(2019/4/23 00:00)
日立システムズは、国際協力機構(JICA)がフィリピンで実施したドローンを活用した橋梁点検の実証実験に大日本コンサルタントなどと参画した。ドローンで撮影した橋梁の画像データをもとに3次元モデルを作成したほか、人工知能(AI)を活用し、亀裂(クラック)が生じた可能性のあるコンクリート箇所を分析するなどした。同社は2016年から「ドローン運用統合管理サービス」の提供を開始し、社会インフラの維持・管理などを支援する。今後は国内だけでなく海外にも事業を拡大し、20年後までに200社以上への導入を目指す。
画像もとに3次元モデル作成
大日本コンサルタント海外事業部の長尾日出男部長は「日立システムズと共に参画したのは、JICAが16年2月から19年1月に実施した『道路・橋梁の建設・維持管理に係る品質管理向上プロジェクトフェーズⅢ』の事業の一環。同プロジェクトでは、フィリピンのインフラプロジェクトを所管する機関『公共事業道路省(DPWH)』に所属する約100人の若手技術者の人材育成・能力向上を目的にしている」と説明する。
日立システムズは同プロジェクトのうち、ドローンを活用した特殊橋梁の点検に協力した。フィリピンでは橋脚と橋脚の間が60メートル以上ある橋を「特殊橋梁」と定義している。特殊橋梁は山間部などに建設していたり、島と島をつなぐ長大橋だったり点検が困難であることが課題だった。
点検作業は飛行計画を立て、橋梁の周辺地形の情報を収集した後ドローンで撮影する。撮影した映像はエンジニアが確認して、損傷の可能性がある箇所を改めて静止画として取得する。ドローンによる特殊橋梁の撮影などはフィリピンの地元企業が実施し、日立システムズは橋梁の3次元モデルの生成とAIを活用した解析、3次元モデル上で劣化箇所の記録を実施した。日立システムズのAI分析では、映像からコンクリートの劣化を判断し、クラックの可能性を分析する。さまざまなクラックの事象をディープラーニング(深層学習)により蓄積させており、亀裂を高精度に自動検知できる。
社会インフラ 維持・管理を支援
実際にドローンを活用した点検を実施した橋脚は「アガスアガス橋」と「サンファニコ橋」の二つ。アガスアガス橋は山岳部に建設しており、橋の長さは350メートル、最大の橋脚の高さは75メートル。今回の点検により、歩道の一部でコンクリートの剥落などがあることが判明した。
サンファニコ橋は海上に架かる橋梁。橋の長さは2162メートルにも及ぶ。同橋梁でもボルトの破断や塗装の剥がれおよびコンクリート橋脚のクラックが発見された。JICA社会基盤・平和構築部の金縄知樹課長は「日本では目視や打音による検査手法が確立されているが、フィリピンでは長大橋の点検が実施されていないのが課題。点検方法や組織体制もない。人力の点検を進めていくのは難しい」と説明する。そのためJICAでは、日本国内で開発が進むAIなど情報通信技術(ICT)を活用した検査方法を試行的に実施し、効果の検証や点検方法の定着に向けて動きだしている。
海外進出を目指す国内企業にも同手法は有用だ。民間企業が単独で進出する場合のリスクをJICAと連携することで軽減できるほか、ICTを活用した技術を相手国に理解させることも可能だ。金縄課長は「今回は試行的な取り組みだが、今後フィリピンでICT技術を活用する点検がさまざまな橋梁で実施される可能性もある。その場合は、日本企業の海外展開にもつながる」と期待する。
日立システムズでは同実証への参画をきっかけに、ICT技術を活用した橋梁点検を含めたドローン運用統合管理サービスを東南アジアに展開する方針。同社金融事業グループドローン・ロボティクス事業推進プロジェクトの宮河英充部長代理は「システムの英語化などにも取り組み、事業を拡大していく」と意気込む。
(2019/4/23 00:00)