思い入れがあるからこそ……住宅産業

(2019/10/30 05:00)

業界展望台

住宅、生活、暮らし方を考える時、われわれは快適で自分のプライベートを包み込み、安心で安全な住まいを切望する。「一生に一度の大きな買い物」とも言われる一方で、多くの人が夢と自己実現の延長で、住宅建築に臨む。家族とともに、家族のために―。生きていくことの根幹でもある「住む」を包括する住宅は、その時々の国内事情を大きく反映させながら進化してきた。いま一度、暮らしを支える「住宅」について考えたい。

労働者不足を背景に改革迫られる業界

国内での労働者不足が指摘されて久しい。総務省統計局の発表によると、統計を取り始めた1953年の国内の労働力人口は男女合わせて3956万人。実際の就労者は男女合わせて3877万人だった。それから66年経て、今年8月の労働力人口は6889万人、実際の就労者は男女合わせて6735万人だ。人口増加に伴っての産業の多様化、雇用先の大幅な増加が、ほぼ2倍に増えた就労者を支えている(図1)。

その一方で有効求人倍率はここ数年で上昇傾向にある。厚生労働省が発表した今年8月の全職業における有効求人倍率は1.44倍。「事務的職業」に対しては1を下回る倍率で、職を求める人が集中する傾向にある一方、「サービスの職業」に対する倍率は3.64倍、「建設・採掘の職業」に対する倍率は5.34倍だ。建築・建設関連の労働者不足が顕著に表れている結果となっている(図2)。

働き方改革や女性雇用の増進に合わせ、建築・建設業界でも職場改革を推進し、少しでも「働きたい」と思ってもらえる業界に改革すべく、業界全体で取り組んでいる。

その中で大きな足かせになっているのが、休日の設定だ。産業界では大多数の企業が土日を休日に設定しているが、それに合わせてハウスメーカー各社は各支店において施主の休みに合わせた土日出勤が常態化している。施主との打ち合わせや施工現場の見学などが週末に集中する中で、建築現場では土日を勤務日にする傾向にあるからだ。女性監理者など、女性の職場進出が進む現在、土日勤務が結婚や子育てに大きな影響があるとして敬遠されることもあり、業界では労働者の確保と実際の職場環境の整備に頭を悩ませている状況だ。業界全体で一元化した方針が打ち出しづらい中、より良い働き方を求めて問題に正面から取り組む姿勢が、業界内外から求められてる。

見直される中古住宅市場

都心での土地価格の高騰を背景に、住宅購入を検討する若い世帯を中心に中古戸建て住宅のニーズが高まっている。ただし、中古住宅は設備の欠陥や瑕疵(かし)などが購入検討時に分かりづらく、「気持ちよく入居したい」という購入希望者から敬遠されてきた側面もあった。しかし、ここ数年で新築物件と比較した際の価格の手頃感や売り主側での瑕疵対処、購入前のインスペクション(建物状況調査)実施、保険によるカバー、また住宅の立地の良さなど、中古市場が活性化している。

大手ハウスメーカー10社で構成される優良ストック住宅推進協議会は「良いものは良いものとして取り引きされる既存住宅流通の活性化と適切な市場形成」を目指して「スムストック」を2008年に発足させた。それぞれのハウスメーカー施工の物件に対し、適切な修繕歴を経て建物の価値が温存されていることを保証し、購入者に安心して契約してもらう枠組みだ。

日本では木造住宅は20年程度で評価価格ゼロ円として算出される。その際、大きく資産を損なうのは戸建て持ち主であり、事情があって持ち家を売りに出す際の査定額は、おおよそ土地代だけだった、というケースが多々ある。スムストックでは適切な修繕を経た住宅は既存の価値を価値としてキチンと評価されるべきだとして、独自の計算式を用いたスムストック査定を採用。建物の構造躯体(くたい)と内装・設備を分けて評価するなどし、適正な評価ができる仕組みを整えている。実際の査定は各ハウスメーカーの商品知識を持つ「スムストック住宅販売士」が査定する。

  • 中古の住宅が適正に評価され市場流通させる枠組みの「スムストック」

17年に国土交通省から告示された「安心R住宅制度(特定既存住宅情報提供事業者団体登録制度)」に登録する団体として、適正に評価され、安心して購入できる中古市場を牽引(けんいん)する役目を担っていく。

今後はいかに住宅ストックを増やしていくかが課題だ。今後販売する新築自社ハウスのうち、20%はスムストックでの中古売却を目指すとしている。

(2019/10/30 05:00)

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