(2022/8/30 00:00)
NTTデータザムテクノロジーズ(XAM 〈ザム〉、東京都港区)は、3Dプリンティング(Additive Manufacturing=AM)に関するデータと製造ノウハウの蓄積を加速する。同社は産業用3Dプリンターの販売、部品開発・製造の大手。8月末までにAM装置18台と先端の検査装置を完備した研究開発拠点を新設した。大量の造形と造形物の徹底した品質検査を通じ、使用材料から設計、加工条件、品質保証までの「最適解」を確立する。AM普及による国内製造業の高度化を念頭に、新拠点で蓄積した知見を顧客に還元する考えだ。
変数モニタリングと試験片分析でプロセス保証
今夏、本格稼働を始めたAMの研究開発拠点「デジタルマニュファクチャリングセンター」(DMC、大阪市西淀川区)。XAMが約10億円を投じ、約3400平方メートルの敷地に整備した。35人のAMエンジニアが在籍し、受託製造、基礎研究、ソフトウエア開発などを行う。
内部には産業用3Dプリンターの世界大手である独EOSの装置が並ぶ。主力はEOSの戦略機種である11台の中型機「EOS M 2」シリーズ。API連携で造形に関わるデータ取得が可能だ。XAMは、レーザー出力値、機内の酸素濃度・湿度、ガスフローといった品質に影響を及ぼす重要な変数(パラメーター)を常時モニタリング。「造形プロセスを可視化している」(水沼憲一XAM社長)。
さらにDMCの新設に合わせて分析装置を増設し、品質保証体制を強化した。最終アウトプットである造形物の3D測定はもちろんのこと、これとは別に造形時には使用材料の粒度分布や流動度、酸素・窒素などの分析、試験片による強度や密度などの測定を行う。こうして得た分析データと造形中のモニタリングによるデータを突き合わせ、後工程の検査や試験では保証が難しいAMの品質を、製造工程で保証している(プロセス保証)。高い品質をかなえる条件に設定することで安定した品質の造形物ができる。
デジタルデータをソフトウエアに
XAMが高度な品質管理体制を整えたのは、品質保証がAM普及の課題に挙げられるからだ。世界のAM市場は年率15-20%で成長している。ところが、日本の金属AM市場は成長が鈍く、世界に大きく後れをとっている。設計の自由度が高まり機能向上につながる利点を理解しつつも、今ある高い製造技術から工法転換することに慎重だ。中でも品質に関し、検査、保証が難しいという側面がある。AMは材料粉末をレーザー照射で溶解し固めるため、溶解面を外から確認できない。CTスキャンやX線などで検査する必要があり、負荷が増大してしまう。
そこで期待されるのが前述したプロセス保証だ。プロセスのモニタリングで複雑形状の部品であっても検査の負荷を軽減できる。酒井仁史CTOは、自社の徹底した品質管理をベースに、「AMにおけるプロセス保証の標準を確立したい」と話す。XAMがこれまでに収集した品質に関するデジタルデータをソフトに落とし込み、そのソフトをユーザーが使えるようにする考えだ。ユーザーは造形した製品を品質保証する上で、実績に裏打ちされた指標をソフトから得られるようになる。
AMはまだ高価な技術で、品質と並んでコストがAM導入の大きな課題だ。とはいえ、宇宙・航空関連や医療関連など高付加価値のモノづくりでは経済合理性が認められ、受注が拡大している。XAMは次世代基幹ロケット「H3」のエンジン部品の開発に、JAXA、三菱重工業と関わった。約500部品を1部品に集約し、コストと重量を削減した実績がある。
ノウハウを顧客へ積極移転
DMCの完成で受託造形の受け入れキャパシティーが増した。ただ、水沼社長は「受託事業を拡大するのがDMCの目的ではない」と念を押す。DMCの設備力を存分に生かし、AMに関する高度な技術、知見を蓄積。「ノウハウを積極的に顧客へ移転する」ことで、適用領域を拡大しながらAMを普及させる考えを強調した。
将来的には、品質保証や製造ノウハウの提供にとどまらず、AIを活用した最適な造形条件の支援など、さまざまな機能の提供も視野に入れている。日本の緻密なモノづくりが、AMにおいても世界で競争力を発揮できるよう、新手を打ち続ける。
(2022/8/30 00:00)