DXで加速する企業変革 旭化成の戦略【PR】

(2022/2/3 05:00)

 モノづくり日本会議は9月27日、モノづくり力徹底強化検討会として久世和資旭化成常務執行役員デジタル共創本部長による「DXで加速する企業変革 旭化成の戦略」と題する講演会をオンラインで開催した。同社が3年前から取り組み始めたデジタル変革(DX)について、今春設立した「デジタル共創本部」など全社を挙げた取り組みを例に紹介した。

旭化成 常務執行役員デジタル共創本部長 久世 和資 氏

蓄積データ最大限に活用

 旭化成で取り組んでいるDXで加速する企業変革について、事例を交えて紹介したい。当社は「マテリアル」「住宅」「ヘルスケア」の三領域で事業を展開しており、多角的・多様な事業を持っていることが大きな特徴である。来年には100周年を迎える当社は、「世界の人びとの〝いのち〟と〝くらし〟に貢献する」ことをグループ理念とし、持続可能なサステナビリティ社会への貢献を目指している。事業戦略としては、事業ポートフォリオの転換、新事業創出、多様な人材・働き方、コア技術、市場・顧客との連携を進めており、その基盤となるのがサステナビリティのマネジメントとDXの活用だ。

 当社でDXを進める上で重要な成功要因となるのは「人」「データ」「組織風土」の三つだ。デジタルの専門家だけでなく、現場の業務に精通した社員も、デジタル技術を正しく理解し、ある程度使いこなせる必要がある。また、現場や社内で蓄積された豊富なデータは貴重で、それらのデータを最大限に活用することにより、事業変革や新規事業創出につなげることができる。デジタルによる変革を社員全員でリードするような組織風土も重要だ。

ロードマップ

 当社では5年以上前からデジタルのプロジェクトを推進してきた。DX推進のロードマップの第1フェーズは、「デジタル導入期」で、研究開発と生産・製造の分野に少数先鋭のチームを立ち上げ、現場と共にデジタルを推進してきた。現場に密着し、研究所や工場の実業務で具体的な成果を出し、現場の信頼を得ながらデジタルの導入を進めてきた。さらに、各現場でデジタルやITを活用できるデジタル専門人材を育成するプログラムを作り、人材育成も強力に推進してきた。

 第2フェーズの「デジタル展開期」は、ある事業部の業務での成功事例を別の事業部に展開したり、事業軸のバリューチェーンとして横串を通すことを目指している。その次が、「デジタル創造期」で、デジタルを活用して、ビジネスモデルを変革したり、新規事業を立ち上げたり、無形資産の価値化を進める。最終フェーズは、「デジタルノーマル期」で、社内の全ての部門で、デジタルが当たり前になり全社員がデジタルやITを活用している時代である。

 デジタル導入期での取り組み例の一つに、材料の研究開発のスピードを革新する「マテリアルズ・インフォマティクス(MI)」がある。原材料や添加剤の材料データや実験データ、プロセスデータなどを機械学習することにより、要求された性能を満足する材料の候補を絞りこめる。その結果、従来型の実験と評価を繰り返す材料開発に比べて、数十倍の開発効率を出すことができる。MIは省燃費性や耐摩耗性など多数の性能が要求されるタイヤの新規グレードの開発や、ウイルス除去フィルターに使われる中空糸の開発製造など、幅広く材料開発に活用されている。

 生産や製造の分野では、外観検査や品質管理に、AI(人工知能)や画像の機械学習を活用し、自動化や高度化を進めている。

また、当社は、水素を製造するアルカリ水電解システムの技術や製品を持っており、福島県浪江町で太陽光による世界最大級10メガワットの(メガは100万)水素プラントを稼働している。この水素プラントの運転や監視は、デジタルツイン技術により、遠隔で実現できる。工場をデジタルツイン化することで、海外工場の運転や保守もリモートで実施できる。工場の生産ラインの異常についての予兆検知も、データを活用することにより高度化や自動化が進んでいる。繊維製品の触り心地などの官能検査に、脳科学を使うことも実証を進めている。

