(2021/6/17 05:00)
集塵機は製造工程や焼却炉、工事現場などから発生する粉じん、有害ガスなどの物質を吸引して、空気を清浄化させる機器・装置。粉じんは作業現場の大気汚染だけでなく、作業者の健康被害を引き起こす。また金属アーク溶接時に発生する溶接ヒューム(金属の微粒子)は神経障害などのリスクが高いことから、厚生労働省により特定化学物質に追加された。今年4月1日から金属アーク溶接などの作業にかかわる作業環境管理が強化されている。モノづくりの現場で集塵機には作業者の健康・環境保護の役割が期待されている。
有害物質を吸引 モノづくり現場で活躍
粉じんは破砕、研磨、解体などにより大気中に飛散し、粒子の大きさはさまざまである。呼吸により体内に侵入した粉じんが大きい粒子であれば鼻や咽頭部に付着するが、非常に細かい粒子は呼吸器の深部である肺胞まで到達する。
トンネル建設工事や金属などの研磨作業、鋳物業など、多量の粉じんを長時間吸い込むような環境では、体外へ粉じんをうまく排せつできず、肺の中に蓄積され続ける。それにより呼吸機能が低下し、じん肺や肺腫瘍、ぜんそくといった健康障害が発生する。集塵機はこのような作業者の健康被害や大気汚染を防止するため、空気中の粉じん量を減らす装置として活躍する。
集塵機は集塵対象物の粒径や必要とされる捕集率に応じて処理方式が異なる。粒子を分離する原理によって重力式、慣性式、遠心式(サイクロン)、洗浄式(湿式)、ろ過式、電気式の6種類がある。重力式集塵機は粉じんを含む空気を重力で沈降させ集塵する。慣性式集塵機は集塵機内部に設置した衝突板に空気を衝突させて粉じんを分離させる。
遠心式集塵機は下部が細くなる円すい形の構造で空気に旋回流を与え、遠心力により粉じんを円すい下部に下降させて集塵する。洗浄式(湿式)は粉じんを含んだ空気を水中通過や水などの液体を吹き付けることにより捕集する。
ろ過式集塵機は、ろ布でできた袋(バグ)状のフィルターで粒子を捕集し空気と分離させる。きわめて細かい粒子も捕集できるが、長期間の使用で目詰まりを起こし捕集エネルギーを損失(圧力損失)しやすい。そのため断続的な粉じんの払い落としやフィルター交換が必要となる。
流機エンジニアリングはこうした課題に対応。フィルターの長寿命化を図り、コスト低減に貢献する製品を搭載した集塵機を投入している。
電気集塵機 オイルミスト捕集
電気集塵機は直流高電圧によるコロナ放電を利用して、粉じんなどの微粒子に電荷を与え、静電引力により集じん電極に付着させて捕集する。圧力損失は小さく、微粒子の捕集率が高いため、オイルミストの捕集でも利用される。
サンテクノのST式湿式電気集塵機は鉄粉などのダストや油煙をファンの力で吸引し、加湿器で水を吹きかけ水を同伴させる。強力なコロナ放電によりダストにマイナス電子を帯電させ、プラスの電荷をもった集じん電極板へと引き寄せ捕集する。運転終了後、集塵機内上部にある洗浄スプレーで循環水を使用し内部の極板を洗浄することで、堆積したダストは水とともに下のタンクへと流れ落ち、回収される。
捕集する物質を水で濡らすことで、電気を通しやすくし、捕集率を高める。火災リスクのあるオイルミストのような可燃性のものも安全に捕集できる。
出力電流を上げていくことで排出される空気が有色煙から目視無色になる。サンテクノの吉野孝典社長は、「試運転で煙が消える時に顧客の『おおっ』という感嘆の声を聞くのが誇らしい」と集塵機を手がける喜びを語る。現場の健康管理や近隣地域へ配慮した処理が可能となる。
溶接ヒューム 特定化学物質に 捕集集塵機に注目
厚生労働省は金属アーク溶接時に発生する「溶接ヒューム」が健康被害を引き起こすおそれがあるとし、特定化学物質障害予防規則(特化則)などの改正により、特定化学物質(第2類物質)に追加した。4月1日に施行・適用され、金属アーク溶接作業を屋内作業場で継続して行う事業者を対象とし、溶接ヒューム濃度の測定方法や、その結果に基づく有効な呼吸用保護具の選択・使用方法などが義務づけられている。
金属アーク溶接とは、アーク放電という電気現象を利用した金属の溶接方法。自動車などさまざまな分野の金属加工に使われている。溶接ヒュームはアーク放電の熱により溶かされた金属が蒸気となり、冷却され細かな粒子となったもの。塩基性酸化マンガンや酸化鉄などさまざまな有害物質が含まれている。粒子は非常に細かく、吸い込むと鼻や喉だけでなく肺胞まで到達する恐れがある。作業者に対する発がん性や神経機能、呼吸器系障害の発症リスクが高まるため、適正な作業環境管理が必要となる。
ヒュームを捕集するヒューム集塵機は持ち運びやすい小型から大容量のものまでサイズは多様。小型・軽量のヒューム集塵機を取り扱う日下部機械では「特化則の本格的施行を背景に、例年に比べて7倍近くのユーザーから問い合わせがあり、関心の高さを認識した」と強調する。
溶接時に発生する火花が集塵機内に入り火災や故障の原因となる恐れがある。そのため火花の本体への侵入防ぐため、衝突板多重構造や煙・火花の検出センサーなど火災対策機能を備えた機種が活躍している。
また微細なヒュームを捕集するため面積が広い難燃性のフィルターを使用している。流機エンジニアリングは溶接ヒュームで作業者が気をつけるべき点として「ヒューム集塵機は吸引した空気をろ過、排出する流れがある」とし「全量吸引し、ろ過清浄化することが大切」と指摘する。同社の小型ヒューム集塵機はHEPAフィルターを使用し、高い捕集率で排出口の空気を清浄化し、安全な作業現場を実現する。
(2021/6/17 05:00)