4月18日は発明の日/知財教育と人材育成

(2021/4/19 05:00)

業界展望台

イノベーションの成果を企業発展に結びつけるためには、知的財産の権利化という手順が不可欠だ。知財の有効活用は企業戦略の大きな柱となる。知財戦略を考え、実行する人材の育成は教育機関である大学も力を入れている。世界に通用する知財人材の育成を目指し、専門的、実践的な教育プログラムを展開する大学の取り組みを紹介する。

国士舘大学 総合力持つ専門家を育成

国士舘大学は2006年、大学院に総合知的財産法学研究科を開設した。修士課程を設置し、知的財産に関わる総合力を持つ人材の育成を掲げる。中小企業診断士や税理士などと近い位置から経営者に助言できるような、知財の創造・保護・活用・紛争処理能力を持つ高度な職業的専門家を主力の育成モデルとする。

特徴的なのは、知財分野を扱う大学院の多くが工学をベースにしているのに対して、同研究科は法学をベースに養成することを目的としている点だ。実務家教員中心の布陣で、基幹科目の特許法、意匠法、商標法、著作権法、不正競争防止法などで法理論と実務能力を習得。さらに、法律系出身者には関連法と経営系・理工系の知識を、理工系出身者には法律や経営系の知識をそれぞれ習得できるようにしている。

その他、特別科目の「知財管理実務論」では特許事務所などでの実務研修などを実施。国家試験対策としての「“弁理士"試験対策指導」も行い、多くの合格者を輩出している。研究科の開設当初からeラーニングを積極的に取り入れて、必修科目はすべての授業を録画している。このため、コロナ禍でもオンライン授業に対応しやすい環境にあった。

入学する学生にも特徴がある。1学年の定員は20人で、21年度は19人が入学した。このうち、17人が中国人で留学生が増加傾向にある。三浦正広研究科長は「日中間の取引の需要が旺盛で、仕事が見つかりやすいからだろう」と分析する。

知財の高まりとともに、学生の修士論文の内容も知財の周辺領域へと広がりつつある。三浦研究科長は「知財領域は技術の発展とともに進化している領域。時代の流れとともに対応できる体制を整えたい」としている。

金沢工業大学 オンライン授業に高評価

「KIT虎ノ門大学院」で知られる金沢工業大学のイノベーションマネジメント研究科・同専攻。特許を含む知的財産やビジネスの大学院で、社会人が都心での勤務終了後に通う形が定着していた。20年度は新型コロナウイルス感染症対応で、他大学と同様にオンライン授業に大転換となった。「複数のツールを試し、ビジネススクールにとって抜群に使い勝手がよいリアルタイムのウェブ会議システム『ズーム』を活用した」と加藤浩一郎専攻主任は説明する。

  • パワーポイント教材と教員・学生画像でオンライン授業もスムーズだった(右が加藤専攻主任=KIT提供)

全入学者に貸与しているノートパソコンが役立った。カメラなしの古い個人パソコンや、ズーム禁止の企業パソコンを使わずにすんだのだ。授業は以前から復習用のビデオ録画をしており、教材はパワーポイントでそろうのも幸いだった。

教員は教室の特設スタジオで、事務方の支援を受けながら授業を実施。10―20人の受講生全員の顔を画面に投影したり、ホワイトボード機能を使ったり。ウェブ上で各4人のグループディスカッションに移り、教員が各グループをみて回る機能もよかったという。

一方で筆記試験は対応が難しく、登学してもらって実施。10月からは対面のゼミをウェブ併用で開始した。学生の相談や雑談に応じる教員の「オフィスアワー」をバーチャルでも設定し、「理想とする対面・双方向性に近い環境を確保した」(加藤専攻主任)。

この結果、各授業の満足度調査は予想以上の高評価に。80%超と、過去3年間より5ポイントも高い結果となった。学位取得が1年で可能なKITの魅力に加え、移動時間が不要なオンライン授業の便利さが加わり、新たに大学院進学を考える社会人増につながれば、と期待している。

大阪工業大学 実践力重視 即戦力人材を育成

大阪工業大学は日本でただ一つの知的財産学部と専門職大学院知的財産研究科を持つ。知的財産学部では知財全般の基礎を学び、課題解決型学習(PBL)によって自主的な判断力を養う。知的財産研究科では実務に特化した授業を行っている。

学部から大学院までの課程を通して現場で即戦力となる人材を育成する教育体制を整えているため、大学院への進学を推奨している。通常6年の学部から大学院までの修学期間を5年にする早期進学に給付型奨学金制度を導入するなど、大学院進学へのサポート体制が手厚い。

その成果もあり、学部から大学院への進学率は2020年度は約20%と文系学部では異例の高い数値をたたき出している。また同年度の大学院生の就職状況は約70%が製造業や情報通信業などの知財を重視する業種に知財職として就職。自社で研究開発できる中堅・大手企業の就職が76.2%を占め、企業が求める知財人材の輩出に貢献している。

現場で活躍する知財人材育成には、知財だけでなく法律、経営など多面的な理解を要する。そのため、カリキュラムには幅広い分野の授業と、実践的な演習を実施している。特に大学院では、情報の検索・分析や工学など、理工系の分野でも就職後の実務で必要になる最低限のレベルは必須科目になる。

実践力を鍛える授業には、企業の実例を教材にしたケーススタディーやPBL方式の授業などがある。中でも「知的財産事業化演習」は近畿経済産業局主催の「開放特許等を活用したビジネスアイデア学生コンテスト」と連動している。21年1月にオンラインで実施された最終審査会には、同大学から4チームが出場。そのうち「チーム大塚」がビジネスプラン「どこでも服薬チェッカー」を提案し、最優秀賞受賞を果たした。

  • 最優秀賞を勝ち取った「チーム大塚」の学生たち

(2021/4/19 05:00)

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