(2021/5/26 05:00)
名古屋大学 未来材料・システム研究所 工学研究科
電気工学専攻 教授・工学博士 山本真義
2020年10月の国産ジェット旅客機の開発凍結は、航空機産業分野に深い影を落とした。しかし、国内では自動車分野の電動化の波を追い風に、新しい航空機電動化技術を研さんしている。現在、旅客機を対象としたハイブリッド化技術が検討されており、小型航空機においては窒化ガリウム(GaN)や炭化ケイ素(SiC)を用いた次世代パワー半導体を、電動システムへ適用させる試みが進んでいる。さらに電動航空機全体をモデル化し、次世代航空機設計を先導する新たな取り組みも始まっている。
次世代ジェット旅客機 ハイブリッド化技術検討
1973年7月31日、通商産業省(現経済産業省)管轄の航空機工業審議会は戦後初の国産旅客機である「YS-11」に関する処理方針の答申案を決定し、わが国独自の旅客機の歴史に幕を下ろした。それから半世紀にわたり、日本の民間航空機産業は雌伏の時代を迎える。そこにわずかな光明が差し込んできたのは、意外にも地上からであった。
トヨタ自動車は97年12月に「21世紀に間に合いました」をキャッチコピーに、プリウスを発売した。量産乗用車として初のハイブリッドシステムを搭載し、動力系への内燃機関以外の電気系システムによる関与を世界に認知させることに成功した。
以後、自動車などのモビリティーへの電気系システムの適用は広がり、電気応用システム要素に強い日本の技術を追い風に、さまざまな応用分野への試みがスタートした。
前述のYS-11の国産航空機の意思を継承したのは三菱重工業だった。三菱リージョナルジェット(MRJ、現三菱スペースジェット)は、その冠名の通り、ジェット旅客機として日本初となる挑戦であり、20年10月まで実際の飛行試験を含めた開発が続いたことは記憶に新しい。
スペースジェットの開発凍結は国産航空機開発の灯が絶えたように感じられたが、現在も三菱重工業をはじめ、各航空機関連企業は航空機産業に対する歩みを緩めていない。
愛知県が主催する「知の拠点あいち重点研究プロジェクトⅢ期」では、三菱重工航空エンジンが県内企業や大学と共同でジェット旅客機のハイブリッドシステムに関する研究を進めている。
同システムはプリウスと同じ「パラレルハイブリッドシステム」と呼ばれる機構である。内燃機関であるガスタービンエンジンと電気系システムであるモーター駆動システムが並列連動し、使用条件によってガスタービンエンジンや電気系システムの切り替えが可能となる。
しかし、ガスタービンエンジンは負荷変動に過敏に反応する。必要出力に対してモーター駆動システムとのシームレスな連携が必須となることから、本プロジェクトではモーター駆動システムにおける高速応答を実現するGaNパワー半導体を用いたインバーター(写真)の研究開発も同時に行っている。
大容量モーター駆動システム パワー半導体 採用検証
シンフォニアテクノロジーは新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の先導研究プログラムにおいて、電動航空機用大容量モーター駆動システムの開発を進めている。実際に空を飛ぶ航空機を完全に電動化する場合、小型機においてもメガワット級の大容量出力が求められる。
同社はこのアプローチに対してGaNパワー半導体と同じく、従来のシリコンパワー半導体の置き換えとして注目されるSiCをインバーターに採用。1メガワット出力において、1キログラム当たり10キロワットを超える高出力密度性能の実現を目指して研究開発を進めている。
航空機電動化の技術潮流を受けて、18年に宇宙航空研究開発機構(JAXA)の航空技術部門次世代航空イノベーションハブが中心となり、「航空機電動化(ECLAIR)コンソーシアム」が組織された。
各電動化技術に関する技術開発グループが構成され、活発な進捗(しんちょく)報告会を開いている。技術開発グループの一つにおいて、電動航空機のモデリングに関する議論が行われている。
JAXAは14年度まで「FEATHER事業」と称した電動航空機の開発を行ってきた。名古屋大学はJAXAの協力の下、構築された電動航空機を仮想上にモデル化することに成功した。21年の電気学会全国大会で、これを「名古屋大学-ECLAIRモデル」(図)と名付けて発表した。
(2021/5/26 05:00)