(2021/3/16 05:00)
松井製作所は金型冷温調機「MCX2」の開発にあたり、グローバルに通用する製品を目指し、イタリア・フリージェルやフリージェルの製造拠点であるタイ・FAPなどと国際的なオープンイノベーションを行った。
低温度域から高温度域まで高精度コントロール/成形のサイクルタイム短縮に貢献
新型冷温調機「MCX2-G3」の優れた性能とは?
なぜ、デザインにこだわったのか。MATSUIの狙いを読み解く
日本品質の性能に世界で通用する操作性を/UXDの実現
装置開発・製造技術確立を担当した中川悠さん、操作パネルのデザイン統一に取り組んだ米田優也さんの2人に、異文化協業の苦労、意義などについて聞いた。
――グローバル製品開発プロジェクトに参加した経緯は。
2019年春から冷温調機開発に加わりました。同年だけでも10回程度、タイに出張しました。タイFAPで組み立てる新製品の品質向上のため生産技術を改善することが主目的でしたが、途中からは製品開発にも深く関わりました。これまで生産技術を担当し、海外拠点に行ったことは何度もありましたが、今回はまったく別の会社の工場での異文化協業で、最初は面食らうことばかりでした。
私はコントローラー部分を担当し、20年からプロジェクトに参加しました。当社の製品サイクルは非常に長く、かなり以前からある装置もあれば、最近開発した装置もあります。操作パネルも開発した時期や開発者によってデザインが異なっていましたが、今回はグローバル仕様に統一したデザインを開発する取り組みを行いました。
――海外メーカーとの異文化協業において苦労したことは。
フリージェルはタイで冷却機など大物製品を主に製造しており、自分たちの工程に基づいて製造しています。ただ今回のような精度を求められる装置を新たに製造するにあたり、私なりに見て足りない部分を改善してもらうよう一緒に取り組みました。モノづくりには不具合発生は避けられませんが、それを再発しないようにすることが大切です。生産技術や製品の検査方法も当然異なりますが、パートナーとして互いの良い部分は取り入れつつ、譲れない部分は話し合って解決しました。
操作パネルのデザイン統一はグローバル展開を行う上で外せない要素で、フリージェル、コントローラーメーカー、イタリアのUXデザイン会社と協働して進めました。スイッチの色は日本では停止時に赤色、作動すると青色に変わりますが、欧州の規格では停止時はグレー、作動時は白色といった具合に全然違います。新製品をグローバルで売れる仕様にするには、当社ポリシーも合わせていかなければなりません。プロジェクトに参画した4社の話をすり合わせ、理解、譲歩しながら一定レベルのデザインに仕上げました。新型コロナ禍の影響で、ウェブ会議を繰り返し1年間かけてやっと完成しました。
――出来栄えに対する評価は。
開発途中で、役員の皆さんに経過確認をいただいた際には、「統一デザインに見えない」と却下されました。かなり開発が進んでいた時期でしたが、文字のアイコン化や表示位置の調整など統一すべき点をドラスチックに見直しました。最終版では、役員からも「統一性が図られている」とねぎらいの言葉をいただけました。
製品としては良いモノができました。海外販売拠点メンバーからは、グローバル企業であるフリージェルの製品が日本品質で提供できるという期待が大きいと聞いています。後はモノづくりがきちんとできるかどうかです。生産技術の意見交換、指導は十分行ってきたつもりですが、実際に製造が始まるとどうなるか不安はあります。ただ最終的には日本の受け入れ時にも検査を行い、お客さまにはしっかりとした製品をお届けします。生産技術の指導は今後も続けていきます。
――経験を今後にどう生かしますか。
異文化協業で、コミュニケーションの重要性、意思の伝え方など勉強になった点は多々あります。こちらから積極的にコミュニケーションを図ることで、相互理解が進みました。いろいろと苦労はありましたが、やってみて楽しく、自信になりました。
これまでの開発資源だけでなく、オープンイノベーションで異文化をすり合わせて開発できたことは大きな意義があります。今は冷温調機で新デザインのパネルを作ったというだけなので、社内資産となりうるガイドラインを作成し、今後の製品づくり、デザインに生かしていきたいと思います。
