現場での安全確認を徹底! 9月30日はクレーンの日

(2019/10/10 05:00)

業界展望台

9月30日は「クレーンの日」。1980年に日本クレーン協会とボイラ・クレーン安全協会が、クレーンなどによる労働災害防止の意識向上を図るため制定した。毎年この日に、両協会は全国のクレーン関係者に向けてクレーンによる災害防止を呼びかけている。災害防止の重要性についての認識を新たにし、現場では点検・整備を行うなど、事故ゼロに向けての意欲を高める機会としたい。

現場の効率化に貢献

クレーンは人手で運べない重いものや大型のものを効率良く運搬する機械として、建設現場や工場、倉庫、港湾などさまざまな場所で数多く活躍している。ものを吊り、移動させるこの機械が果たす省人力化、時間的効率化の恩恵は計り知れない。

一方で、大重量のものを吊る機能性上、小さな不注意で重大事故につながる恐れがある。2017年にクレーンなどによって発生した労働災害事故での死傷者数は1622人(日本クレーン協会調べ)。この数をどれだけ減らしていくかがクレーンを使用する業界全体の喫緊の課題となっている。

規制が厳格化され、クレーン操作・玉掛けする可能性のある職場・職種に就く者は、一様に作業資格を取得する必要がある。日本クレーン協会とボイラ・クレーン安全協会などの団体では、全国の支部などで定期的に講習会を開き、技能習得の場として受講生を受け入れている。

ニーズ高まる 外国人向け技能講習

  • 安全作業の徹底を丁寧に教える講師

近年、はるばる海外から来日してクレーンや玉掛けの技能講習を受講する外国人がいる。

国際貢献と国内の労働者不足解消を目的に、1993年に厚生労働省管轄のもと、「外国人技能実習制度」が設立された。この制度を利用して来日する外国人は金属プレス加工や構造物鉄工作業など、受け入れ対象職種によってはクレーンを使用する現場に配属されるため、外国人向けのクレーンや玉掛け技能講習のニーズが年々高まっている。

同技能実習制度設立初期から外国人の受け入れと国内企業をサポートしてきた関東情報産業協同組合は、これまで5000人を超える外国人を斡旋してきた実績を持つ。制度開設当初は中国人実習生が多かったものの、中国人実習生への労働賃金上昇に伴ってその割合は落ち込み、現在はベトナム人の受け入れが圧倒的に多い。このほか、タイ人やフィリピン人、インドネシア人などASEAN諸国からの実習生数が伸びている。

同組合では実習生の企業配属に先立ち、日本語研修の実施はもちろん、業種によっては各種技能講習への受講もサポートしており、クレーンにおける技能講習もその対象だ。日本で基準となる安全意識と、外国人実習生の持つ意識に大きな隔たりがある上に、言語が不自由なために作業中の重大事故につながりやすい。「せっかく来日してくれた実習生が事故でケガや障害を負ったり、実習期間途中で帰国する事態は絶対に避けなければならない」と第2国際部の西川和良部長代理は語気を強める。

ベトナム人向け玉掛け技能講習

外国人向け技能講習ではどのように指導しているのだろうか。8月上旬、日本クレーン協会が開講するベトナム人向けの玉掛け技能講習を見学した。

「大きく巻き上げの合図、もう1回!」「ピーピー」、「今度は大きく巻き下げの合図!」「ピーピーピー!」。クレーンは大型倉庫内や屋外で稼働する上、稼働音が大きいために、声による操作指示がクレーン操縦者に伝わりにくい。確実に合図を操縦者に伝えるために、指示者は手ぶりとホイッスルによる信号を学ぶ。「急停止」など、場合によっては重大事故を防ぐかもしれないその合図方法を、講師も真剣なまなざしで的確な手ぶりとホイッスルの鳴らし方を指導する。講師の日本語は、帯同するベトナム人通訳者が同時通訳で受講者に伝えるとともに、テキストなどの教材も外国語でそろえる。

この日玉掛け技能講習を受講したベトナム人は30人ほど。みな、関東情報産業協同組合のような斡旋団体や国内企業に所属しており体に合った長袖作業服に安全靴を身に着け、真剣な面持ちで講習を受けている。講習期間は3日間で、2日間にわたり座学による講習を受けた後、3日目には実技による演習と実技試験を行う。15人ほどのグループに分かれ、日本人講師2人と通訳者1人で講習をサポートする。受講するベトナム人は現地の高校や大学を卒業した19―26歳の若者ばかり。現地では日本ほど資格文化が浸透しておらず、今回受講するような技能講習は初めてという人がほとんどだ。

