(2022/12/6 00:00)
中小板金加工会社の生産性をデジタル変革(DX)で高める-。自動車業界やロボット業界中心にITコンサルティングを推進する豆蔵(東京都新宿区)は、中小規模の板金加工会社専用のサブスクリプション(サブスク、定額制)サービスに乗り出した。「見積作成」「製造支援」「ダッシュボード(データ解析・グラフ表示)」「設備点検」の4つのアプリを2022年11月1日に投入した。エフエーサービス(横浜市緑区)のレーザ溶接事業を豆蔵へ移行し、新たにレーザ溶接ロボットシステムのサービスを提供するなど、板金加工業界への取り組みを強化中の同社。 工程集約が難しい板金加工ならではの非効率や人材不足、熟練者依存といった課題を解決しようとしている。
「板金加工は機械加工に比べて効率化のハードルが高い」。豆蔵のレーザロボットシステム部の宮島弘之部長はそう話す。日独の板金加工機大手出身の宮島部長は、工場経営者の悩みを長年聞いてきた。板金は切断、曲げなどと工程が分散している上、多品種少量生産が基本。熟練者の手作業に頼る工程もある。さらに中小企業が多く、作業者やIT人材は恒久的に足りていない。結果、多くの非効率が生じ、収益を圧迫している。
こうした板金業界特有の課題を解消し業務を効率化しようというのが、豆蔵のサブスクサービス「FANDX(ファンデックス)」だ。国内にある板金加工会社2万5000社のうち、7割にあたる従業員数20人からの中小規模事業者を念頭に開発した。高度なIT人材がいなくても使いこなせる設計だ。22年11月から後述する4つのアプリを提供しており、必要なアプリのみを利用できる。料金を月額制として、大きな投資が要らないのも特徴だ。
4つのアプリのうち、「見積作成アプリ」は納期や部品の種類、数量、使用する加工機などを入力、またはプルダウンして選ぶと金額が自動算出される。材料費や電気・ガス代などの原価データと確保したい利益を予め設定しておき、熟練者でなくとも精度の高い見積金額を抽出できる。板金業界では顧客から指し値で発注されるケースも多くあるが、顧客に提示された金額で利益が出せるのか否かを容易に判断できる。
入力項目を「当社の営業や業界経験者の知見を生かして厳選した」(麻生正樹技術コンサルティング部主幹コンサルタント)ことで、入力のわずらわしさを極力排除した。麻生氏は加工機メーカーやソフト会社で板金用CAD/CAM、工場自動化ソフトなどの開発に従事してきた。
「見積作成アプリ」で入力したデータは、「製造支援アプリ」とシームレスに連携する。見積作成アプリのデータを生かし、作業指示書をほぼ自動で作成。わざわざ指示書をイチからつくる手間を省けるのが利点の一つだ。
また、指示書は現場のオペレーターが持つタブレット端末などのデバイスに表示される。作業中に納期をはじめ指示内容が変更された際には端末に直ちに反映される。各オペレーターが作業の進捗を画面上のボタンや作業指示書のバーコード読み取り、さらには音声コントロールなどで簡単に通知することができる。工場管理者は工場全体の作業状況を俯瞰的に、かつリアルタイムに把握することが可能になる。
つまり、これら2つのツールは、コスト業務となる見積作成や作業指示、前段取りなどの加工前の業務を中心に効率化し、収益を最大化するためのツールだと言えるだろう。
「ダッシュボードアプリ」は経営指標を自動でグラフ化しわかりやすく表示するアプリだ。営業所や取引先ごとの売上高や粗利益、予算の達成度などを抽出し、見える化する。ほかにも仕入れ費用、見積のヒット率なども把握できる。
最後はISO業務や予防保全に役立つ「設備点検アプリ」だ。設備に付けたQRコードを作業者がタブレット端末などで読み取ると、点検作業内容が表示される。実行済みと未実行の点検項目を一覧で示すなどで点検漏れを防ぐようにした。
コロナ禍や地政学リスクの高まりを経験し、産業界を取り巻く環境は大きく変わった。企業の競争力を維持・向上するのにDXは不可避だろう。宮島、麻生両氏は「板金業務に明るい人材と、当社の既存事業であるAI(人工知能)・ソフトウェアに強い人材が結束し、板金加工の経営課題解決に貢献したい」と意気込む。
(2022/12/6 00:00)