産業春秋／梨泰院の惨事

韓国政府は１１月１日から、日本人などを対象に査証（ビザ）なし入国を全面再開する。インターネットで電子旅行許可（Ｋ―ＥＴＡ）を申請する必要があるが、航空便も増加傾向にあり、往来が活発になりそうだ。

そんな矢先に飛び込んできた痛ましいニュース。ソウル市の繁華街、梨泰院（イテウォン）でハロウィーンを前に多くの若者が、転倒事故の犠牲になった。

韓国の人気ドラマ「梨泰院クラス」の舞台としても知られるこの街。米軍基地と隣接していたこともあり異国情緒や多様性にあふれ、コロナ禍前のこの時期は、街全体が人で埋め尽くされた。

ドラマでも仮装した群衆に溶け込む主人公が切なく描かれる。そんな街を実際に訪れてみたいと、渡航再開を待ちわびる人が少なくなかっただけに、今回の惨事はひとごとと思えない。

３年に及ぶコロナ禍は、とりわけ若い世代に影を落とした。多感な時期に人と交わることを制限され、可能性を封印し、時ばかりが過ぎていったのではないか。今回の惨事は、ようやく社会がかつての姿を取り戻しつつある中で、これまで抑圧されてきたエネルギーが不幸な形で暴発した結果のように感じられ、やりきれない気持ちになる。