半導体産業

(2020/8/3 05:00)

業界展望台

半導体はコンピューターや通信機器、家電製品、自動車、鉄道車両など幅広い産業に欠かせないデバイスだ。半導体を製造する装置や材料市場では、多くの日本企業が存在感を高めている。日本の半導体製造装置の2019年度販売額はメモリー向けが調整局面を迎えて落ち込みを見せたが、2兆円超えを確保した。20年度はメモリーの復調や第5世代通信(5G)など半導体市場を拡大し、製造装置需要にも期待が高まる。

20年度販売額7%増 データセンター・5Gが追い風

日本半導体製造装置協会(SEAJ)は22年度の日本製半導体とフラットパネルディスプレー(FPD)の製造装置販売額見込みを2日に発表し、21年度予測比4.5%増の計3兆422億円とした。

19年度の日本製半導体製造装置販売額については、2兆730億円となった。前年度比で7.8%減少したが、17年度から継続して2兆円超えの高水準で推移した。要因として19年から20年前半にかけてDRAMと3次元(3D)NAND型フラッシュメモリー向けが低調であったが、19年後半からロジック半導体メーカーや半導体受託製造(ファウンドリー)が積極投資したことを挙げる。

20年度の日本製半導体製造装置販売額は19年度比7.0%増の2兆2181億円、日本市場販売高は同10.0%増の7657億円と予測した。ロジック半導体メーカーとファウンドリーの継続した投資や、後半からメモリーが復調することを見込んでいる。

新型コロナウイルスにより生活様式や働き方が変化しており、半導体デバイスの需要が高まると考えられる。牛田一雄SEAJ会長(ニコン会長)は「オンライン、テレワーク、遠隔操作をキーワードに、データセンターや5Gなどで最先端の半導体が求められる」と強調し、メモリー関連の設備投資の受注伸長を見込む。また遠隔操作では仮想現実(VR)や拡張現実(AR)、ディスプレーに必須のイメージセンサー需要がけん引材料だ。

来年度も高水準で推移

一方で、半導体産業を取り巻く世界はグローバル化しており、国境を越えたサプライチェーンを構築して成長してきた。日本製半導体製造装置は性能・信頼性・コストに優位性を持つ。牛田会長は「米中貿易摩擦など変化を注視していきたい」と言う。

また、新型コロナの影響は海外渡航の制限も課題と捉える。半導体製造装置導入時には、ユーザーから技術者による立ち上げ要請が求められる。SEAJは「今秋ごろには事態の収束が見えてくるだろう」と述べ、勝負のタイミングは21年1~3月と捉える。

21年度はさらなる設備投資が半導体製造装置販売額を底上げするとして、20年度予測比10.0%増の2兆4400億円を見込む。また、日本市場の販売額はメモリーやイメージセンサー需要の拡大で同8.0%増の8270億円と予測する。

23年度の日本製半導体製造装置販売額は19年度から7.2%成長した2兆5522億円を予想した。1986年に統計を始めて、最高値となる。直近の販売額のボトムは、リーマン・ショックの影響が顕在化し投資抑制が見られた09年度の6528億円だ。また、日本市場販売高は同7.5%成長の8650億円を見込む。

新型コロナや米中の貿易摩擦など半導体産業を取り巻く環境に厳しさが残る。これまでも逆風はあった。しかし、エレクトロニクス産業の拡大に伴い、半導体産業は市場の成長を支える重要なデバイスとして存在感を示し続けている。

パワー半導体 さらなる進化へ

電気自動車(EV)などの電動システムや駆動の中核を担う主機インバーターシステムは小型・効率化が課題とされ、パワー半導体にはさらなる進化が求められている。

  • ロームが開発した「第4世代SiC MOSFET」

ロームは単位面積当たりのオン抵抗が業界最小のパワー半導体「1200ボルト 第4世代 SiC MOSFET(炭化ケイ素 金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)」を開発したと、6月に発表した。電動化が進む次世代車の主機インバーターなどの車載パワートレーン(駆動装置)システムや、産業機器向け電源での採用を狙う。

SiCパワー半導体の世界市場について富士経済は、30年は19年比4.6倍の2009億円を予測した。市場の36.0%を占める自動車・電装分野を中心に、情報通信機器や産業分野、鉄道車両やエネルギー分野でも需要が伸びると見ている。

窒化ガリウム(GaN)パワー半導体は、サーバー電源などの情報通信機器分野向けが市場の82.2%を占めている。自動車・電装分野において、22年以降にDC(直流)―DCコンバーターやオンボードチャージャーなど補機類採用のメーカーが増えるとした。30年のGaNパワー半導体の市場は19年比12.2倍の232億円と予想。

同社はパワー半導体製造装置の世界市場も予測している。前工程装置の設備投資は国内ではシリコン(Si)パワー半導体製造向け、中国や台湾などではSiCパワー半導体製造向けで積極的に行われ、19年は前年比1.4%増の1656億円となった。SiCパワー半導体製造装置の設備投資はSiCパワー半導体の需要増加がけん引し、後工程装置の設備投資も20年以降に増加が期待できる。こうしたことから、30年は19年比98.9%増の3293億円を予測している。

世界規模で設備投資活発

データセンターや第5世代通信(5G)向けの半導体需要増に期待が高まっている。動画配信利用が増大する一方、サービスにはデータセンターの増強が急がれている。テレワークの広がりによるパソコン需要も半導体市場をけん引している。5Gは世界各国で商用サービス本格化で、スマートフォンの販売回復が見込めそうだ。

ファウンドリー世界最大手の台湾TSMCは、2021~29年に約1兆3000億円を投資して、24年に米国アリゾナ州で半導体前工程の新工場を稼働すると発表。

キオクシアホールディングス(旧東芝メモリホールディングス)は、三重県四日市市でNAND型フラッシュメモリーの新製造棟の建設を始めた。最先端3D NAND型フラッシュメモリーを生産する「第7製造棟」を新設し、22年夏の完成を予定している。総投資額は最大3000億円規模を見込む。

(2020/8/3 05:00)

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