(2021/9/17 00:00)
松井製作所は樹脂成形機の金型に磁石で取り付けるだけでメンテナンス管理ができる端末「スマート・ショット・カウンタ」を開発した。端末に内蔵したセンサーでショット回数や金型温度などを把握でき、目視作業で行っていた金型メンテナンスの管理を自動化、クラウドサービスを利用するとIoT化も可能になる。成形機に関するソリューション(問題解決)メニューの充実につなげようとする同社の思いを聞いた。
低価格でもMATSUIらしさを重視/導入コストを抑えて普及を図る
開発者に聞く、スマート・ショット・カウンタの優位性
「スマート・ショット・カウンタ」の活用方法とは?
なぜ、IoTなのか。MATSUIが考えるユーザーとの“つながり”
低価格でもMATSUIらしさを重視/導入コストを抑えて普及を図る
ソリューション事業カンパニーソリューション本部営業技術部営業課 井奥健也氏
ソリューション事業カンパニーソリューション本部営業技術部開発課 東條 悟氏
――スマート・ショット・カウンタ(SSC)開発の背景は。
日本の成形業界はIoT、クラウドサービスの導入が進んでいない。成形工場には成形機、取り出し機、合理化装置など種類やメーカーが異なる多くの機械があるからだ。メーカー各社はIoTや通信技術を備えた装置を開発しているが、データの互換性がない。統一した機械を使っているお客さまはほぼなく、古い機械を手入れして長く使う傾向にあり、通信機能を持たない機械も多い。そこにデータ通信システムの導入を持ちかけても、機械の更新から始めなければならず、膨大なコストがかかり聞く耳を持ってもらえない。そこで装置ではなく成形品に密接に関係する金型に着目した。金型は製品に一番近い部分なので、その情報をIoTでつないでデータ取りができればと考え、SSCに結び付けた。
――開発において苦心した点は。
IoT化の入り口になる製品として、いかに低コストで導入できるかを考えた。従来の金型に取り付けられるショットカウンターは1万円程度。これはプッシュロッド式で金型のショットを物理的にカウントするタイプ。カウント数は作業員が目視で確認し、記録しなければならない。海外製の高機能モデルになると日本円で4、5万円程度。機能的には海外製品と同等で、価格はプッシュロッド式に近いものをということで1万円程度の価格実現を目指して開発をスタートした。結果的に価格を1万2800円(消費税抜き)に抑えることができた。
――機能面での優位性は。
ショット数以外にも金型表面温度や環境の温湿度など、成形に影響を及ぼす可能性のあるデータを取ることができる。既存製品は後から取り付けるというよりも、金型設計時にあらかじめ設置スペースを設けておき、そこにはめ込んで使う必要がある。それに対し当社の製品は磁石で金型に貼り付けて使えることが強みの一つになる。もう一つ、金型のショット数の管理はもちろんだが、金型のメンテナンス時期をお知らせすることで、適切なタイミングでのメンテナンスを促す便利ツールにすることを狙った。成形機でカウントするショット数は当然ながら成形機自体の累積データが表示され、金型毎の管理はできないし、アナログ式のカウンタでは作業員が目視して記録しなければならない。SSCは作業員がいちいち目視する必要がないため、ヒューマンエラーのリスクを大きく削減できる。
――性能面でさらに解決すべき課題はありますか。
開発当初から電源を内蔵するか外部から供給するかで議論があった。お客さまとしては、金型に貼り付けて使えるのがベストということは間違いないが、外部センサーを使ってデータを取得するため、電池式だと電源が切れた場合にデータがどうなるかということを考慮し、USBケーブルによる給電で確実に稼働するようにした。今後は可能であればバッテリー化したいと考えている。
――同ツールでIoT化できるクラウドサービスも用意しています。
IoTシステムインテグレーターのニューラコネクト(東京都品川区)が提供するクラウドサービス「モールドコネクト」につなげられる。端末自体もニューラコネクトと松井製作所が共同で開発し、設計、製造はニューラコネクトが行う。クラウドサービスは成形機10-20台規模の成形現場であれば、月額3万円前後の料金で使っていただける。実際にお客さまには「そんな安いコストで始められるのであれば」と興味を持って話を聞いてもらっている。IoT化が進んでいない業界なので、とにかく手軽に始めてもらうこと、興味を持っていただくことに意義がある。ゆくゆくは同じくニューラコネクトが提供する成形工場全体の管理システムである「ファクトリーコネクト」の導入を視野に入れているが、まずは金型メンテナンスの管理から始めてもらいたい。
