(2020/3/13 05:00)
2020年3月14日に全面運転再開をするJR常磐線沿線は東日本大震災以降、復興に向けた多くのプロジェクトが同時進行する注目地域。福島・茨城県に立地する企業や、常磐線の復旧工事を担った企業を紹介する。
福島県浜通りエリアの活性化のカギとなる「福島イノベーション・コースト構想」では、水素活用システムの実証を行う「福島水素エネルギー研究フィールド」の整備や、世界でも類を見ないロボット関連の実証試験施設「福島ロボットテストフィールド」の全面開所など、震災10年を目前に新たな姿が見えてきた。県が進めるロボット、情報通信技術(ICT)、航空宇宙、再生可能エネルギー、医療関連産業の各分野への参入に向けた地域企業の取り組みにも一定の成果が出始めつつある。
茨城県は企業立地が好調で、立地面積は全国トップで推移する。近年では生産拠点だけでなく、本社機能や研究開発拠点の進出も活発。県南のつくば市には研究開発型企業が集積し、県北の日立市には大手メーカーとの長年の取引で培った高い技術力を誇る企業が集まる。鹿島臨海工業地帯には製鉄所や石油化学工場が集積するなど、産業の奥深さが特徴だ。
鉄道を支える技術
大同信号は日本の主要鉄道信号メーカーの一つ。福島県浅川町に主力工場を有し、東日本大震災では被災者とも言える立場であった。復旧が最後となった富岡駅―浪江駅間を含めた常磐線での信号保安設備などの復旧に尽力した。
京三製作所は1917年の創業以来、国産初の自動閉そく信号装置や道路交通信号機などの開発・製造に成功。以来、「安全と信頼」を基調に歩み続け、今では基軸の鉄道信号システム、交通管理システム、ホーム安全設備などを手がける。
日本信号は信号保安装置、自動改札機、ホームドアの製造などを手がけて鉄道の発展とともに歩み、交通インフラに関わっている。常磐線では1902年に前身の三村工場が千葉県の我孫子駅に保安装置を納入以来、全線で列車の安全運行に貢献している。
生活・産業基盤を守る
NTT東日本は地域のインフラを支え、地域の課題をICTにより解決し安心・便利な街づくりに取り組んでいる。また「ふくしまの森プロジェクト(海岸防災林再生活動)」などのCSR活動でも復興を応援する。
東京ガスは茨城県日立市に液化天然ガス(LNG)基地を構え、北関東を中心とした天然ガス需要に応えるとともに、供給安定性のさらなる向上を図りLNGタンクの増設とガス導管の延伸に取り組んでいる。
沿線に主要生産拠点
化学大手のクレハは、東京にある本社機能の一部を10月に福島県いわき市へ移転させる。医薬品・農薬向けなど化学製品の研究開発部門を同市にある主力生産拠点に集約することで今後も地方創生に貢献していく。
タンガロイはいわき市を本拠地に、超硬合金のパイオニアとして高い材料技術力と最先端の生産技術力により、金属加工用切削工具をメーンとするさまざまな新製品を作り出し、モノづくりに貢献している。
アルプスアルパインは福島県いわき市および宮城県大崎市などに主要な開発拠点や製造工場を展開。スイッチやセンサーからカーナビまで電子部品と車載情報機器の提供を通して、人と地球に喜ばれる新たな価値の創造に取り組んでいる。
二次電池の評価装置製造や受託分析を手がける東洋システムは、水素自動車への知識を深める「LFA&MIRAI試乗体験」やいわきバッテリーバレー構想の主導など、地域振興に向けた活動に力を注ぐ。
IHIは福島県相馬市で航空エンジンやガスタービン向け基幹部品などを生産。同市では太陽光発電電力の地産地消を進めている。18年に「そうまIHIグリーンエネルギーセンター」を開設。災害時には最大420キロワット時(21日分の電力量に相当)の電力を供給する。
JX金属は1905年の日立鉱山(茨城県日立市)の開業以来、銅やレアメタルなどの非鉄金属素材メーカーとして、グローバルに事業を展開してきた。今後も地域との共生を大切にしながら、技術立脚型の企業として、社会を支える「価値」を提供していく。
日立製作所は、100年を超えるモノづくりの歴史の中で培ってきた、オペレーションテクノロジー(OT)やIT、プロダクトとそれらを結び付けて新たな価値を生みだし、社会課題を解決する。社会イノベーション事業で、福島の復興へ貢献する。
地域を生かす金融
めぶきフィナンシャルグループの常陽銀行は、「健全、協創、地域と共に」という経営理念のもと、持続可能な地域社会を創造していく活動に取り組み、被災地の復旧・復興支援活動に全力をあげている。
水戸証券は関東一円を中心に営業エリアとしている証券会社。2021年には創業100周年を迎える。顧客との信頼のきずなを大切に、地域に密着した、よりよいサービスを目指していく。
復旧工事を担った建設会社
常磐線では順次、復旧工事が行われてきたが、16年12月に運行開始された駒ヶ嶺駅(福島県)―浜吉田駅(宮城県)間は、線路を内陸部へ最大1キロメートル移設する大プロジェクトだった。
鹿島建設は常磐線の復旧工事をはじめ、各地で被災地の復興に全力を注いでいる。移設区間のうち、坂元駅を含む約3.4キロメートル区間の復旧工事にあたり、盛土工、高架橋、駅舎などを担当、早期開通に大きく貢献した。
大林組は安心・安全な社会基盤を提供することを使命と考え、災害時には被災地の一日も早い復興に向けて、全力で取り組んでいる。今回の復旧工事では、移設区間のうち新地駅を含む約3.5キロメートルの工事を担当し早期復旧に貢献した。
※本記事は、2020年3月13日付 日刊工業新聞「JR常磐線全線再開」特集を再編成したものです。
(2020/3/13 05:00)