企業フォーカス/日鉄興和不動産 住宅軸に事業領域拡大

(2024/12/3 05:00)

日鉄興和不動産が事業領域の拡大を推し進めている。主力の住宅事業で販売・サービス体制の強化により競争力を高めつつ、物流施設事業の拡大やホテルの開発・運営事業への参入も果たし、総合デベロッパーとしての存在感を一段と高めている。興和不動産と新日鉄都市開発の経営統合による発足から12年余り。バックボーンが異なる両社の強みが融合し、新たな成長段階を迎えている。(編集委員・古谷一樹)

【注目】デジタル×リアルで販売強化

  • MR体験を活用したマンション販売にも力を注いでいる

日鉄興和不動産は、みずほフィナンシャルグループと日本製鉄グループの流れをくむ総合デベロッパー。主力の住宅事業では、「LIVIO(リビオ)」ブランドを中心とする分譲マンションを供給している。三輪正浩社長が「リビオのブランド力をもっと高めていく」と意気込むように、現在、販売・サービス手法の強化を通じたファンづくりにまい進する。

その一環として9月に実施したのが、リビオブランドの体感・発信拠点「LIVIO Life Design! SALON」のリニューアル。購入検討者判断材料として活用できるように、デジタル技術とリアルの融合を推し進めている。

同サロンでは、複合現実(MR)体験を活用した販売手法を取り入れている。大型発光ダイオード(LED)スクリーンを二つの壁と床に設置しており、物件の間取りを投映でき、階数ごとの眺望もリアルに再現する。

ゴーグル型端末「Apple Vision Pro」を装着して歩くことで、来場者は部屋の間取りや広さ、高さ、家具の配置などをリアルに体感できる。仮想の家具を自分好みの場所に配置するなど、入居後をイメージした使い方も可能だ。

デジタル技術の活用とともに力を注いでいるのが“顧客目線”を意識した販売後の調査。三輪正浩社長が「売ったら終わりではない」と強調するように、竣工から一定期間が経過した物件の入居者に対し、利用状況や満足度を10年以上にわたってヒアリングしてきた。

2023年はアンケートで約1000件の回答を得たほか、社員による訪問調査を約40件実施。同サロンではこれらの声を商品企画「LIVIO IDEAS(リビオアイデアズ)」として、さまざまな設備に取り入れた。例えば収納スペースの棚の位置を生活様式に合わせて変えられる仕様とするなど、便利さや機能性を享受できるように工夫を施している。

さまざまな物件を紹介・販売する場として、同サロンの重要性は今後さらに高まりそうだ。御領原雅士住宅事業本部販売統括部長は「入居以降のサービスもさらに拡充していく」と強調。顧客ニーズにきめ細かく対応する常設拠点として運営していく考えを示す。

【展開】物流施設、地域共生型で実績

  • 「MFLP・LOGIFRONT 東京板橋」

オフィス賃貸とマンション分譲に次ぐ第3の柱へ―。三輪正浩社長が期待を込める通り、Eコマースの需要拡大を背景に、物流施設事業では「LOGIFRONT(ロジフロント)」を旗艦ブランドとして積極展開している。

同社は18年4月に「ロジフロント事業推進部」を発足。成長が見込める分野として、首都圏や中部圏、近畿圏を中心に物流施設の開発に取り組んできた。これまで、「LOGIFRONT越谷I」や「LOGIFRONT尼崎II」など、先進的な物流施設を展開している。

後発組でありながら拡大路線を歩む同事業の象徴的な施設といえるのが、三井不動産とともに開発し9月に竣工した東京都板橋区の「MFLP・LOGIFRONT 東京板橋」だ。約9万平方メートルと広大な敷地に、地上6階建てで延べ面積約25万6200平方メートルと都内最大級の物流センターとしてそびえ立つ。

日本製鉄の製鉄所跡地であるこの土地を取得したのは21年。ただ規模がこれまで以上に大きいため単独での開発は難しいと判断、「オフィスビルなどで共同事業の実績が多くリーシングを得意とする三井不動産との共同開発を決めた」(企業不動産開発本部の加藤由純副本部長)。

テーマに掲げているのが地域社会との共生だ。日本製鉄グループの製鉄所エリアを中心に全国各地で地域再生事業を展開してきたように、MFLP・LOGIFRONT 東京板橋も「地域とウィンウィンの関係」(三輪社長)の拠点に位置付ける。

その考えに基づき取り組むのが、再生可能エネルギーの自治体施設への供給。屋上全面には約1万9000平方メートル、約4000キロワットの太陽光パネルを設置し、自家発電で創出した電力の地産地消を目指す。ニーズに応じて余剰電力を板橋区内の73の区立小中学校に供給し、電力消費量の100%を再生可能エネルギーで賄う「RE100」化にも貢献する。

また敷地内の高台広場は緊急着陸用のヘリポートとして使えるほか、災害時には同施設を支援物資の保管・配送拠点として活用できるなど地域防災への貢献も見込んでいる。

物流施設事業では、国内で積み重ねた実績をテコに海外展開にも乗り出している。九州電力とともに参画した米国の物流施設開発事業を足がかりに、事業強化を目指している。今後は需要動向を踏まえつつ、物流施設の開発だけでなく、危険物倉庫などの産業用不動産事業にも取り組んでいく計画だ。

【論点】社長・三輪正浩氏「成長ドライバーの種探す」

―25年度を最終年度とする中期経営計画の進捗状況は。

「定量的な部分はほぼクリアしている。ただ、スタート時から外部環境が大きく変化しているだけに、数字にはそれほどこだわっていない。むしろ具体的な施策がどれだけ実行されているかのチェックを意識している」

―主力事業であるオフィスビルとマンション販売の状況は。

「大規模ビルはコロナ禍で退去するテナントが生じたことや在宅勤務が増えたことなどにより賃料収入が減少した時期もあり依然厳しい状況だ。一方、都内を中心とするマンションはコロナ禍を乗り越えたと言える」

―今後の需要の見通しは。

「リスク要因の一つは金利だ。国内も『金利のある世界』に変わってきており、消費者の行動がどう影響を及ぼすか注視する必要がある。また高騰が続くマンション価格がさらに上昇するのか、現時点では見通しにくい」

「ビルとマンションの事業で共通しているのは、建築費の高騰。マンションとホテルは高騰分を価格に転嫁して何とか利益を出しているものの、オフィスビルの賃料はそれほど上がっておらず、逆風が吹いている」

―第3の柱に位置付ける物流施設事業をどう強化しますか。

「施設をつくればテナントが入るという状況ではない。需給が緩んでいない場所をきちんと選別し、集中的に狙っていく。東京に限らず、関西や中部地域をもっと攻めていきたい。これまで活用してきた日本製鉄の遊休地が次第に少なくなっており、それ以外の場所も探っていく。(株主である)みずほ銀行とのパイプも生かし、情報をうまく取っていく」

―海外でも物流施設事業を展開します。

「海外初の事業として、米国で物流施設開発事業への参画を決めた。国内と同様に米国でも物流施設に対するニーズは底堅く、さまざまなビジネスチャンスが見込めそうだ」

―今後、力を注ぐ分野や事業は。

「成長のドライバーをきちんと立ち上げるため、いろんなことにチャレンジしたい。25年1月から社内で新規事業のアイデアを募り、不動産事業の延長線上にあるものと、そうではないものの両面で新規事業の種を探していく」

(2024/12/3 05:00)

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