(2020/7/20 05:00)
世界がコロナ禍に見舞われる中、鉄鋼需要の約6割を占める中国の勢いが止まらない。いち早く経済活動が再開し、粗鋼生産量は過去最高を更新する見通し。過剰な生産能力が是正されず、安価な鋼材輸出が増えれば世界の市況に悪影響が及ぶ懸念がある。中国関係者に適切な対応を求めたい。
2020年の世界の鋼材需要量見通しは、前年比6・4%減の16億5400万トン。うち中国は同1・0%増の9億1700万トンだが「粗鋼生産量は10億トンを突破する」との見方が広がる。5月の粗鋼生産量(速報)は単月過去最高の9226万トンで、6月はそれを上回るもよう。
中国も年初はコロナ禍と春節で生産が落ち込んだが、4月からは回復。全国人民代表大会では、日本円で約90兆円の経済対策が打ち出された。インフラ工事などの内需が粗鋼生産をけん引する構図は続く。
「最大の脅威は中国。コロナで相対的優位性が高まっていく」。橋本英二日本鉄鋼連盟会長(日本製鉄社長)は、会見で危機感をあらわにした。中国の増産による原材料価格の高止まり、安価な鋼材の広がりは、高炉休止など構造対策を進める日本勢の収益の足を引っ張りかねない。経済産業省は「中国政府による輸出税の還付が、安価な鋼材輸出を後押ししないか懸念される」(金属課)としている。
国内鉄鋼大手は足元の需要減から、構造対策に加えて3割前後の減産対応を余儀なくされている。橋本会長は「各社は余剰生産能力を徹底的に絞る」ことの重要性を指摘したが、これは中国にも言える。
中国では企業再編が続き、大規模化が進む見込み。19年には中国・宝武鋼鉄集団が、生産量首位の欧アルセロール・ミタルに肉薄した。万一、内需が冷え込み輸出が増えれば、世界の市況にも打撃が大きい。
主要生産国が過剰生産問題を話し合う、鉄鋼グローバル・フォーラムから中国が離脱したのは残念だ。まずは中国自身が健全な市場形成に取り組むべきだが、世界的枠組みへの復帰が望まれている。
(2020/7/20 05:00)