[ その他 ]
(2019/1/16 05:00)
関西大学名誉教授(バリ取り大学元学長) 北嶋 弘一
労働人口の減少などを克服する手段として外国人労働者を増員する「移民政策」を巡って国会が紛糾した末に通過し、大きな社会問題となっている。また、人手不足に関連する倒産件数が過去最高を記録するとともに、中小企業を中心に採用活動が困難になってきている。それに加えて、高度な技能を持つ熟練技能者の減少も大きな問題になっている。今日の日本のモノづくりが世界で認知されるようになった要因の一つには、高度な職人技にあることは誰しも認めるところで、キサゲ職人やバリ取り・エッジ仕上げ・磨き職人などなくてはならない存在として製造業を支えてきている。その一方で、依然として機械加工後のバリ取り・エッジ仕上げが労働集約型作業として取り残された状態にある。人手不足や次世代の担い手不足で、高齢化した技術者が蓄積してきたノウハウをどのように伝承していくかが現在問われており、バリ取り・エッジ仕上げ技術もその一つであることは言うまでもない。ここでは、このような状況下で、永遠の課題であるバリ取り・エッジ仕上げ技術の自動化・省人化への潮流に焦点を当てて考えてみる。
自動化システムと人(作業者)の役割
日本ロボット工業会によると、2017年度のロボット受注台数は約23万5000台(前年度比29.2%増)と大きく飛躍している。特に、工作機械のそばに6軸多関節ロボットを配置してワークのローディング・アンローディングを行い、自動化とともにタクトタイムの向上に貢献している。さらに、近年バリ取り・エッジ仕上げ作業の自動化も急速な高まりを呈している。
図1に自動化システムと人(作業者)の役割を示す。図1(a)に示すように、部品の品質と生産量によってバリ取り・エッジ仕上げの自動化に適する領域と、人による熟練作業が必要な領域とに分かれる。A、C領域は機械的除去加工、B、D領域は人による手作業が必要となる。
またC領域において部品のエッジ品質への要求を満足するには高度な熟練作業が必要となり、D領域では作業環境改善の要求に対応した機械的除去加工への転換を考慮しなければならない。B領域では人の作業工程数に比例して加工コストが増大するため、これを改善して低コスト化を実現するための自動化システムの検討が必要になる。
一方、図1(b)のようにバリ取り・エッジ仕上げの自動化システムの完成度と製品の高付加価値化とは、必ずしも比例しないと言える。高度な熟練技術を持つ場合には、人による手作業によって対応できるが、多様な製品のバリ取り・エッジ仕上げに対しては高度な自動化システムが求められることになる。
自動化システムに要求される要素と機能
ロボットを利用したバリ取り・エッジ仕上げの自動化システムを構築するには、図2に示すようにロボット本体以外に自動化システムとして要求される要素と機能を考慮しなければならない。
これらの多くの要素の中で、力センサー、オフラインプログラミング、オフラインティーチングが自動化システムの構築に際して重要なポイントとなり、ロボットメーカー各社がそれぞれ課題としている。3Dデータを利用したオフラインプログラミングやオフラインティーチングによるロボット作動のソフトウエアも開発されている。
次に、安川電機が現在開発中の力センサーを利用した自動化システムについて図3を用いて紹介する。まず、実演教示機能によって熟練技能者が実演した位置姿勢θrefと力データFrefが入力され、バリ取り・エッジ仕上げによってワークが受けた力Ffbは力センサーによって計測される。この両力の差分値から柔軟モデルによって力の司令通りに動作するための手先位置の補正量が算出され、位置指令に変換されて実演による位置指令θrefを加算して位置制御系に入力される。
一方、エンコーダーから各軸の位置・速度がフィードバックされ、実演時の位置・力指令になるようにモーターに指令が出力される。しかし、力センサーによる制御では応答速度が遅いためにオーバーシュートや追従遅れを生じ、均一なバリ取り・エッジ仕上げができない原因となる。そこで、繰り返し学習法を用いてこの問題を低減している。
自動化システムの開発動向
写真1に示すようなバリ取り・エッジ仕上げの自動化システムが東洋鐵工所によって開発されている。同システムはロボットより操作が簡単で、しかも高剛性であることを最大の武器に、位置制御3軸、姿勢制御2軸、可動範囲制御1軸の6軸制御として簡単操作を実現しており、アルミダイカスト部品の一次バリ取りを当面の目標としたシステムである。
一方、ワーク把持を採用したロボットを利用して、ヤマシタワークスが開発した医薬剤用金型のブラスト研磨法によるバリ取り・表面仕上げを行うシステム例を写真2に示す。近年、人手に依存していたバリ取り・研磨仕上げをロボットの利用で自動化することを積極的に提案した例である。
ロボット導入による自動化システムの開発に際しては、前述のようにティーチングによるバリ取り・エッジ仕上げ技術のノウハウの注入が必須となるが、システムインテグレーターが不足しているために、その普及にブレーキがかかっており、対策が急がれる。その人材は現状において約1万6000人であるが、政府は2020年には3万人まで増やす目標を掲げている。
砥粒加工学会「バリ取り加工・研磨布紙加工技術専門委員会」の活動へぜひご参加を!
バリ取り加工・研磨布紙加工技術専門委員会は、今日の製品の高機能化・高品質化に伴う精密表面仕上げ技術およびバリ取り・エッジ仕上げ技術に対して、砥粒(とりゅう)加工学会と産官学の研究者ならびに技術者との学術交流や情報交換を促進することにより、新しい加工技術の開発や生産技術の向上を図ることを目的として活動している。
2009年に設立以来、東京ビッグサイト、インテックス大阪、新潟県燕三条地場産振興センターでの展示会・講演会を含めて28回の研究見学会を開催し、18年度中に総会・研究見学会を開催(場所は未定)する予定である。現在、表に示すような活動目標のもとに23社の企業会員、2名の個人会員および2協賛団体で活動を行っており、参加企業の発展のみならず砥粒加工学会の活性化に寄与する活動を行っている。読者諸氏には是非ともご参加いただきますようお願い申し上げます。
(公社)砥粒加工学会 バリ取り加工・研磨布紙加工技術専門委員会
=活動目標=
・各種工法におけるバリ生成メカニズムの解明
・バリ生成の抑制策の開発
・バリ生成状態の計測法の開発と画像認識による計測の開発
・バリ取り・エッジ仕上げ法の開発
・研磨布紙工具の高精度・高能率に向けた開発
・研磨布紙加工による精密研削技術・研磨加工技術の開発
・研磨布紙工具による精密加工機械の開発
・研磨布紙工具によるバリ取り・エッジ仕上げ法の開発
(2019/1/16 05:00)