(2020/3/6 09:00)
「計測」「制御」「情報」の三つのコア技術を軸に、工場やプラントといった社会インフラの安全で効率的な運用を支えている横河電機。1915年創業以来、変わることなく「より豊かな人間社会の実現に貢献する」という理念を持ちながら、時代に合わせ活動の場を広げている。日刊工業新聞社社長の井水治博が、2019年4月に就任した奈良寿社長に企業理念の実践に向けた具体的な行動について聞いた。
企業の社会的使命について
モノづくりを取り巻く時代の変化のスピードが劇的に変わっています。ご就任から、まもなく1年がたとうとしていますが、どのように感じていますか。
社長に就任してから変化の速さをこれまで以上に感じています。特に業務のICT(情報通信技術)化が急速に進んでいます。当社のような工業計器業界自体は、他業界と比較してゆっくりとした動きでした。しかし、ICT化の波は確実に来ています。製品自体がコモディティー化されて、当社の主要なお客さまである製造業自体が、各種業務のICT化の目的をこれまでの業務効率化から、生産効率を上げるためや競争力を強化するためへと大きくかじを切っています。そうした流れに、計測、制御、情報という当社のコア技術が、必ず貢献できると自信を持って言えます。
現在、社員数が1万8000人で、そのうち6割以上が外国籍の方だと伺いました。グローバルで企業理念を共有するのは容易なことではないと思いますが。
社員に対しては「当社はコア技術で、さまざまな製造業のお客さまに価値を提供している。それが社会貢献につながっている。自分たちの製品やサービスにもっと自信を持って提供していこう」と、ことあるごとに話しています。こういう話をすると、むしろ海外の社員たちは、素直に受け入れてくれます。当社の意義や立ち位置を理解したうえで仕事をしようと使命感に燃えています。
トップが企業の社会的使命などを明確に伝えることが、理解につながるのですね。
そうですね。就任後、海外も含め、社員だけでなく、お客さまとも、たくさん会話をしました。ビジネスのパートナーとして信頼をいただくことはもちろんのことですが、SDGs(国連の持続可能な開発目標)実現に向けて、お客さまから操業の効率化や省エネルギー対策への支援、安全性の向上などさまざまな期待が寄せられました。SDGsは、企業それぞれの存在意義や、ビジネスそのものとも親和性が高い。そのため、SDGsは企業においては「本業」を通じて、社会のさまざまな課題を解決しつつ、持続的に成長・発展していくための道標の一つとして捉えることができると考えています。お客さまとの会話を通し、当社の社会的使命を改めて感じました。これからも社会に必要とされる会社でありたいと思います。
御社は、創業当初から「より豊かな人間社会の実現に貢献する」という理念のもと社会への貢献を続けています。三つの技術を核にして、お客さまとの共創による生産性の向上や事業変革に挑戦するとともに、新事業にも取り組んでいます。これらの事業を通じて、社会や環境へ貢献しようとしています。
既存事業では製造業のあらゆる工程に対して、生産性向上や安全性の担保、省エネ支援に、温度・流量・圧力・電力などを測定する機器や制御システム、ICTを活用した業務支援サービスの提供で継続的に強化していきます。新事業としては、医薬品や食品産業で当社の計測、制御、情報といったコア技術で生産性を向上させるライフイノベーション事業を2018年に立ち上げました。中長期的にはバイオエコノミー分野を開拓しようとしています。現在、化学合成で製品を作るのではなく、生物由来の原料を用いて、あるいは生細胞を生産に利用して製品を作る流れが注目されています。ここが当社にとってのビジネスチャンスだと捉えています。そこで、細胞を観察しながら目的の細胞の細胞内物質を採取し、高精度な分析を可能とする一細胞観察装置などの開発を進めています。これらの装置を軸に、新薬開発を支援するサービスに力を入れていきます。順調に育ってきたという手応えを感じています。この分野もより豊かな人間社会の実現に大きく貢献できるところです。
企業の目標達成に向けて
独自にサスティナビリティー目標を設定されていますが、その趣旨をお聞かせください。
環境や技術などのさまざまな変化に柔軟に対応し、長期的な視点で社会が抱える課題の解決への取り組みを継続していくため、2050年に向けて目指すべき社会と、その社会の実現に貢献する姿勢を定めた目標です。本業を通じて持続可能性の3側面である環境・社会・経済に対応するために、「Net-zero Emissions(気候変動への対応)」、「Well-being(すべての人の豊かな生活)」、「Circular Economy(資源循環と効率化)」という三つのゴールの実現に向けて事業を通じて貢献します。これらの実現に向けて、中期的なKPI(重要業績指標)と数値目標も設定しました。
こうした目標を立てられた狙いは何でしょうか。
社会インフラを支える当社の存在意義や、ビジネスそのものともこうした目標は親和性が高いと思っています。また、当社は長きにわたって地球資源の活用に関わる産業に身を置いてきており、美しく豊かな地球をよりよい状態で未来世代に託すことを重要な使命と考えています。
既存事業の変革や新事業へ果敢に取り組まれていますが、このように挑戦し続けることができる御社の強みは何でしょうか。
創業当初から社会に貢献することを目指してきました。その創業の精神は、時代や環境が変わっても、変わることはありません。また、お客さまと長期の信頼関係を築き、その期待に応えて最後までやり抜くことができるのが、当社の強みです。今後は、価値創造を担う社員一人一人が、ビジネスを通して持続可能性への貢献を自分ごととして実践することが重要です。そして、社長として、YOKOGAWAが受け継いできた想いを踏まえつつ、SDGsという国際的な共通言語に当てはめ、自社がどのような分野・領域で、どのようなゴールに向けて成果・進展を生み出していくべきかを社員に明確に伝えていくことが重要な役割の一つだと考えています。
社員にこうした考えを浸透させるために具体的に取り組まれようとしていることがあれば教えてください。
社員一人一人が持続可能な社会のために自分の業務を通じて何ができるか、主体的に課題を発掘し、自ら行動できる企業づくりを進めていきます。開発部門や製造部門、営業担当など、それぞれの部門や職種において実践の方法は異なりますが、自分の仕事と社会への貢献がどうつながるかを積極的に考えてほしいと伝えています。
「地球の物語の、つづきを話そう。」
最後に、広告に描かれている「地球の物語の、つづきを話そう。」というフレーズにはどのような意味が込められているのでしょうか。
当社のコーポレート・ブランド・スローガン「Co-innovating tomorrow」とも通じており、お客さまや将来のお客さまと、社会の課題解決のために積極的に話し合い、取り組み、そして地球の持続的な成長をともに考えたいという姿勢を表しました。当社は世界中の多くのお客さまと、より豊かな社会の実現に向け語り合い、一緒に実行へ移していく会社でありたい。そのために、社員が自社の社会的使命、存在意義を理解し、対話し、一企業人一個人として発信できる企業文化を作りたいと思っています。対話の相手は社員同士であり、お客さまであり、社会です。自分で発信すること、対話することの重要性を「話そう」のフレーズに込めました。お客さまだけでなく、これから当社と関わっていただく若い方々にも、ぜひ伝わってほしいと思っています。
とても明確に御社の目指していく姿が分かりやすく伝わるいいフレーズだと思います。本日はどうもありがとうございました。
(2020/3/6 09:00)