専門人材

 研究開発や生産製造の現場で活躍できるデジタル専門人材の育成にも数年前から力を入れている。日常の業務で使っている言葉や題材を使って、教材をオリジナルに作成し、データサイエンス人材とデータ分析人材を育成する。メンター制度も活用し、中級以上は現場の実課題を解いてもらう。そのための共通プラットフォームも開発し提供することにより、必要なデータやAIの機能が使いやすくなっている。中級と上級の専門人材は、本年度末に、230人を目標にしている。最近では、営業や企画管理のメンバーのデータ分析人材育成も始めた。

 デジタル展開期としては、DXを加速するために、昨年4月1日付でデジタル共創本部を設立した。さらに、基幹システムの開発運用や全社セキュリティなど推進するIT統括部、MIなど研究開発のDXを担当するインフォマティクス推進センター(IFX)、生産製造のDXをリードするスマートファクトリー推進センター(SFX)の3つの既存組織を本部下に統合した。また、営業やマーケティングのDXを受け持つCXテクノロジー・センターと、「ガレージ手法(後述)」を全社展開する共創戦略推進部を新設した。

デジタル人材4万人育成

多様性を活用

 デジタル共創本部のミッションは、当社の特徴である多様性を活用して、複数の事業部の壁や企業の壁も越える「共創」によって、ビジネスモデルや事業を変革することだ。営業・マーケティング、研究・開発、生産・製造・物流、保守・顧客支援といった事業バリューチェーン全体にデジタルを活用することも、デジタル展開期の目標になっている。

 一部の社員や組織にデジタルのスキルがあるだけでは、デジタルの展開の加速は難しい。4月から全社員を対象にしたデジタル人材4万人育成を進めている。このプログラムには、世界中で利用されているスキルのデジタル認証の仕組みであるオープンバッジを採用している。その教材は独自に開発し、eラーニング上で、全社員が学習できるようになっている。受講社員が、教材の最後にあるテストに合格すれば、オープンバッジを発行される。

デジタル技術の基礎であるレベル1から専門知識のレベル5までの段階的な習得ができるもので、現在海外を含む4万5000人の社員全員が2023年度末までにレベル3となることを目指している。この教材とオープンバッジは、当社従業員だけでなく、将来は、他社の社員や学生にも使ってもらえるように、公開予定である。

  • 旭化成2021年度経営説明会資料より抜粋

 またDXを進める上では、必要なデータを迅速に見つけたり、データの属性がチェックできたり、新たに開発したアプリケーション(応用ソフト)やツールに手軽に利用できことが必須となる。そのためのデータマネジメント基盤の検討を進めている。

 デジタル創造期では、顧客視点の考え方である「デザイン思考」と繰り返し試作する「アジャイル開発」を推進するために、共創戦略推進部を新設した。両方を合わせて「AKガレージ手法」と呼んでいる。

ガレージ手法

 「AKガレージ手法」でいうガレージは物理的な場所ではなく、さまざまな組織から集まった多様なメンバーで、デザイン思考とアジャイル開発を実施する仕組みだ。多様なメンバーでの共創が大切で当社社員だけでなく顧客やパートナー企業なども加わるケースもある。これまで10以上のガレージが実施され、新しい事業開発も進めている。これと併せて東京・田町に新たに設けた「CoCo-CAFE」は共創の場として活用されることを期待している。

 「ガレージ手法」を使った取り組み一例としては、サーキュラーエコノミーのデジタルプラットフォーム「BLUE Plastics(ブルー・プラスチックス)」がある。ブロックチェーンによるプラットフォームで、プラスチックのリサイクル証明が利用でき、消費者から回収されたプラスチックのその後の移動や加工の様子が見られるようになる(旅するプラスチック)。樹脂メーカーである当社だけでなく回収企業や成型加工メーカーなど、多くの企業や自治体が加わり業界を超えたエコシステムの共創を目指す。今後広くメンバーを募り、樹脂の種類や用途も拡大していきたい。

 これから先のデジタルノーマル期に向けたビジョンである「DXビジョン2030」も策定し、デジタルの力で境界を越えてつながることを目指す。これからは企業や業界の壁を越えて連携し価値創造をやっていくことが重要だ。

(2022/2/3 05:00)

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