低温度域から高温度域まで高精度コントロール/成形のサイクルタイム短縮に貢献
松井製作所が3月22日に発売する金型冷温調機「MCX2-G3」は、日本とイタリア、タイを結んで生み出したグローバル市場を狙う戦略製品だ。35度-45度C の中温度域でも高精度な制御を実現した性能面。さらに新たな設計思想で作り上げた操作パネルや、曲線を取り入れた本体設計など、新市場の扉を開く「MATSUI」の“新標準”を形にした。
給水温度など外的要因の影響を受けやすい中温域は、既存のチラーと温調機ではともに制御できる温度範囲の境界になり、媒体の温度を安定させるのが難しかった。MCX2は冷却機能と温度調節機能を有しており、低温度域から高温度域までを1台でまかなえる。
温度制御の精度は±0.3度C。これにより成形品の表面品質の向上と寸法精度の安定が見込める。また金型の温度は成形のサイクルタイムの短縮に関係する。MCX2は金型の可動型(コア)と固定型(キャビ)それぞれの温度を調節できる2系統の媒体供給回路を備えたダブルタイプをラインアップ。コアとキャビで温度差をつけた設定が可能で、成形サイクルの短縮により、生産性を高められる。
さらにMCX2は操作パネルに新開発の7インチ・タッチパネルを採用した。UX(ユーザーエクスペリエンス=利用者体験)をデザインの根幹に据え、国境を越えても直感的に操作できるアイコン、レイアウトで構成。白色の文字が見やすい黒を背景に採用したほか、メニューバーにブルーとピンクのコーポレートカラーを配色。起動スイッチの色は海外市場を意識し、欧州の規格に準拠した。
MCX2は合理的な設計思想に基づき、水タンクの小型化や配管レスによる省スペース化も果たした。出力の異なる3モデルでシングルとダブルの各2タイプ、計6機種をラインアップする。
操作パネルに込めたグローバル戦略
シェアの拡大と新規市場開拓の実現を目指す松井製作所。新型冷温調機「MCX2-G3」の発売はこれからの"MATSUI“を世界に示す最初の一手になる。3カ国をつないだ開発体制、UX(ユーザーエクスペリエンス=利用者体験)デザインを取り入れた統一コンセプトの操作パネル。「MCX2には新たな試みが詰まっている」と、開発のチームリーダーを務めた標準品事業カンパニーの中川悠副主事は胸を張る。
MCX2はフリージェルとの共同開発によって、お互いの不足を補い、魅力的な価格や競合との機能の差別化を実現した。特に操作パネルは国、文化を超えて普遍的に通用する操作性を確立する上でこだわった部分だ。グローバルメーカーの製品はここに統一感がある。「日本を代表する立ち位置で国際展示会に出る我々も意識しなければならない」(中川副主事)。
色使い、フォントの大きさ、細かな表示位置など、技術者のこだわりが通じ合わないもどかしさを乗り越えて完成したパネルは、シンプルかつ機能美にあふれる。文字を排したアイコンベースの入力で誰もが直感的に操れ、海外のさまざまな市場を狙えるインターフェースに仕上がった。
市場拡大において松井製作所は標準品の魅力向上とソリューション提案力の強化を重視する。標準品は価格競争に陥りやすいが、ユーザーの課題解決につながる製品は競合メーカーと差別化しやすい。独自色のある製品がそろえば、魅力的な標準品と組み合わせて新規顧客の開拓につなげられる。「新たな製品開発で自分たちの殻を破った」(中川副主事)。
MCX2の開発は同社が考える「グローバリゼーション」を体現した。言葉や地理的な距離の問題を乗り越え、技術を持ち合って一つの製品を完成させることに成功した。原材料・水・エネルギーの消費を2分の1にする一方、生産量の増大と製品の付加価値向上により企業の豊かさを2倍にし、資源生産性を4倍にしようと呼びかける松井製作所の「factor4」の考えには、賛同する企業がグローバルに集まっている。フリージェルもこのうちの1社で、OEM(相手先ブランド生産)の製品供給を受ける長年の関係から共同開発のパートナーへと変わった。MCX2の開発経験を生かし、共同開発は今後も他社も含めて積極的に展開する方針だ。「これからも持ってない武器を生み出していきたい」。中川副主事は力を込める。
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