(2020/10/6 05:00)
1961年、日本の下水道普及率(当時の普及率6%)の遅れから、下水道の普及や重要性の周知を図るため、建設省・厚生省(当時)、日本下水道協会の協議により「全国下水道促進デー」がスタートした。2001年には1900年の「旧下水道法」制定100年を迎えたことから9月10日は「下水道の日」に改称された。下水道事業を所管する国土交通省をはじめ、下水道事業者は社会インフラの一部である下水道の重要性を国民へ広く伝えている。日常生活の中で目に見えにくい下水道には多くの可能性を秘めている。
社会インフラの重要性周知
生活排水や雨水は下水道管を通じて下水処理場へ流れ、環境や衛生管理に欠かせない。19年の日本の下水道人口普及率は79.3%。一方、生活排水の処理施設を利用できる人口は1億1636万人(汚水処理人口普及率は91.7%)で、約1050万人が汚水処理施設を利用できない状況にある。
下水処理工程では水と汚泥の分離法として活性汚泥法が採用されている。活性汚泥法では微生物を含んだ汚泥中に空気を送り込むことで、微生物が有機物を吸収して繁殖する。沈殿、分離することで河川へ流す水から汚泥を分離する。
下水処理場では集積した汚泥をバイオマス資源として活用する取り組みも行われている。これまで60%を超える下水汚泥は未利用資源として焼却・埋め立てにより処分されていた。
国交省は14年の「新下水道ビジョン」で長期ビジョンの柱として「水・資源・エネルギーの集約・自立・供給拠点化」を掲げている。汚泥から発生するメタンガスや炭化した汚泥はバイオマス発電の燃料として使用されており、19年までに国内の下水処理場109カ所でバイオガス発電、同20カ所で汚泥の固形燃料化による火力発電が行われている。
下水処理場に流入する汚泥中のリンは農業用途の貴重な資源になっている。肥料の原料となるリン鉱石は年間56万トン(約120億円相当)が海外から輸入されている。下水汚泥中には海外輸入量の10%のリンが含有されており、下水汚泥を乾燥、発酵し肥料化することで農作物の収穫量の増加や肥料コストの削減に貢献している。20年度中に下水汚泥のエネルギー・農業利用率を34%から40%への引き上げを目指す。
新型コロナウイルス感染症拡大に伴う感染症対策として下水処理場でのウイルス検知に注目が集まっている。今年5月には日本水環境学会が「COVID-19タスクフォース」を設立した。
新型コロナウイルスは秋・冬に向けて感染の拡大が危惧されている。下水中から新型コロナを検知し、流行の兆しを事前に把握できると期待されている。下水の濃縮方法や定量分析手法の確立に向けた研究が進められている。
循環のみち下水道賞 グランプリに都下水道局
国交省は健全な水循環、資源・エネルギー循環を創出する「循環のみち下水道」に基づく優れた取り組みを国土交通大臣賞「循環のみち下水道賞」として表彰している。
20年度は東京都下水道局の「下水道の浸水対策によるストック効果の発現―令和元年東日本台風における浸水被害の軽減に大きく貢献―」がグランプリに輝いた。グランプリのほか、(1)イノベーション(2)防災・減災(3)アセットマネジメント(4)広報・教育―の部門から12件が決定した。
東京23区ではこれまで毎時50ミリの降雨への対応を基本とし、幹線やポンプ施設などの基幹施設の増強を計画的に進めてきた。国内最大級の下水道貯留管である和田弥生幹線の完成後、浸水被害数が減少したことや、一部完成した区間を暫定的に稼働させることで施設の整備効果を早期に図る取り組みが評価された。
インタビュー/国土交通省水管理・国土保全局 下水道部長 植松龍二氏
「老朽化管渠インフラ 適切に更新」
水は生活に欠かせない貴重な資源。住宅、工場などで使用された水は下水道を通って下水処理場で浄化され、河川を経由して海へ流れる。こうした排水の道となる下水道は社会インフラの一部として環境、衛生などの維持に貢献している。下水道事業が抱える課題や今後の展望について、下水道事業を所管する国土交通省水管理・国土保全局の植松龍二下水道部長に話を聞いた。
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―今、下水道事業にはどのようなことが求められていますか。
「2018年度末時点で下水道管渠(きょ)の総延長は約48万キロメートルに及ぶ。標準耐用年数とされる50年を超える管渠は10年後には約6.9万キロメートル、20年後には約16万キロメートルへと増加すると予測されている。総体的には、下水道事業は整備促進の時代から本格的な管理運営の時代に移っている。日本の人口減少や厳しい財政状況の中でも、こうした老朽化した管渠インフラを適切に更新していくことが求められる。下水道事業の広域化・共同化、官民連携、情報通信技術(ICT)を活用した生産・効率性の向上などが今後のカギになる」
―都市部の浸水対策も重要です。
「近年、気候変動に伴う大雨による浸水被害が増えている。昨年の令和元年東日本台風では、下水道の能力不足や放流先の河川水位の上昇による内水被害が発生するとともに、計16カ所の下水処理場が浸水し機能が一時停止した。そのため、検討会を設置し、気候変動の影響を踏まえた下水道の計画雨水量の設定や下水道施設の耐水化などの基本的な考え方を各地方公共団体へ明示した。本年度中に施設の浸水対策を含むBCPを見直し、被害時のリスクの大きい下水道施設において対策の優先順位を明確化した耐水化計画を21年度までに策定していただくよう要請した」
「20年度から『事前防災』の観点から地方公共団体の大規模な雨水処理施設の整備事業を個別補助金化した。豪雨を想定した内水ハザードマップの作成を各自治体に要請しているが、ハザードマップ策定率を高め、住民への周知を図る」
―日本の下水道技術は海外でも期待されています。
「現在、『国土交通省インフラシステム海外展開行動計画2020』に基づき、インフラシステムの海外展開に取り組んでいる。例えば、ベトナム・ハノイ市エンサ下水道整備事業として、18年11月に下水処理施設の建設を、19年11月には下水管の推進工事を本邦企業が受注するなど着実に成果を挙げている」
「18年に日本はカンボジア、インドネシア、ミャンマー、フィリピン、ベトナムとともに『アジア汚水管理パートナーシップ(AWaP)』を設立した。東南アジア諸国では下水道整備のニーズが高く、日本国内には管路の敷設・更新、汚水・汚泥処理などの優れた技術を持った企業が多い。実証事業の実施、設計・施工基準の作成支援、研修・セミナーの開催などを通じて、日本の持つノウハウを生かして下水道インフラの海外展開を図る」
(2020/10/6 05:00)