(2020/8/26 05:00)
ペーパーレス化や紙媒体の減少に伴った紙の需要減が続く中、製紙各社はノウハウを生かし、人々の暮らしに不可欠な製品の生産強化に乗り出している。新型コロナ禍による衛生意識の高まりに伴い需要が急増したティッシュペーパー、トイレットペーパー、マスク、不織布などの衛生資材をはじめ、物流を支える段ボールや紙器など安定した供給の維持に努めている。コロナ禍の混乱は社会全体におよぶが、製紙各社は状況の変化に応じて生産設備の増設や増産、新製品の投入を行い社会の要請に応え続けている。
コロナ禍、安定供給に力 マスク・不織布など増産
「新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、当社の生活消費財事業が担う社会的責任を改めて強く感じている」。王子ホールディングス(HD)の加来正年社長はこう話す。2月下旬、参加交流型サイト(SNS)上の誤情報に基づきティッシュペーパー、トイレットペーパーなど生活必需品の「パニック買い」が発生。新型コロナの感染拡大に伴い国内マスクや医療用ガウンの不足も逼迫(ひっぱく)した。こうした事態を受け、製紙各社は事業を展開する各国や当局の指導に従って感染予防対策を徹底しながら操業を継続。さらにマスク生産設備設置や防護服素材である不織布の増産の開始を発表した。
王子HDのグループ会社である王子ネピア(東京都中央区)は、新タック化成(香川県三豊市)と不織布マスクの生産を始めた。新タック化成の山本工場(香川県三豊市)の既存クリーンルーム内に、新たにマスク生産設備を導入した。月間約200万枚のマスクを供給する。
生産設備を増強 国内で自社生産に
また、医療用ガウン用途の不織布もグループ会社の王子ネピア(東京都中央区)のパーソナルケア名古屋工場(愛知県春日井市)で生産を始めた。医療用ガウンの基材を月間約80万着分供給する。紙おむつ基材用に生産する撥水(はっすい)性に優れた不織布の生産能力を増強し、月間約80トンの供給体制を構築した。
大王製紙はグループ会社のエリエールプロダクト(愛媛県四国中央市)に不織布マスクの生産設備を導入し、国内自社生産を始めた。4億円超を投じ、栃木県の工場に生産設備を導入。7月までに月間2600万枚の生産体制を構築した。これまで不織布マスクは海外協力工場で生産し販売してきたが、新型コロナで日本国内のマスクが品薄となった状況を踏まえ、国内自社生産の開始を決めたという。大王製紙の阿達敏洋副社長は「今後も安定供給に努めていく」と強調する。
飛沫防止用パーテーション 卓上に簡単に設置
三菱製紙は新型コロナ感染拡大で需要が高まっている飛沫(ひまつ)防止用パーテーションと、アルコール除菌液の生産販売を5月末に始めた。
パーテーションは机上に簡単に設置できる簡易組み立て式で、国内工場と中国子会社工場で製造する。また、抗ウイルス機能性フィルターの品ぞろえも強化した。
出荷量は減少 長期戦に備え
新型コロナが猛威を振るい始めて半年が過ぎ、新型コロナ感染対策は長期戦の様相を呈している。日本製紙連合会(野沢徹会長=日本製紙社長)によると、6月の紙・板紙国内出荷量(速報値)は前年同月比14.5%減の163万トンと11カ月連続で減少している。新型コロナ感染拡大に伴う経済活動の停滞を背景に、広告やチラシなどの印刷用紙の販売が低迷。テレワーク(在宅勤務)の浸透でオフィス需要も減少した。リーマン・ショック時を超えるグラフィック用紙の大幅な落ち込みが継続している。衛生用紙の需要は2カ月連続で減少した。広報活動に力を入れることで供給力、在庫への不安払拭に努めたこともあり、衛生資材の市場は落ち着きを取り戻しつつある。野沢徹会長は「パニック買いの反動が今来ている。家庭用のティッシュ、トイレットペーパーの需要は平常に戻りつつある」と見方を示した。
(2020/8/26 05:00)