金型メンテナンス管理に新提案 後付けで手軽にIoT
9月29日から名古屋市港区のポートメッセなごやで開かれる「名古屋プラスチック工業展2021」。松井製作所は手のひらサイズの新製品「スマート・ショット・カウンタ=SSC」で、金型メンテナンス管理の大きな変革をプラスチック成形の事業者に提案する。
SSCは金型に磁石で簡単に取り付けられるのが特徴。マイコンと複数のセンサーを内蔵し、成形のショット数やサイクルタイムのほか、金型の表面温度や周辺の温度、湿度など加工に影響を与えるとみられる環境情報も収集できる。クラウドサービスと連携するネットワーク拡張性も備え、価格は消費税抜き1万2800円。ネットワーク対応の既存他社製品より低価格を実現した。
SSCは距離センサーで金型の動きを検出してショット数を数える。金型の改造が不要なため、導入済みの金型や、元請けから支給された金型にも容易に導入できる。ニューラコネクト(東京都品川区)が提供するクラウドサービス「モールドコネクト」を利用すれば、収集データをグラフ化して視覚的に数値を捉えられる。離れた場所で使っている複数金型の集中管理も可能だ。
モールドコネクトは金型のメンテナンス管理に特化したクラウドシステムで、金型のメンテナンス時期を知らせるアラーム機能を備える。蓄積しているデータにはPCやスマートフォンからアクセスできるほか、エクセル形式での出力にも対応。ユーザーが自社のシステムでデータを利用しやすくした。
松井製作所は昨年から過去の展示会来場者を対象にSSCの無料試用キャンペーンを展開し、ユーザーの使用感をヒアリングしてきた。キャンペーンにはこれまで180社ほどから申し込みがあり、反応は上々。更なる拡販に向け、手応えをつかんでいる。
IoT促進でソリューション提案を充実
ソリューション(問題解決)提案を重視する松井製作所は、「スマート・ショット・カウンタ=SSC」と金型メンテナンス管理支援システムのクラウドサービス「モールドコネクト」を、ユーザー獲得の新機軸として打ち出した。金型の状態を“見える化”することによって、成形品質向上や生産効率向上のための、より最適なソリューション提案が可能になる。これまで以上に、ユーザーとともに問題解決に取り組んでいく関係を構築していく考えだ。
金型に着目した点は成形機の合理化装置メーカー、松井製作所ならではのアプローチと言える。SSCはショット数だけでなく金型の温度や周辺の環境データも得られる。これらのパラメーターから季節による金型の昇温時間の違いなどが把握できる。金型の温度が安定するまでの間は品質不良の温床。この解決に同社製の温調機や冷温調機などが貢献する。
多くの成形事業者の場合、保有金型は多くて1000型といわれており、規模の小さな現場だとしても100型程度は持っているという。型の多くは元請けからの支給品で改造は困難。ショットカウンターは従来から存在するが、設置には加工が必要なため、“後付け”対応は難しかった。
これに対し、SSCは低価格で金型への加工が不要なため導入が容易。成形機メーカーが用意する管理システムは高額で中小事業者にとって敷居が高かったが、SSCとモールドコネクトによって、「これまでIoTを意識してこなかった成形事業者にも利用を促せる」(ソリューション本部営業技術部営業課井奥健也氏)。
松井製作所は原材料・水・エネルギーの消費を2分の1にする一方、生産量の増大と製品の付加価値向上により企業の豊かさを2倍にすることで、資源生産性を4倍にする「factor4」の考えをグローバルに呼びかけている。近年、賛同する企業との共同開発にも力を入れ、すでにイタリアのフリージェル社と冷温調機「MCX2」を製品化した。
今回のSSCはIoTシステムインテグレーターのニューラコネクト(東京都品川区)との共同開発で、ニューラコネクトはクラウドサービスのモールドコネクトも提供する。ニューラコネクトは国内企業ではあるが、志を同じくする企業として取り組みを進めてきた。両社は金型のメンテナンス管理を手始めに、工場全体の管理を視野に入れたサービス展開のロードマップを描いており、今後も工場の自動化分野で連携を深める。
株式会社松井製作所
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