モノづくり日本会議/アフターコロナ時代のテクノロジートレンドとビジネスモデル

(2020/8/12 05:00)

新型コロナウイルス感染症に伴い、非接触および自動化のニーズが高まっている。そこでモノづくり日本会議は7月22日、「アフターコロナ時代のテクノロジートレンドとビジネスモデル」と題したウェブ講演会を開催した。講師として米国のベンチャーキャピタル(VC)であるペガサス・テック・ベンチャーズ共同代表パートナー兼CEOのアニス・ウッザマン氏がシリコンバレー本社から参加、コロナ禍で激変しつつある経済・社会で求められる技術やビジネスについて実例を挙げながら紹介した。ワクチンが実用化されるまで経済環境はしばらく厳しいとみられるものの、産業界には時代のニーズや顧客の要請を踏まえ、新市場を果敢に切り開いていく取り組みも求められている。

遠隔医療・教育・宅配など急拡大

ペガサス・テック・ベンチャーズ共同代表パートナー兼CEOのアニス・ウッザマン氏

コロナ禍では自動車業界、旅行業界が一番大きな打撃を受けた一方で、前向きに動いている業界もある。特にオートメーションのニーズがこれまで以上に高くなっている。ロボットと人工知能(AI)の統合、さらにIoT(モノのインターネット)も加わることによって、サプライチェーンを含め工場を全面的に自動化していく流れになっている。

製造業で問題だったのは、サプライチェーンが止まってしまったこと。そこで生産工場を自国や第三国に移す話になっているが、人手不足が大きな課題となる。そのためにもオートメーションをさらに進めなければならない。もともとロボット分野で日本は強みを持つ。米国やイスラエルのAI技術をうまく統合することで、我々の求めるオートメーションを実現できるのではないかと期待している。

工場自動化にAI

AIロボットの例として、サンフランシスコのキンドレッド(Kindred)をまず紹介したい。コンピュータービジョンを使って服の分別ができる。GAPやアメリカンイーグルといった有名アパレルブランドでは、サイズや種類が混ざった大量の服の分別を人手で行っていた。それに対し、ロボットが最適なやり方でピッキングしながら自動で振り分けてくれる。またMIT(マサチューセッツ工科大学)卒の若者が立ち上げたオサロ(Osaro)という会社を日本企業に紹介したところ、今では国内で弁当作りに応用されている。コロナ禍で弁当を作る人を集めるのが大変ということもあり、重宝しているようだ。

日本で活動していて誇りに思うのは、ロボットで世界トップの技術を持っているのが日本だということ。ロボットベンチャーのMUJINはたぶんこの分野で世界トップに並ぶ企業の1社だろう。同社のコントローラーを使ったロボットは自分で動きを決められ、周りの状況に合わせて自分で最適な動きを取れる。ポストコロナのオートメーションのニーズを取り込んで頑張っていってほしい。

アップルも導入

コロナの時代で皆さんが一番心配しているのは健康だと思う。できれば医者に直接会わずに診断を受けたいことから遠隔医療の需要が4000%も伸びているという。予想としては2025年までに38兆5800億円の市場規模になると見られている。実際、今年1―6月の半年間でVCによる遠隔医療への投資額が過去最高の6300億円になった。

米国の事例でいうと、この分野で急成長しているアムウェル(Amwell)という会社がある。患者と医師を24時間体制でつなぐ遠隔医療プラットフォームを全米で提供し、コロナ禍で需要が急増。利用者は10倍になった。もう1社は、私も使っている98ポイント6(98point6)というサービス。AIのアシスタントがスクリーニングのための簡単な質問を行い、その状況に応じて医師が診断する。

センスリー(Sensely)はスマートフォンなどの画面上のアバターとユーザーが会話し、症状などを確認できる。すでに32カ国語に対応し、日本語でのサービスも開始されている。医療デバイスとブルートゥース経由で連動できる機能も持ち、例えば血圧計を体に着けていればアバターが毎日決まった時間に血圧を測って医師に送信してくれる。実は同社に投資している大企業が日本や海外への展開を進めていたところでコロナのパンデミックになってしまった。すると、このアバターをコロナ関連の質問に使いたいと、さまざまな国から問い合わせがあった。

健康では治療より予防が大事という部分もあり、ゲノム解析でどういう病気にかかりやすそうか、がんやアルツハイマー病、パーキンソン病の発症リスクはどの程度か、といった予測サービスが提供されている。23アンドミー(23andMe)のゲノム解析は、自分は新型コロナにかかりやすいか、かかった場合どの程度の症状が現れるか、といった判断にまで使われている。さらに製薬会社と組んで遺伝子データベースを医薬品の研究開発に活用する動きも出ている。

