(2022/10/17 00:00)
企業経営にとっての大敵が不確実性だ。2022年はロシアによるウクライナ侵攻によって原材料高や円安が進行し、出口はいまだに見えない。資源が乏しい日本では原油などの価格変動リスクは常に付きまとってきたが、これまで以上に不確実性が高まっている。果たして、経営者はどう向きあえば良いのか。ファイナンシャルプランナーで中小企業の資産防衛にも詳しい三次理加氏に聞いた。
三次 理加
ファイナンシャルプランナー CFP® 認定者
ラジオNIKKEI第一「ファイナンシャルBOX」、BSジャパン「マーケットウィナーズ」に出演、「夕刊フジ」「証券タイムズ」にコラムを執筆するなど商品市況コメンテーターとして活躍。結婚後、FPとして独立し、執筆、講演を中心に活動。2012年に経済産業省・産業構造審議会・商品先物取引分科会委員を務める。主な著書に『ネットで簡単!リカがやさしく教える商品先物 超入門』(柏書房)、『商品先物市場のしくみ』(PHPビジネス新書)などがある。
価格変動リスク―経営から解放
調達コスト上昇 利益が出ない
―事業コストの増加に頭を悩ませている経営者も多いと聞きます。
『売り上げは伸びているのに、原材料価格も上がっているから、利益がほとんど出てない』という声は私の周りにもあります。実際、東京商工リサーチの調べによると原油・原材料価格の高騰によって、企業の8割超で調達コストが増加しています。一方、価格転嫁は難しく、約5割の企業が価格転嫁できていません。
原油高値圏 コスト重く
―価格転嫁は難しくても、原油・原材料の高止まりは続きそうですね。
対ロシア制裁は世界的なエネルギー不足に拍車をかけ、原油価格も高騰しました(グラフ)。足元の原油価格は、世界的に景気が減速するとの懸念も強く下落傾向にはあります。ただ、年初よりは高い水準で推移しているし、石油輸出国機構(OPEC)プラスも減産を打ち出しています。高値圏で上下に振れやすい展開が続くのではないでしょうか。
日本は原油をほぼ100%輸入しているので、外部要因を受けやすい構造にあります。今ならば、円安の加速もコストの押し上げ要因として働きます。ロシアのウクライナ侵攻や円安の出口が見えにくいこともあり、原油・原材料のコストが企業に重くのしかかる時期が続くでしょう。
ヘッジ取引―仕入れ価格 固定化
相場変動 影響抑える
―外部環境が生み出すコスト高に経営者はどう向き合えば良いのでしょうか。
経営者がもっとも嫌うのが不確実なリスクです。企業のリスクには天候や災害など純粋にコストや損失につながる『純粋リスク』と、利益、損失のいずれにもつながる『投機的リスク』があります(図1)。原材料高や在庫が後者にあてはまります。特に原油は価格変動リスクが大きく、値動きの激しさは調達コストを不安定にさせ、多くの企業で経営上の避けられないリスクになっている。ただ、リスクはゼロにはできないが、抑えられます。その有効な手段がヘッジ取引です。
ヘッジ取引は相場変動を回避する目的で行われる取引です。買いヘッジの場合、価格上昇リスクにさらされている取引(=ヘッジ対象)と、同じ価格変動をするもの(=ヘッジ手段)を買うことで、相場変動による影響を相殺して、価格変動リスクを回避します。『仕入れ価格を固定化できる』のが最大のメリットで、経営者に活用いただきたいです。
原油ETFでリスクヘッジ
―「仕入れ価格の固定化」は実現できれば経営者としては非常に便利ですね。ただ、イメージがわかない人も多いはずです。具体的な商品を使って、どのように活用すれば良いのかを教えていただけますか。
原油高対策としては東京金融取引所に上場している『原油ETF証拠金取引』が非常に便利です。『くりっく株365』に参加している証券会社に口座を開けば取り引きできます。例えば図2は事業者である漁船の船長が『原油ETF証拠金取引』を活用した事例です。船長は年間の燃料代が800万円で、半年後に年間の半期分の燃料代400万円の購入を検討しています。ただ、原油価格の高騰を懸念しており、同商品を使って価格上昇リスクをヘッジしました。これによって、原油価格がいくら上がろうが下がろうが、半期の燃料代は400万円で購入できることになります。『原油価格が来月上がったらどうしよう』、『円安がこれ以上進んだら、燃料代はどうなるのだろうか』と悩む必要がなくなります。
仕入れ価格を固定化できれば、中期の事業計画も立てられ、利益も計算できます。もちろん、ヘッジ商品を買うことで、原油価格が下落した場合には、原油購入代金は安くなる一方でヘッジでは損失が生じるので、機会損失はあります。ただ、経営者にしてみれば、相場の運任せの経営から解放されるメリットの方も大きいでしょう。また、ヘッジ商品はレバレッジが効くので取引金額に必要な証拠金(おおむね15分の1から30分の1。基準となる証拠金額は東京金融取引所が週次で見直すため、レバレッジは変動する。)があればよいでしょう。事例の場合は必要な証拠金は約30万円になります。
損失防いで安心もたらす
―ただ、証拠金取引を現実的な選択肢として感じられない経営者もいるはずです。
証拠金取引と聞くと『損失がどこまでも広がるのでは』と心配しがちだが、原油ならば価格変動局面での『価格変動リスクの回避』という目的で活用する方法もあります。先ほどの図を見ても、買いヘッジでヘッジ商品の損失が広がる時は、現物の仕入れ価格はその分だけ安くなります。原油価格が想定より下がれば証拠金取引では損失が出るが、実際の燃料の購入費も下がります。ヘッジ商品だけ見れば損失だが、全体で見れば減殺されて、『仕入れ価格の固定化』という目的は達成できます。
ヘッジは経営者にとって恐怖ではなく、むしろ安心をもたらす大きな武器だと思います。正しく使えば、価格変動という自力では対処できないリスクを小さくしてくれます。日本では原油価格と無縁の商売はほとんどありません。ビニールハウスで野菜を栽培する農家、漁船を操る漁師、そしてバスやタクシーなどの交通会社は燃料価格の上昇がダイレクトに経営に影響します。そうした事業者にヘッジ取引を正しく理解して使ってもらいたいです。日々の経営が価格変動リスクから解放されることで、本業に集中でき、よりよいサービスや商品の提供にもつながるでしょう。
くりっく株365の「原油ETF証拠金取引」の価格は、原則、原油相場と連動しますが、相場の状況等によっては想定していた価格で取引ができないなどの不利益を被る可能性があります。また、予想に反して、原油価格が下落した場合は、原油(現物)の購入価格が安くなる一方で、「原油ETF証拠金取引」による損失が発生します。取扱会社が定めるロスカットルールに抵触した場合や、年に1回のリセット日には、既存取引が自動的に決済されます。くりっく株365は相場の状況等により、差し入れた証拠金以上の損失が発生する可能性があります。取引をされる場合は取扱会社から交付される契約締結前交付書面等の内容を十分理解した上で、ご自身の判断で取引を行ってください。
原油ETF証拠金取引の活用のご案内
(2022/10/17 00:00)