合研究所とオックスフォード大学から出され議論になっているが、AIを研究している立場からすると言い過ぎだと思う。人間が行っている仕事の一部がAIに置き換えられる可能性はあるが、人間一人がやっている仕事を丸ごと代替するとは考えにくい。コンビニ店員の仕事もレジ打ちだけではない。床掃除やゴミ処理、品出し、おでんの仕込みなど複雑な作業もあるため、AIに丸ごと代わってもらうことは不可能だ。定式化されにくい仕事は、今後もAIに代替される可能性は低いと考えられている。
人材育成の観点ではAIを使いこなす「AIリテラシー」が最も重要だ。AIを研究する理工系の大学であっても、中のアルゴリズムは教えるが、AIをどのように使いこなすかといった教育が不十分だ。今後、AIリテラシーを持ったエンジニアが重宝される。
AIと人間との協業の実現例としてよく取り上げられるのが、人間とコンピューターが組み、別の人間とコンピューターのコンビと戦う「アドバンストチェス」だ。ここでは人間とAIが得意分野を補い合い、協調して問題解決に取り組んでいる。こうしたAI・ロボットと人間との協業は工場の生産ラインなどで導入が進んでいる。
「相互理解」「信頼」「役割分担」重要に
今後、AIと人間との協業を進める上で重要になるのが、互いにモデルを持ち合う「相互理解」、過信・不信のない「信頼関係の構築」、「役割分担の明確化」だ。
現在、自動運転で最も重要なのが歩行者のモデルを持つことだといわれている。人間のドライバーは歩行者の年齢、性別、歩き方など、さまざまな情報を計算することで歩行者を避けて走行するが、現状のAIではそのモデル化や計算がまだ難しい。これはAIと人間とが、インタラクション(相互作用)を持つケースでは、AIは人間のモデルを持たなければならないという事例だと思う。
(2018/12/20 05:00)