理研計器は新開発の「Fセンサ」により広範な使用温度範囲の対応や劣化・寿命診断機能を備えた定置式ガス検知部「SD-3シリーズ」を海外プラント向けに発売した。厳しい海外規格に対応するため、ステンレス鋼製筐体(きょうたい)を採用するとともに、新型センサで高性能化した。定置式の海外戦略製品として石油・化学工場や発電所などを中心に提案する。新型ガス検知部の開発の経緯や先行きの展開について、技術部の小暮晋祐課長と営業技術部の杉山浩昭課長に聞いた。
定置式ガス検知部「SD-3シリーズ」
技術部 小暮晋祐課長
―「SD-3シリーズ」の特徴を挙げてください。
小暮
「SD-3シリーズは大気中の可燃性ガス、毒性ガス、酸素などを連続監視し、設定した濃度値を超えると警報を発する検知部。最大の特徴はマイコン一体型のFセンサを搭載し、使用温度範囲を従来のマイナス10度-プラス50度Cからマイナス40度-プラス70度Cに大幅に拡大したこと。また自己診断機能としてセンサの劣化・寿命を測ることができる。これら機能・性能を向上させたことで保証期間をこれまでの1年から3年に延長した」
―Fセンサを開発した経緯は。
小暮
「従来の定置式センサでは海外規格を満足できていなかったことから、海外プラントへの参入は困難だった。新規センサを開発した一番の目的は国際規格、欧州、北米の性能要求(IEC、EN、ANSI/ISA)に対応すること。
従来のガス検知部のセンサに外形の統一感はなく、検出素子と回路(マイコン)は別々になっていた。センサとガス検知部の両方のメーカーである当社の強みを生かし、多様なガスに対応するマイコン一体型の新型センサを設計・開発した。これにより使用温度範囲を拡大したほか、自己診断機能を備えた。スタンダードセットとして外形も統一している」
―具体的にFセンサは多様なガスにどのような検知能力を発揮できるのでしょうか。
小暮
「Fセンサは検知原理によりIRF(赤外線式)、NCF(ニューセラミック式)、SGF(半導体式)、SHF(熱線型半導体式)、ESF(定電位電解式)の5種類のラインアップを用意。幅広い対象ガスを検知できる。IRFはガス検知用と比較用の2種類のデュアルセンサ方式を採用し、測定安定性を向上させた。NCFはガス導入口の口径を絞り導入量を抑制したことで被毒耐久性が従来の2倍以上に高まった。SGFは生産工程を見直して、リードタイムを大幅に短縮した。SHFはセンサ内部に温湿度センサを当社で初めて搭載し温湿度変化による誤差を改善。ESFでは方向性を改善し下向き、上向き、横向きでの使用が可能で、耐熱性も向上している」
営業技術部 杉山浩昭課長
―海外プラントでは設置環境が異なるケースが多いことも想定されます。
杉山
「多様なオプションによりさまざまな設置環境に対応する。リモートセンサは検知器本体から最大20メートル離れた場所に設置・検知することが可能。またスプラッシュガードと専用キットを使いダクト挿入式で使える。吸引式は外部ポンプと組み合わせることで設置スペースがないケースやメンテナンス作業ができない高所に有効になる。また出力オプションとしては『4-20mA信号』+HART通信に加え『Modbus通信(RS-485)』に対応する」
―これら以外に特徴はありますか。
杉山
「ニューセラミック式のNCFセンサを搭載した機種はダブルレンジに対応している。ガス濃度レベルにより低濃度側(Lowレンジ)と高濃度側(Highレンジ)の2種類のスケールを切り替えて表示する。対象ガスがメタンの場合、0-2000ppmではLowレンジ、5-100%LELになるとHighレンジのスケールに移行する」
―海外戦略製品に位置付けています。
小暮
「ガス検知部の世界市場では欧米諸国が厳格な製品規格づくりなどで先行している。日本の製品はなかなか適応できていないのが実情。それぞれに適合しなければ海外市場でシェアを獲得できない。そこでSD-3シリーズは海外展開を視野に機能・性能を拡充した。過酷な環境下の使用に耐えるように使用温度範囲を高めたほか、堅牢な筐体として従来のアルミ合金製からステンレス鋼製に変更した」
―どんなグローバル規格・認証などに対応しますか。
小暮
「防爆検定としては国際規格のIECExと欧州規格のATEXを取得した。国内防爆と北米規格のFM/cFMに申請している。性能・パフォーマンスでは国際規格のIECと欧州規格のEN及び北米規格のANSI/ISAとFM/cFMを取得予定だ。このほか、欧州の安全基準マークのCEマーキングへの適合やIECの防水・防じん規格も保護等級IP66/67相当に対応している。また、IECの機能安全規格認証のSIL2を申請中で、EC舶用機器指令のMEDも取得する予定だ」
春日部開発センター(左)と生産センター(右)
―販売目標はどのくらいですか。
杉山
「これまで当社のガス検知器の海外展開は携帯型のポータブル式が中心だった。今回、SD-3シリーズの投入により定置式市場の本格開拓に乗り出す。主に海外プラントを手がけるエンジニアリング会社向けに売り込みを開始し、初年度としては1000台の販売を目指す」
―先行きの海外展開の計画を示してください。
杉山
「当社は海外の定置式市場を約1200億円規模と試算している。先行きはこのうちの1-2%のシェアを獲得できればと考えている。第1段階として東南アジアで営業を強化する。プラントを受注するプロジェクト建設工事請負契約(EPC)は足の長い事業のため地道な営業活動を進める。さらに地域ごとの規格取得を重ねながら、第2段階として北米地域や中東地域でのシェア獲得につなげる計画だ」
―新型のFセンサについて、国内でも展開をするのですか。
小暮
「Fセンサはマイコン一体型の画期的な製品。当然、国内市場にも導入していく。今後、新規開発する定置式製品を中心に搭載していく方針」