(2019/5/15 05:00)
素形材産業の公正取引と金型の保管・管理の適正化に向けた動きが活発だ。東京都金属プレス工業会(TMSA、東京都墨田区)は事業革新パートナーズ(BIPC、東京都中央区)と共同で独自のアクションプランを策定。会員企業向けに情報収集の仕方や取引先との交渉方法などの支援を開始した。これに呼応して、金型管理の情報整備やシステム構築にノウハウを持つ日立システムズも本腰を入れている。TMSAやBIPCと連携し、1次だけでなく、2次、3次プレスメーカーも支援する仕組みを構築する方針だ。
積年課題解決へ
政府は親事業者と下請事業者の双方の適正取引や付加価値向上、サプライチェーン全体にわたる取引慣行の改善プランを、2016年度から推進中である。この施策は「世耕プラン」と呼ばれ、本来は親事業者が負担すべき費用などを下請事業者に押し付けないよう、各業界団体に対して自主行動計画の策定と着実な実行を要請するものだ。
世耕プランを受け、素形材団体のトップを切って取り組みを開始したのがTMSAと活動委託先のBIPCである。TMSAの会員企業は地価の高い首都圏に工場や倉庫を立地するなど、他の地域に比べて金型の保管・管理が重要課題になっていた。BIPCは素形材企業の業務支援を行うコンサルタント会社。コンサル先の経営者から「創業来の金型がたまっている」など、金型の保管・管理に関する悩みを聞くことが多かったという。
独自プラン策定
本来であれば取引慣行の改善は当事者同士が決めるべきことである。しかし、下請けメーカーがそれを行うのは、顧客に盾突くようなものなので、独力ではやりきれない。そこで「第三者である我々に支援が求められたのです」(茄子川仁BIPC社長)。
アクションプランの策定に向け、TMSAの会員企業を調査すると、半数以上の企業がお金を生まない非量産金型を多数、保管していることがわかった。何十年も使われていない金型は廃棄されても不思議ではないが、廃棄した後に、顧客から「やはり必要だ」と言われたら大変なことになるので、多くの下請けメーカーは万一に備えて保管し続けていたのである。金型を置くために空き地や外部倉庫を借りる企業も少なくない。TMSAの会員企業は、1次プレスメーカーは少なく、多くは年商10億―30億円の2次、3次プレスメーカーである。それらの企業が年間数百万から数千万円の費用をかけて金型を保管していたのである。
調査結果を踏まえ、18年3月「TMSAアクションプラン」が策定された。同プランは準備、情報収集、交渉の3編で構成。単にフォーマットを作り、情報共有をするだけではなく、実際に顧客へそれを提示し、理解してもらい、金型の廃棄や保管費の支払いの了解を得るまでのアプローチ方法まで盛り込んでいるのが特徴だ。
活動前と活動後を比較すると「プレスメーカーが最も変わったのは『声を上げていいんだ』と思うようになったことです」と茄子川社長。「言ってみたら、意外にも顧客がすんなり理解し、受け入れてくれた」という成果も報告されている。
管理のシステム化
その一方、活動を通して新たな課題も見つかった。2次、3次プレスメーカーの金型管理は従来、適切であるとはいえなかった。管理のシステム化どころか、台帳すら整っていないメーカーも散見された。これでは仮に取引先が金型保管料の支払いを認めようとしても、納得してもらうのは難しい。そうならないためにも、金型管理を適正化することが必要だ。そこで、BIPCらが連携の相手として白羽の矢を立てたのが、ITサービス会社の日立システムズである。
日立システムズは製造業など現場のデジタル化を支援する統合資産管理サービスの一環として、17年度から「金型管理モデル」を提供している。同社は「これまで中堅規模以上の企業で個別対応してきたが、クラウドを活用したり内容を共通化した上で、団体などを通じて何社かまとまれば、2次、3次プレスメーカーの支援にも使えると思う」という。ただし、それでも多少の投資は必要だ。サポーティングインダストリーを守るために、新たな補助金制度の導入をはじめ、官民を挙げて知恵を絞る必要がありそうだ。
(2019/5/15 05:00)