(2020/9/1 05:00)
環太平洋火山帯に位置する日本の国土には111の活火山が点在している。日本は地熱資源が豊かであるが、化石燃料などの地下資源が乏しく、エネルギー資源は海外からの輸入が約8割を占めている。国内のエネルギー自給率を高めるためにも太陽光や風力、水力、地熱などの再生可能エネルギーを活用した電力供給が不可欠だ。地熱発電は低炭素の国産エネルギー源として注目されている。
低炭素、地熱発電に注目
2011年の東日本大震災以降、政府はエネルギー基本計画を策定し、再生可能エネルギーを源とした電力供給の割合の増加を目指している。18年に策定した「第5次エネルギー基本計画」では、30年に再生可能エネルギーの電源構成比率を22~24%に引き上げることを目標に掲げる。
19年の国内における全発電量中、再生可能エネルギーの発電量は18.5%。その内、地熱発電が0.2%を占めている。地熱による発電割合は低いが、地熱資源の活用により発電量は増加する可能性を秘めている。
経済産業省が20年6月に発表した「エネルギー白書」によると、国内の地熱資源量は2347万キロワットで世界第3位(第1位は米国の3900万キロワット、第2位はインドネシアの2700万キロワット)。
日本の地熱発電設備容量は、54万キロワットで世界第10位だ。豊富な地熱資源量を有する一方、国内の地熱発電量は2%と低く、近年では日本より地熱資源量が少ないフィリピン、ケニア、ニュージーランドで地熱発電設備容量が増加している。30年までに地熱発電設備容量を150万キロワットに増加させる方針だ。
【気象、左右されず】
地熱は太陽光、風力、水力などの再生可能エネルギーによる発電方法と比べて設備利用率が高いのが特徴。設備利用率は仮に発電設備をフル稼働させた場合に産出する発電量の割合。再生可能エネルギーの中でも設備利用率は太陽光13%、陸上風力20%、洋上風力30%であるのに対し、地熱では80%を超える。
火山帯の地下数キロメートルから数十キロメートルにはマグマだまりがあり、約1000度Cの高温で周囲の岩石を熱している。地表からの雨水は数十年をかけて岩石の割れ目を通って浸透し、マグマだまりの熱によって高温・高圧の熱水となり、地熱貯留層が形成される。
地熱発電は地熱貯留層まで生産井と呼ばれる井戸を掘り、熱水や蒸気をくみ出してタービンを回転させて発電する。地熱は太陽光や風力などのように気象条件などに左右されず安定した電源供給が可能だ。
また、資源を燃焼してタービンを回す発電方式と異なり、発電時の二酸化炭素(CO2)排出がほぼゼロのため、地球温暖化防止に貢献すると期待されている。主な発電方式にはフラッシュ発電方式とバイナリー発電方式が挙げられる。
フラッシュ発電は地熱貯留層から約200度~350度Cの蒸気と熱水を取り出し、気水分離器で分離後、その蒸気でタービンを回して発電する。気水分離器で分離された熱水は還元井と呼ばれる井戸を通り、再度地下に戻される。国内の多くの地熱発電所でフラッシュ発電方式が採用されている。
【排熱、多段階利用】
バイナリー発電は80度~150度Cの中高温熱水や蒸気を熱源として低沸点の媒体(アンモニア、ペンタン、代替フロンなど)を加熱・蒸発させ、タービンを回して発電する。
150度C以下の地熱流体の場合、分離された蒸気にはタービンを回す力が不足するが、バイナリー発電方式では低温の地熱流体でも高圧蒸気で効率よく発電可能だ。
従来の蒸気タービン発電システムでは温度が低すぎて利用できない温泉熱水や温泉蒸気が利用可能で、熱源系統と媒体系統の二つの熱サイクルがあることから「バイナリー」と呼ばれる。
約80度Cの温泉が湧出する温泉地では、高温の温泉をバイナリー発電の熱源として利用できる。温度を下げ、熱交換器で採熱し温水を作って温度を下げ、浴用に使用する取り組みも進んでいる。
さらに100度C未満の工場排水や下水道などの排熱を利用でき、発電後の熱水利用など多段階利用が期待できる。例えば、蒸気で作った温水を近隣のホテルや農業用ビニールハウスで活用し、周辺地域へのエネルギー供給の安定化につながる。
地熱発電では、(1)地表調査(2)掘削調査(3)探査掘削(4)環境アセスメントの策定(5)地熱発電所建設―のプロセスが求められる。地熱発電所建設までに10~12年の長い時間とコストがかかるのが課題だ。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は、国の受託事業として地表探査精度の向上や探査掘削時間の短縮化を図るなど地熱開発を進めている。
(2020/9/1 05:00)