脱炭素・多様化・効率化へ エネルギー産業

(2021/7/7 05:00)

業界展望台

社会・経済活動、生活には石油や石炭などの一次エネルギー、そのエネルギーにより作られた電気や都市ガスなどの二次エネルギー、太陽光発電システムなどの再生可能エネルギーが欠かせない。2020年10月、日本は50年までにカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)を目指すことを宣言し、脱炭素に向けて企業やエネルギー市場は動きだしている。

 

カーボンニュートラル

企業、取り組み加速 新技術や電力切り替え

カーボンニュートラルは地球温暖化の原因とされる二酸化炭素(CO2)の排出量と吸収量が、差し引きゼロの状態。化石燃料の燃焼などで人間が排出するCO2量と、植林などで吸収するCO2量が同じである概念で、自然界にある炭素の総量を変えないようにすること。

こうした中、経済産業省資源エネルギー庁は「21年版 エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書)」を6月4日に発表した。同白書は(1)エネルギーを巡る状況と主な対策(2)エネルギー動向(3)20年度エネルギー需給に講じた施策―の3部で構成されている。

これまでの前年度のエネルギー需給に関する施策の状況だけでなく、新たにカーボンニュートラル実現に向けた課題と取り組み、エネルギーセキュリティーの変容についても紹介している。

日本が排出する温室効果ガスの約90%がCO2でこのうち40%が電力部門、残り60%が産業や運輸、家庭などの非電力部門から排出されている。

同白書は電力部門において、火力発電所からのCO2排出が多くを占めており50年までにカーボンニュートラルを達成するためには、このCO2排出量を削減していく必要を述べている。

一方で、火力発電は太陽光発電や風力発電などのシステムにおいて、出力が変動する再エネの導入拡大を支える大切なエネルギー。

火力発電は(1)安定した大きな供給力(2)電力の需要と、太陽光発電や風力発電システムにより出力変動する電力供給を一致させ需要に合わせた供給量調節ができる(3)電力系統で生じたトラブルによるブラックアウトなどを防ぐ―といった重要な役割を担っている。

今後は脱炭素のエネルギーとして再エネが主力化していく中、水素やアンモニアなどCO2フリーエネルギー、CO2の貯蓄・利用(CCUS)、蓄電池などの技術と組み合わせた動きが必要と述べている。

日本企業は脱炭素化に積極的に取り組んでおり、気候変動関連の情報開示を行う枠組みである気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の賛同機関数は日本が世界で第1位、脱炭素化に向けた中長期の目標設定を行うサイエンス・ベースド・ターゲッツ(SBT)の認定企業数は米国に次ぐ第2位(アジアでは首位)、事業活動に必要な電力を100%再エネで賄うことを目指す枠組み「RE100」においても米国に次ぐ第2位(アジアでは首位)となっていると同白書では述べる。

また、自社が排出する温室効果ガスの削減、自社で使用するエネルギーに係る温室効果ガスの削減のみならず、サプライチェーン全体での脱炭素化を図る企業も増加している。

こうした中、富士石油は脱炭素社会に向けた取り組み強化を基本方針の一つに置いている。脱炭素社会に向けた取り組みとして、バイオジェット燃料の共同研究に動きだした。

パナソニックは19年に「RE100」に加盟。そして5月24日に純水素型燃料電池と太陽電池などにより事業活動で「RE100化ソリューション」に取り組むと発表した。

  • CO2フリー電力に切り替えたHIOKI本社・工場

HIOKIは4月1日より長野県上田市の本社工場で使用する電力のすべてを水力発電によるCO2フリー電力に切り替えた。本社工場の電力は実質的に再生可能エネルギー100%になり、電力使用によるCO2排出量はゼロとなる。

同社が日本国内で使用する電力の98.6%がCO2フリー電力となり、また本社工場で1年間に使用する電力約5500メガワットアワーのCO2、およそ2300トンが削減される。

 

一次・二次エネルギー

石油依存度 低下へ 製造業の消費量は減少

日本は1973年に一次エネルギー国内供給の75.5%を石油に依存していた。エネルギー供給の安定化に向けて石油依存度を低めて天然ガスなどのエネルギー導入を進める一方、新エネルギー開発を加速させてきた。2010年度の一次エネルギー国内供給に占める石油の割合は40.3%で、天然ガスなどの割合を増加させエネルギー源の多様化を図った。19年度は37.1%となり、4年連続で40%を下回った。

二次エネルギーである電気は業務用と家庭用を中心に需要は増加。電力化率は1970年度には12.7%だったが、電気を使う環境が広がり、2019年度は25.8%に達している。

製造業のエネルギー消費は1965年度から73年度まで年平均11.8%で増加し、実質GDP(国内総生産)の伸び率を上回った。73年以降は減少傾向となり、73年度からの10年間は実質GDPの増加に対して、エネルギー消費は年平均2.5%減少している。

2008年度以降はリーマン・ショックや東日本大震災以降の省エネルギーの発展で、製造業のエネルギー消費は1973年度の水準を下回って推移している。19年度は、前年度比でマイナス2.8%減少している。

1973年度と19年度を比較すると、経済規模は2.6倍、製造業全体の生産も1.6倍に増加したが、製造業のエネルギー消費は0.9倍まで低下している。エネルギー白書では省エネルギーの進展(原単位要因)と素材産業から加工組み立て型産業へのシフト(構造要因)が背景にあるとしている。

製造業は生産コスト低減から、エネルギー効率向上に対する関心が高い。企業の環境保護意識の高まりや省エネへの努力が強まっている。製造業のエネルギー消費は現在でも最終エネルギー消費全体の40%ほどを占めており、さらなるエネルギー効率を高めていくことが求められている。

(2021/7/7 05:00)

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