(2024/1/31 00:00)
カーボンニュートラル社会をいかに構築するかは、産業・社会が共通して抱える課題だ。特に産業機械や装置の動力源となるモーターの消費電力は、日本の総電力消費量の55%を占めるほど大きい。そこに切り込むため、モーターそのものの高効率化とインバーター制御の導入加速が期待されている。東芝産業機器システムは効率規格で最高レベルの新モーターとインバーター制御技術のセット提案をスタートしている。
同社が開発した「シンクロナスリラクタンスモータ」は、効率規格で最高レベルとなる「IE5」のウルトラプレミアム効率を達成している。モータドライブ事業部を統轄する川上正行取締役は「5年前から試作開発していたが、カーボンニュートラルに向かっていくスピードが加速する中、今こそこのモーターが求められている」とし、量産体制の準備に入っているという。
モーターの効率レベルは国際電気標準会議(IEC)で規定されており、世界各国で普及する製品を決める効率規制が行われている。現在、日本で普及する汎用モーターは、2015年に開始した規制で「IE3」レベルであり、対象の出力0・75キロワット~375キロワットでは出荷台数の7割程度が従来のIE1から置き換わっているとみられる。同製品はこのIE3からさらに2ランク上位に位置し、そのまま置き換えができる仕様になっている。IE3と比べ、30%の損失低減が図れる。
「新モーター+インバーター」セット提案
では、なぜこうしたこれまでにない高効率を実現できるのだろうか。シンクロナスリラクタンスモータは、モーターの基幹部品である回転子部にレアアースの永久磁石を使用していない。回転子部には電磁界解析技術を駆使して形成されたスリット形状を最適化することで、発生する損失を極小化している。レアアース(希土類)は電気自動車(EV)の普及とともに供給リスクが懸念される。川上取締役は「今後のIE5普及拡大期を見据えて、材料入手に心配のない素材で安定供給できる」と説明する。
インバーター 高精度な運転
同社では今回、この新モーターに合わせて駆動用インバーター「VFーS15R」を開発。新モーターと一緒に使ってもらうことで、一歩踏み込んだ省エネ化を提案する。シンクロナスリラクタンスモータの可変速駆動に特化したソフトウエアを搭載しており、なめらかで高精度な運転が可能となる。
ユーザーにとって、モーターの切り替えは初期費用が大きいが、その点に関しては長期的な経済性を鑑みる必要がある。例えば3・7キロワットのIE1モーターから置き換えた場合の試算では、稼働状況にもよるが「導入価格の上昇分を1~2年の運転でペイできる」という。エネルギー価格の高止まり傾向が続くなか、その後のランニングコストを考えれば、使えば使うほどメリットが生じる。
GOOD FACTORY賞 三重事業所が受賞
このモーターを製造する三重事業所は最近、日本能率協会が選定する「第12回 2024 GOOD FACTORY賞」の「ファクトリーマネジメント賞」を受賞している。1938年から産業用モーターや変圧器などの製造を行ってきた。その意味では、日本のモーターの歴史の一部を担ってきたともいえる工場だ。安全、品質、生産性、人財の四つの課題に対して全員参加で人を育てる仕組みづくりなど総合的なマネジメントが評価された。
同社ではこの工場で生み出したIE3を発売してから約10年が経過している。ポンプ、ファン、コンプレッサーといったモーターを搭載する産業機器など数多くの分野で使われている。
川上取締役は「お客さまへの訪問頻度を増やし、カーボンニュートラル社会への前進をサポートしていきたい。まだ導入初期だが、IE3などと同様のボリューム受注があれば量産効果も出せる」と強調する。
世界の効率規制は欧州で一部の75キロワット以上でIE4が進められているが、日本についても同様にIE4への移行が進むものと見られる。それに先駆けて、ユーザーへ積極的な提案で、カーボンニュートラル実現への第一歩を後押しする。
(2024/1/31 00:00)