(2021/9/10 05:00)
メトロ電気工業株式会社 企業紹介
メトロ電気工業は1913年に白熱電球の製造を目的に創業し、暖房用機器などへ事業領域を広げてきた。現在の主力事業である、こたつヒーターユニットの国内シェアは8割を超える。2005年に高純度カーボンの薄板を独自技術でフィラメントに加工した高出力の赤外線カーボンランプヒーター「オレンジヒート」を開発した。これを組み込んだ金型用加熱器は従来のガスバーナー式に比べ大幅な省エネ化を実現し、省エネ大賞「資源エネルギー庁長官賞」を受賞した。産業用加熱機器の市場は大きく電気加熱は有望な市場であり、近年では自動車鋳造、塗装、プラスチック成型や、食品分野等で市場を広げつつある。
世界がカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)へかじを切った。日本も2050年の達成に向けグリーン戦略を策定、国家戦略として脱炭素の取り組みを急いでいる。メトロ電気工業(愛知県安城市)は、約2000℃まで温度を上げられる電気ヒーター管を開発。熱利用する製造工程の電化による省エネ、脱炭素を後押しする。川合誠治社長に電気ヒーター管の特徴と活用例、脱炭素に向けた取り組みを聞いた。
(聞き手 執行役員 名古屋支社長 大崎 弘江)
―電気ヒーター管を産業用に広く応用し「電熱革命」を起こしました。
電気ヒーターといえば、ニクロム線などの発熱体を酸化マグネシウムなどで絶縁し金属管で覆う「シーズヒーター」が主流で、この実使用温度は、通常600℃程度でした。当社は2005年にカーボンフィラメントを不活性ガスにより石英ガラス管に封入した赤外線カーボンランプヒーター「オレンジヒート」を開発しました。この「オレンジヒート」は約2000℃まで出力を上げられるため従来、ガスでしかできないと言われていた高温加熱工程で電気ヒーターを使えるようになりました。
―電気を使う利点はどこにありますか。
一番大きいのは安全性です。ガス漏れもないし、不完全燃焼の心配や排ガスの処理もいりません。密閉空間でも使えますし、温度制御も簡単です。スイッチ一つで温度設定ができ、短時間で設定温度に加熱ができます。ヒーター管の配置と制御により、加工物の四隅だけを加熱したり、時間差で温度を下げたりすることも自在にできます。
―すでに自動車メーカーの工場でも採用されたそうですね。
金型を予熱する装置に採用されました。鋳造工程で、生産を始める時間の1時間前にタイマーをセットしておけば、金型が設定した温度に加熱されます。従来はガスを使用しており、生産を開始する時間までに金型を加熱しておくには、温度計を見ながらバーナーを調整する熟練者の作業が欠かせなかったそうです。それに比べ「オレンジヒート」を活用した加熱では、作業が簡単で、金型の劣化やひずみも減り、メンテナンス費も大幅に減ります。金型を均一に加熱することで成形後のひずみも少なくなり、導入していただいた工場では歩留まりも改善しました。
―電熱を使うという点で脱炭素に貢献しますね。
従来カーボンヒーターは家庭用電気ストーブとして広く使われています。産業用としては認知度が低かったため、「電気では低い温度しか出せない」とか、「ヒーターの石英管が割れたらどうする」とか心配の声もありましたが、導入先が増えるにつれこういった懸念も払拭されつつあります。カーボンニュートラルの提唱は追い風になっています。実際、大手企業やハイテクなモノをつくっている企業でもガス加熱を採用している会社が多く、当社の「オレンジヒート」を使えば、多くはカーボンニュートラルに貢献できるはずです。
―カーボンランプヒーターの熱効率はいかがでしょう。
石英ガラス管を使っていますから透明で、赤外線を90%以上透過します。ですからフィラメントのエネルギーを無駄なく活用できます。しかもカーボンは表面が黒くて多孔質な物質なため赤外線が多く照射されるので、タングステンを利用したヒーターに比べ2割くらい熱効率がいいです。製品自体も石英ガラス管とカーボンが主部品であり、製品そのものの環境負荷も低いと考えています。
―対象物に合わせて石英管をL字にしたり長尺にしたりと、顧客の現場に寄り添った設備を開発できるのも強みです。
当社はもともと、こたつの熱源に使う赤外線電球などの特殊電球が主力でしたから、部品メーカーなのです。しかし、ヒーター管単体での提供ではお客さんにその良さを理解されにくかったことから試作機を作りデモを重ね電気ヒーターの有効性をPRしてきました。いまではヒーター管の設計製造のみならず、装置の板金加工、制御装置も社内で手がけています。これからはエンジニアリング企業を目指し、お客様のニーズを具現化する総合的力をつけていかなければなりません。今後は今まで以上に社員の能力を高め、技術力、提案力を高めて行きます。
―これから採用事例は増えそうですね。
食品関係にも広げられそうです。中華料理店向けに鍋をガスではなく、電気で加熱するレンジを開発しました。ガスレンジの出力である20000キロカロリーを単純に電気のワット数に換算すると約23キロワットになりますが、当社では高効率な「オレンジヒート」を活用することで出力を半分以下の9キロワットで制作することができました。実際に料理人の方に来ていただいて試験をしたところ、使用エネルギー量が半分以下なのにガスコンロより熱が強く感じるほどで、使い勝手は悪くないとのことでした。効率的に鍋底に赤外線が当たるようにすれば、さらに省エネになり、調理環境も改善されます。また、コーヒーの焙煎(ばいせん)に使えないかとの引き合いもあります。今はドラムに600℃くらいの熱風を入れて焙煎しているそうですが、「オレンジヒート」を活用し、直接豆に熱を当てて、最初はゆっくり、最後は急激に温度を上げるようなやり方をすれば、新しい焙煎の仕方になるのではないかと考えています。
―御社の工場ではカーボンニュートラルの取り組みはされていますか。
生産工程でのゼロカーボンも進めて行きます。ガスと電力を使っていますのでゼロカーボンに向けて色々な可能性を探っていきます。例えば工場ではすでに一部、水素も使っていますので、利用拡大や、導入済の太陽光発電の容量を大きくすることなどを検討して行きます。さらに従業員の省エネや省資源などへの意識改革や行動変容への取組なども含めて、ゼロカーボン社会実現への貢献に加えSDGsの取り組みも加速していきます。
(2021/9/10 05:00)