グーグル出身者が立ち上げたカラー(Color)は、遺伝子解析診断キットに唾液を入れて送り返すと、病気へのかかりやすさのほか予防策まで助言してくれる。価格は250ドルくらい。サービスが高く評価され、アップルが福利厚生の一環として従業員向けに導入している。

自動運転車で非接触配送

買い物代行・配達

米ニューロは小型の自動運転車で食料品などを宅配している(ペガサス・テック・ベンチャーズの資料から)

次はコロナ禍で大きく伸びたフードデリバリー。非接触で、ほしい時に買い物したいニーズに合致した。特に注目がインスタカート(Instacart)。元アマゾンのエンジニアが設立した食料品・生鮮品の買い物代行サービスで、代行者がスーパーで買い物をしてドアのところまで届けてくれる。

ポストメイツ(Postmates)はレストランの料理などの宅配サービス。実は当社もここに投資していて、いずれIPO(新規株式公開)するものと思っていたら、7月にウーバーに約2860億円で買収されることが決まった。

一方で、料理や食品をドアの前に置いておくと持っていかれてしまう、人に触ってもらいたくないとの心配から、人間に家の周りに来てほしくないニーズもある。そこで登場するのが自動運転車だ。

シリコンバレーでは、この小さな車が低速で公道を走っているのを見ることができる。元グーグルのエンジニアが作ったニューロ(Nuro)が展開するサービスで、注文された食品をスーパーで車に積み込み、車が自律的に注文した人の家まで走行。目的地に着くとスマートフォンのアプリで注文者に連絡し、本人が車の扉を開けて品物を取り出す。そのうち日本でも見られるようになると思う。

スペースXに出資も

次に紹介する遠隔教育、eラーニングも成長が著しい。グローバルの市場規模としては2026年までに37兆5000億円規模になると見られている。うちシリコンバレーのアウトスクール(Outschool)は教育分野のウーバーと言われるほど脚光を浴びている。幼児から高校生まで幅広い年齢層を対象に教育コンテンツを提供。数学、科学、ヨガ、バレエ、ドラムといったプログラムまである。好きな時に好きな場所で、ライブで先生に教わることができる。インドのバイジューズ(BYJU’S)はアジア最大級のオンライン教室で、インド全土で低価格のサービスを提供。フェイスブック創業者のマーク・ザッカーバーグ夫妻が設立した慈善団体も出資する。

日本に目を向けると、ライフイズテックは中高生にプログラミング教育を行っている。日本ではかなり先行していて、当社が主催するスタートアップワールドカップでも入賞している。2番目のdivは社会人向けのプログラミング教育が主力。コロナ禍の中、約18億円の資金調達を果たした。ほかにもeラーニングプラットフォームがいくつかあり、日本はこの分野で結構進んでいると思う。

衛星で高速ネット

最後は宇宙の話。実はここ最近で最も楽しい投資はスペースXへの投資だった。テスラのイーロン・マスクCEOが立ち上げた宇宙ベンチャーで、規模はたぶんNASA(米航空宇宙局)と同等かそれ以上。8000人のトップエンジニアを抱える。テスラは最近、時価総額でトヨタ自動車を抜いたが、米国最大級のユニコーン企業であるスペースXの評価額は4兆円以上とも言われる。しかも、スペースXはロケットの打ち上げ後、切り離された第一ステージが地上に戻ってきて再利用できる仕組みを世界で初めて実用化、一段の低コスト化にめどをつけた。同社の「ファルコン9」ロケットはだいたい62億円くらいで打ち上げできる。

ただ、私がスペースXに投資した理由は宇宙探査やロケットではなく、彼らが展開する「スターリンク」という事業。地上750マイル上空の低軌道に合計1万2000基の衛星を打ち上げ、次世代の高速インターネットを提供するプロジェクトだ。すでに衛星約600基が上がっている。今年から最速インターネットサービスを提供し、23年までに米国、カナダの1200万人にサービスを提供する予定だ。飛行機に乗っていてもアマゾンのジャングルにいても、どこでも同じように従来のインターネット回線の20倍以上高速のサービスが使えるようになる。

我々ペガサス・テック・ベンチャーズ経由でのスペースXへの投資については、ほとんど日本の投資家から資金が来ている。当社を通じて投資を行い、ビジネス連携していくというのがおもな目的。引き続き日本の事業会社と海外スタートアップとの懸け橋としてお役に立っていきたい。

(2020/8/12 05:00)

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