(2021/7/13 05:00)
防犯カメラは事件・事故の発生状況の記録をはじめ、事件後の解析による犯人の特定や、設置による事前の犯罪抑止にも貢献している。セキュリティー分野では顔などのバイオメトリクス(生体認証)を活用したソリューションが増えており、安全な社会を構築するテクノロジーに進化している。
進化する顔認証技術
警視庁は2001年から繁華街での防犯対策の一環として「街頭防犯カメラシステム」を導入している。01年の新宿区歌舞伎町の刑法犯認知件数は1865件。20年に765件まで減少し、同年に警視庁が新宿区など6地区で録画した725件の映像データから424件の検挙につながった。
犯罪抑止につながる一方、被撮影者のプライバシー保護は重要な課題だ。カメラ設置者には撮影データの管理や、表示板による撮影目的の明確な表示、周知が求められる。
近年、生体認証を活用したセキュリティー対策が注目されている。生体認証は指紋、声紋、静脈、虹彩など生物固体が持つ特性から人物を認識する技術。顔の特徴点を捉えた認証技術の活用が進んでいる。
動画再生ソフトウエア「リアルプレーヤー」で知られる米リアルネットワークスは、人工知能(AI)を活用した顔認証ソフトウエア「SAFR(セイファー)」を提供している。
同社は写真・動画保管サービス「リアルタイムズ」のユーザーから利用許諾を得て、約1000万人の顔データを教師データとして用いた。性別、年齢、人種など膨大なデータをAIに深層学習(ディープラーニング)させることで独自のアルゴリズムを開発した。
あらかじめスマートフォンなどで顔データを撮影し、クラウドまたはオンプレミス(自社保有)環境に保管する。ネットワークカメラにSAFRを組み込み、被撮影者の顔を保管データと照合して生体認証する仕組みだ。
SAFRは米国の顔認証技術のベンチマークテストで高い認証精度を記録している。被撮影者を0.1秒ほどで認識でき、競合他社と比較して3~5倍の認証速度を誇る。
(リアルネットワークス提供)
これまで顔認証では難しかった肌色の異なる人種間の認証精度の差(バイアス)や、逆光での顔認識も可能にした。正面の顔データの特徴点を基に、正面から80度の角度でも認識できる。目・鼻・口の内、二つの特徴点を抽出することで、被撮影者がサングラスや帽子を着用していても顔認証できる。
インドのコルカタ警察は大規模イベント会場で、犯罪者の検知を目的にSAFRを導入。結果、数万人の中から4人の指名手配犯の逮捕に貢献している。
新型コロナウイルス感染症拡大を背景に、非接触の入退室管理の需要が高まっている。6月にSAFRバージョン3.5が公開された。アルゴリズムを改良し、マスク着用時の顔認証、マスク自体の検出を可能とした。写真などによる「なりすまし防止機能」も新たに搭載された。現在、世界では数社が同機能を実現している。
データと情報通信技術(ICT)を活用したデジタル変革(DX)の取り組みにも注目が集まる。都市部のみならず地方都市でも、DXに向けた取り組みが始まっている。高松市の三宅医学研究所は、4施設の入り口5カ所にSAFRを用いた開扉・解錠システムを導入している。
職員の出退勤管理や併設する保育施設への入退室管理など、セキュリティー強化を図る。受け付けでは対人接触回数を減らすため、診察券提示などのデジタル化や、マイナンバーカードとの連携も予定している。
(2021/7/13 05:00)