  • 適切なワイヤ選定について講師の日本語をベトナム人通訳者が訳す

玉掛けに使用するワイヤは、吊り荷の重さや吊る角度によって使用径を選定し変更する必要がある。安全に吊るにはワイヤ選定が重要であり、その選定には荷重表や計算式が用いられ、素人には難しい。手元の電卓で一生懸命数字を導き出し、いち早く答えが出た者は、手こずっている隣人に計算方法を教えるなど、互いに分からないところを補完し合う様子がうかがえる。慣れない海外で講習を受ける彼らの間には、同国民同士の和気あいあいとした雰囲気が漂っていた。

ワイヤのかけ方、吊り方、またワイヤの痛みにくい使用方法やそれぞれの器具の名称など、講師の実演をメモしながら聴講する姿勢に、海外へ来て技術を習得し、自身のステップアップにつなげようという意欲を感じる。ディン・スアン・ニンさん(25)は来日して4カ月目。技能実習生制度は3年が満期で帰国が義務付けられているが、得た技術・資格を礎に、帰国後は母国の建設業界で働きたいと目を輝かせる。実際、日本で技術を習得した外国人は日本企業の評価が高く、現地採用に積極的な企業が多い。クレーン・玉掛けの安全技能が日本国内だけではなく、海外でも波及していく一端に触れた1日だった。

安全へ向けた取り組み 労働災害ゼロへの道

  • クレーンなどによる労働災害(日本クレーン協会調べ)

日本クレーン協会によると、17年のクレーンによる死傷者数は1622人で、前年と比較して15人減少した。統計を取り始めた1980年は1年間で6000人以上が死傷していたのと比較すると、長期的には減少傾向にある。17年の死亡者数は58人で、前年と比較して8人減少したが、労働災害ゼロにはまだ道は遠く、引き続いての災害防止対策の強化が望まれている。機種別にみると、天井クレーンや橋型クレーンなどの「クレーン」による死亡災害が18人、トラッククレーンやクローラークレーンなど「移動式クレーン」による死亡災害が34人で、合わせて全体の8割以上を占めている。そのほか、簡易リフトやエレベーターでの死亡災害が発生している。

日本クレーン協会とボイラ・クレーン安全協会はそれぞれ毎年クレーンの日に合わせてポスターを作成しており、写真と標語を一般募集している。毎回、写真・標語ともに多数の応募があり好評だ。ともに工夫された構図や標語が掲載されたポスターは現場に貼ることで事故防止への注意を喚起し、安全活動を推進している。

日本クレーン協会のポスターについて、標語で選ばれたのは大阪府在住の山野大輔氏。また撮影者は宮崎県在住の松田裕次氏。ボイラ・クレーン安全協会のポスター標語で選ばれたのは神奈川県在住の角森奈々子氏。撮影者は東京都在住の小池基夫氏だ。

  • ポスターを作成して事故防止への注意喚起

白熱する競技大会 安全作業を確実に

  • 優勝したIHI物流産業システム本宮工場チーム

ボイラ・クレーン安全協会と日本クレーン協会は、クレーンの安全作業への意識を見直すため、技能競技大会を実施している。ボイラ・クレーン安全協会は5月24日に福島県郡山市の福島事務所で「第50回記念 クレーン運転及び玉掛け技能競技全国大会」を開催した。クレーン運転士1人、玉掛け者2人の計3人でチームを構成し、「玉掛け及び合図」「クレーン運転」「質量目測など」の算定で競う。今回は12チーム36人が参加し、IHI物流産業システム本宮工場が優勝した。

物流や産業機械を製造する同社は部品組み立てライン上でクレーンを日常的に使用している。今回競技大会に出場し、クレーン運転を担当した渡邊雄紀さんは「急がず荷振れを防ぎながら、平常心を心掛けてクレーンを動かした」、玉掛け合図を担当した山本優介さんは「作業者が早く安全に作業できるよう、的確な合図を心掛けた」、玉掛け作業を担当した遠藤弘之さんは「1動作1動作の指さし確認を確実に、落ち着いて安全に荷を吊れるよう確認しながら競技に臨んだ」と、それぞれの役割と、優勝に向けての心構えを話した。

  • 昨年開催した第15回全国玉掛け安全競技大会

一方、日本クレーン協会は昨年10月12日に同協会本部・クレーン教習センターで「第15回全国玉掛け安全競技大会」を行い、新日鐵住金の兵庫和敏氏が優勝した。同協会は「全国クレーン安全運転競技大会」「全国移動式クレーン安全運転競技大会」「全国玉掛け安全競技大会」の3競技大会を、3年サイクルで開催している。今年は10月11日に第17回全国クレーン安全運転競技大会を開催予定で、参加者は日頃職場で培ってきた運転・操作技術を競い合う。

毎日繰り返す作業は慣れが生じ、注意が散漫になりやすい。クレーン作業中の重大事故を回避するためにも、きょうの記念日をきっかけに安全作業の意識を高め、災害ゼロの実現に向けて継続した安全管理活動に取り組んで行きたい。

(2019/10/10 05:00)

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